不登校は特に思春期の子どもに多くみられますが、しっかりとした対応がなされていないと二次障害の併発の危険性があるのはご存じでしょうか?今回は、子どもであれば誰でもなる可能性がある不登校と、その二次障害について解説します。
■不登校児童の心理とは?
皆さんは不登校になる前の子どもに前兆があるのはご存じですか?
・朝起こしてもなかなか起きてこない
・起きてきてもボーっとしていて朝ご飯を食べない
・最近イライラしてきた
・何となく元気がない
・じっと何か考えていることが増えた
上にあげたような症状が見られたら、今現在は登校していたとしいても、不登校になる一歩手前、という可能性もあります。
不登校はいきなり始まるものではありません。「ちょっと違うな」という状態が続き、朝になると身体の不調を訴えだし、休む日が1日2日と増えていきます。
そして「今日は」が「今日も」になってしまい、結果的に学校へ行くことができなくなり最終的に不登校となってしまいます。
しかし、不登校児も「休みたくて休んでいる」子ばかりではありません。「学校に行かなくてはならない」と考えているのに、何らかの理由(いじめや勉強についていけないなど)によって、体調不良という形で心がSOSを発している場合がほとんどです。
不登校はこじらせるとこころの病を発症する場合もあります。ほかの子どもが元気に学校に行っているのを見て「自分はダメな人間だ」と感じ、自分を責めてしまいます。
そして、リストカットなどの自傷行為や家庭内暴力、うつ状態、適応障害、パーソナリティ障害、拒食・過食症など様々な二次障害を併発してしまう恐れもあるのです。
不登校に無理解な親は、「学校にはどんなことがあっても行くべきだ」といったような自分の価値観を強要し、無理にでも従わせようとしてしまいます。
そのような対応をとっていれば場合によっては子どもの心が壊れてしまうこともあります。次章では、不登校児に起こりうる二次障害について見ていきたいと思います。
■不登校児に起こりうる二次障害とは?
子どもでも、こころの病にかかることは当然あります。うつ病、統合失調症、不安症候群、パーソナリティ障害、拒食・過食症、適応障害…など、挙げればきりがありませんが、大人と同様、こころを病んでしまうことはあり得るのです。
また、心の問題が複雑になる思春期は、自立の時期でもあります。そんな多感な時期には、友人や家族とのちょっとしたトラブルや思春期特有の悩みなどによって不登校になる子が出てきます。
ここでは、思春期の子ども、特に不登校の子にみられやすい障害について触れてみたいと思います。
不登校の子に限らず、どんな子どもにもかかる可能性のあるこころの病ですが、今回は特に不登校の子がかかりやすい二次障害として
1.適応障害
2.うつ病
3.拒食症・過食症
4.家庭内暴力
の4つに焦点を当ててみたいと思います。
<1.適応障害とは?>
「適応障害」とは、ある出来事や状況がその人にとって大変つらく感じられ、行動や気持ちの面で支障が出る障害のことを言います。
例えば、抑うつ気分により気分が沈んでしまったり、神経が過敏になって些細なことで怒りだしたり泣き出したりしてしまうような症状が見られます。
また「赤ちゃん返り」と言われる退行が見られることもあります。指しゃぶりや赤ちゃん言葉など、親の愛情を求めて赤ちゃんのように振舞います。
環境の変化も要因の一つです。例えば、学校などでのクラス替えや席替え、先生の異動や引っ越しなどによる環境の変化があった際、それが引き金となって適応障害を発症することもあるのです。
もちろん小さな事ばかりでなく、災害や身近な人の死などが本人にとってショックが大きい出来事が原因となることもあります。
適応障害では、個人のストレスの感じ方や出来事も大きな影響を及ぼすものと言えます。症状としては、抑うつ気分、焦燥感、不安など精神的な症状があります。
対応としては、登校を無理強いしないことです。初期の段階であれば、多くの適応障害は、ある程度休息し周りがサポート体制を築いていくことによって改善されていく可能性が高いといわれています。
子どもが悩み相談をしてきたときは、じっくりと聴き、深刻な場合は必要に応じて医療機関につなげることも大切です。
<2.うつ病とは?>
子どもや若者のうつ病では大人の「うつ」に比べて一見「うつ」と気づかないような出方をするのが普通です。
不機嫌で怒りっぽかったり身体の不調を訴える、という形で現れることが多くみられます。朝学校に行く時間になると腹痛や頭痛を訴える等して登校できない日が続き、そのまま不登校に至るという場合も少なくありません。
また家族間の雰囲気が悪いというのも子どものうつには影響を及ぼします。「家族の仲が悪いのは僕のせい」という自責の念から抑うつ気分、自殺念慮、罪悪感や不安感にさいなまれることもあります。
対応としては、普段と変わらない態度で接し、対応にムラをつくらないことが求められます。また、1の適応障害と同じように、たっぷりと休息の時間を設けることも必要です。
また、本人に対して「頑張れ」などという励ますような言葉は禁忌です。本人にとっては、とてつもないプレッシャーになってしまうので要注意です。
<3.拒食症・過食症とは?>
拒食症は、正式には神経性無食欲症と言います。この疾患は、周りから見て「痩せすぎである」というくらいにやせていても、「太っている」と思い、さらに減量を続けることが多くあります。
この状況が続くとどんどん体重が減っていき、場合によっては低体重によって緊急入院に至ることもあります。それでも本人の「痩せすぎている」という認識が薄い場合が多くあります。
