「トラウマ」という言葉を一度は聞いたことがあると思います。
過去の嫌な思い出や、怖かった体験の記憶。災害や事故で受けた大きなショック。それを急に思い出したりして、パニックになる人もいます。
筆者であるもち猫も、中学時代に受けたいじめが時々フラッシュバックして、こころが苦しくなります。時には寝込んでしまうくらい強烈なフラッシュバックが起きることも。
このようにトラウマ体験はこころを傷つけ、何年たっても生々しく蘇ることによって当事者を苦しめるものなのです。
筆者はフラッシュバックにより頭痛が生じたり、胃腸の調子が悪くなったり、身体面にも影響が出ています。
あなたにも筆者に似た様な経験があるのではないでしょうか?
今回は、その「トラウマ」とはどんなものか、また自分の心がどうしたら少しでも軽くなるかなどを書いていきます。
■トラウマとは?~PTSDとフラッシュバック~
★トラウマとは?★
自然災害や事故などの記憶であったり、いじめやハラスメントの被害に遭った人で、それが突然思い出されることを「フラッシュバック」と言います。
そして、そのフラッシュバックの原因となる出来事を「トラウマ」と呼びます。
トラウマとなった出来事が起きた場所や人を避けたり、そのトラウマが何回も生々しく思い出され、それが長い期間続いてしまうのが「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」と言われるものです。
(フラッシュバックなど起こる人すべてがPTSDとは限りません)
★PTSDってどんなもの?★
PTSDの症状としては、
1.心的外傷(トラウマ)の原因となった出来事の事が何らかのことをきっかけに生々しい形で思い出される。またそれが何度も繰り返しこころに侵入してきて、不快な思いをする。 今まさにその出来事を再体験しているかのように感じられる。
2.トラウマとなった出来事に関する思い出や記憶、場所、人などを回避する。
3.現在でもその時の恐ろしい気持ちが存在しているかのような感覚に陥る。
などが挙げられます。
また、PTSDの当事者は、トラウマの再体験により、その出来事に対しての不安や悲しみ、恐怖などが蘇り、過覚醒の状態に陥ることもあります。
それによって、交感神経が過敏となってしまうこともあります。それにより、以下の様な症状が現れることがあります。
・睡眠障害(眠れない、中途覚醒)
・神経が過敏になり、イライラなどの怒りがわいてくる
・そわそわして落ち着きがなくなる
・必要以上の緊張状態
・少しの刺激に過敏に反応する
などです。
トラウマに苦しまされる人は多くトラウマとなった出来事や人との接触を避けてばかりいるためにひきこもってしまったり、人間関係のトラブルが思い出されると、人と会うのが怖くなる場合もあります。
PTSDの重症度は、恐怖をもたらすような体験の重症度に応じて増加していくことが知られています。しかし、同じ出来事を経験したからと言って、全員がPTSDを発症するわけではありません。
ストレス脆弱性や、個人の体質・性質だったり、その人が恐怖と感じた度合いにもよります。
■トラウマ反応とは?~心の傷のかさぶた~
トラウマとは、そのきっかけとなった出来事によって負う「心の傷」のことだとも言えます。そして「トラウマ反応」とは、その傷から心を守るように闘っている状態です。上にも挙げた‶再体験〟や‶フラッシュバック〟などには、新たな危険から身を守ろうとする働きがあります。そして‶回避〟や‶解離〟はかさぶたのように、心を守ってくれる働きをするのです。
では、回避・解離が起こっている時、当事者はどのような状態なのでしょうか?
★トラウマからの回避・解離★
解離の症状としては、例えばボーっとした表情をしていたり、刺激への反応が鈍くなることがあります。脳がフリーズした状態です。自分自身で脳をフリーズさせることによって、危険から心を守ったり、これ以上嫌な思いをしなくてもいいように文字通り思考を停止させるのです。また、心を安らげるために自分の信頼できる人を過剰に頼ったりすることもあります。
「とにかく辛い記憶から離れたい!」という思いから‶自分(の意識)を自分から切り離す〟という「解離」の症状が現れることもあります。
この「解離」とは‶自分をもう一人の自分が眺めている〟‶ベールに包まれた感じ〟といった言葉で表される場合もあります。
「自分を自分から切り離す」ことによって、苦しみから解放されようとしているのです。
「回避」としては、そのトラウマとなった出来事や場所、人を避けるようになることをいいます。
トラウマとなったものを避けることによって、こころの安全を維持しようとしているのです。
★トラウマ反応って?★
そして「トラウマ反応」によって起きる症状には、次のようなものもあります。
例えば自分の感情をコントロールできなくなり、自分が辛い時に周りに当たり散らしたり、怒りを爆発させてしまったとします。
すると自分のことを「ダメなやつだ」「なんて勝手な奴なんだろう」と思ってしまい、自分で自己肯定感を下げてしまいます。
また、症状を軽減させるために手を貸そうとしてくれた人にまで怒りをむき出しにして、支援を断ってしまうケースもあります。そして、そのような悪循環を繰り返してしまう自分に対して、さらに低い自己肯定感を持つことになるのです。
そして、トラウマ反応はPTSDの他にも精神疾患を生じさせてしまうこともあります。