こうした本人の考え方は「ボディイメージの歪み」といわれます。これは思春期など自分の容姿が変わってくる時期にも起こりやすいです。「痩せていれば美しい」という認知の歪みが、食事を拒否してしまうのです。
対応としては、これはダイエットではなくコントロールの利かない病気であることを認識してもらうことが大切です。
次に、過食症についてです。正式名称は「神経性大食症」といいます。過食症は、思春期の女子にもよく見られます。
ただ単にたくさん食べる、という場合もありますが自己誘発嘔吐という「食べてから自分で吐く」という行為を伴うものもあります。
過食症は、食べるという行為によって愛情飢餓感や寂しさを紛らわしているともいえます。その為、対応のポイントとしては「食べるという行為=愛情が欲しい・寂しい」という風に理解し、当事者の過食に対して敏感になりすぎず、本人の思いをきちんと受け止めることです。
<4.家庭内暴力>
近年、子どもが親に暴力をふるうタイプの「家庭内暴力」が増えています。家庭内暴力は、ひきこもりや不登校にともなって出現しやすいことが特徴です。
原因の多くは親の過保護・過干渉ですが、それがかえって不登校や引きこもりの人が「プライバシーを侵害された」と感じたり、今の状況から脱出できないことに対しての焦りや不安を掻き立てることになり、暴力につながることもあります。
また、親はひきこもり・不登校の状況にある人の限られた人間関係の中で、一番身近で甘えることができ、一番の理解者だと思える存在です。
そのため、自分の欲求が通らなかった苛立ちや「なんでわかってくれないんだ」という気持ちから暴力にまで発展する、という場合もあります。
これは親に対する「甘え」の代償行為なのです。小さな子がわがままを言ってかんしゃくを起こすように、不登校児・引きこもりの人は暴力という形で自分の不満を爆発させるのです。
また、「不登校になってしまった・ひきこもってしまった」という責任を親に転嫁し、「こうなってしまったのはお前たちのせいだ!」と暴力をふるう場合もあります。
克服のポイントとしては、まず「本人の手足になることをやめる」ということです。本人の言いなりになっていては、いつまでたっても本人は自立できませんし、「甘え」もどんどんエスカレートします。
「自分のことはきちんと自分でやること」を原則に本人と向き合い、親の側にもできることとできないことがあることを理解させるのが大切です。
■不登校児のこころを守るには?
今回は4つの障害についてまとめてみましたが、いかがでしょうか。このほかにも子どもが抱えてしまうであろう障害はまだまだあります。
しかし、親や教師が共同で子どもを見守っていくことによって障害を未然に防ぐことはできると思います。
「いつもと様子が違うな」と感じたら、まずひと声かけてあげてください。親や信頼できる大人が身近にいるということは、子どもにとってとても心強いものです。
不登校の多くの子どもは「愛情飢餓感」を抱えています。毎日「学校に行きなさい!」と叱責されるも、親の期待に応えられず学校に行けない辛さは想像を絶するものでしょう。
また、不登校児が二次障害を併発したときは適切なサポートが必要です。まずはその子の気持ちを第一に、ゆっくり安心して過ごすことのできる場所を作ってあげてください。
思い切って何もかも忘れ、のんびりできる場所を作り、そこでたっぷりと休息をとらせてあげてください。
人は何か試練にぶつかったとき、挫折感や絶望感を味わうこともあります。しかし、それを乗り越えたとき、得るものは必ずあります。
子どもが障害にかかったとしても、いつか乗り越えられる日はくるはずです。その日が来るまで親子共同で治療に取り組んでいってください。親子で試練を乗り越えていくことによって、親子の絆も強まると思います。
(もちろん、障害の治療に当たっては、適切な医療機関を受診し医師の指示を仰ぎながら治療していくことが前提です。)
そして、一番大切なのが「いつもと同じように生活をすること」です。不登校児は、学校に行かない分、昼夜逆転の生活になったりして、生活リズムが乱れがちです。
その為、生活リズムをきちんと整え、いつものように会話をし、余裕があれば(子どもが嫌がらなければ)散歩などをし、決まった時間に食事をとります。
そういった「生活リズムを整える」ということだけでも、メンタルの安定につながります。また親と過ごす時間を増やすことによって、子どもが不登校になるまで見えなかったことが見えてきたりして、お互いが理解し合ういいきっかけにもなるのではないでしょうか。
そのようなことが親への信頼感の回復へとつながり、よりよい親子関係を構築できます。良い親子関係を築くことには、子どもの「孤立感」をなくす良い効果が期待されます。
■不登校児に関する対応まとめ
今回は不登校、またそれに伴う二次障害にまとめてみました。不登校児が必ず障害を発症するわけではありませんが、「こういうこともあるんだ」と理解していただけたら幸いです。
不登校児は孤立感を抱えがちですが、「自分は一人じゃないんだ」「私には親という強い味方がいるんだ」と思えることによって、不登校、またはそれに随伴する二次障害を克服できる一本の道ができるのではないでしょうか。
このコラムを読んでいただいて、不登校当事者が少しでも「学校へ行ってみようかな」と思ってくださったり、また親や教師の方の不登校児への対応の一つとして参考にしていただけたらと思います。
いつの日か元気で、また笑顔でみんなが一緒に暮らせるときが来ることを心から祈ります。
著者もち猫の不登校経験談や不登校への対処法などまとめております♪⇩
著者 もち猫
福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。