うつ病、社会不安障害、様々な恐怖症(対人恐怖、赤面恐怖、醜形恐怖など)です。
特にうつ病では、睡眠障害によって生活リズムが狂い、食欲減退・意欲減退などが起こり得ます。
また、憂鬱な気分から思考回路が悲観的・自責的になってしまいます。これを放っておくと悪化していくことが多く、最悪の場合自殺を図ってしまう人もいるのです。
もしトラウマやストレスなどが原因で精神に不調をきたしている(症状が身体に出ている)場合は、悪化を防ぐためにも早めに精神科や心療内科を受診されることをお勧めします。
■トラウマの治療法は?~EMDRについて~
トラウマ(PTSD)の治療法に、EMDRというものがあります。これは、眼球の運動を行いながらトラウマの元となる記憶を呼び起こし、思い浮んだ記憶(映像や風景など)を医師やセラピストに伝えるといった一連の動作を繰り返すという流れで行われます。
★トラウマの治療に有効。EMDRとは?★ EMDRでは、トラウマとなっている出来事を当事者に思い浮かべてもらいながら、左右25往復くらい、 眼球をリズミカルに動かしてもらいます。(1回の治療で何セット位行うかなどは患者の状態などにより異なります。)
この動作を行っていくと、トラウマの嫌な気持ちが軽減されていき、記憶に対して新たな理解や意味づけを伴うプロセスを経て、「普通の」記憶の一つへと変化させられるのが特徴です。
この方法についてはどのようなメカニズムで効果をもたらすかなどはまだ明確な答えはありません。しかし、EMDRがはじめられた当初から睡眠時のREM睡眠(Rapid Eye Movement)との類似性が指摘されています。
★EMDRは身体感覚や感情にも働きかける★
治療対象となるのは、記憶だけでなく身体感覚や感情である場合もあります。感情や感覚も次第に処理されていき、鮮明な記憶も次第に薄れていきます。
眼球の動きと記憶の間には関連があると考えられていますが、まだ明確には解明されたとは言えません。しかし、比較的短時間で成果を得ることができ、安全な手法であることについては多くのエビデンスが出ているため、トラウマ(PTSD)の治療には活用されています。
こちらはきちんと訓練を受けた主治医などが行う必要があるため、EMDRを受けてみたい!という方は確認をとってから病院を訪れるといいでしょう。
■トラウマ克服に向けて~自分なりのストレス対処法は?~
トラウマとなる出来事と出会うと、そのことに意識を集中しがちになってしまいます。
・また同じことが起こるのではないか
・同じことが起きたらどう対処したらいいのかわからない
この様なことを考えてしまって、外に出るのが怖くなったり、人と会うのが怖くなる人もいるでしょう。しかし、ずっと「怖い」と考えて身動きが取れなくなってしまったら、ひきこもりになってしまう可能性もあります。そこで、自分の考え方を変えてみたり、環境を変えてみるなど、色々と努力することが必要となってきます。
この章では、筆者の体験談も交えつつ、トラウマの元となるストレスへの対処法を書いていきます。
まずは、トラウマとの付き合い方。
トラウマの原因となる出来事と出会った時、自分とどう向き合うかです。上に書いたような「解離」や「離人」が起きている時は、頭がフワフワして意識がどこかにいってしまっているような感覚に襲われることが多いです。
★今・ここは・安全である★
そこでまず「今・ここは・安全である」ということを意識してください。解離や離人が生じている時に、「意識を自分に戻す感じで」考え方を変えてみるのです。
考え方の基本としては
「今日は何月何日で、今いる場所は○○という場所。あれは過去のことで、今は前と一緒じゃない。今いる所は安全で、安心していいんだ」
という風に「今の自分の状況」を詳細に頭の中に浮かべてみます。
とにかく、「トラウマとなった出来事があった時の自分と今の自分は無関係」といったことを強調して考えてみて下さい。そして、「今は安全である」ということを認識できたら、ゆっくり深呼吸をしたり、足や手を少し動かして「今・ここにいる自分」を感じてみて下さい。
また、ストレスを感じた後は日常生活にも乱れが見られやすいです。例えば人と会うことが億劫になったり、食欲がなくなってしまうなどです。そこで、‶自分に起きた変化〟を紙に書き出してみるのも自分の心の状態を知る大ことなヒントになります。
書くことは
・日常生活での変化(食欲・睡眠・家族との人間関係など)
・上記の事項について以前はどうであったか
・今はどうであるか
などです。
心と身体はお互い影響し合っているので、日常生活のリズムを整えていくだけで、心の方も健康的な状態に戻ることが期待されます。
そのため、今の自分の状態をしっかりと把握し、どこをどう変えればよい方向に行くのか考えていく必要があるのです。そのためにも、「今の自分の状態」を書き出し‶視覚化していく〟ことが大切なのです。
自分の心と身体をいい方向へ持っていくには、小さなことから始めればOK!
・決まった時間に食事を摂る(少量でも)
・家族や友人と少しだけでも話してみる
・就寝時間と起床時間を決める
・ウォーキングやジョギングなど軽い運動をする
・掃除や料理など家事に挑戦してみる
などです。
上に書いたこと以外にも、何でもいいのです。
★チャレンジしたことは記録しよう★
「これなら自分でもできるかな」ということから始めてみて下さい。色々なことにチャレンジしてみて、それに対する気づきや思い、これからの目標などをきちんと記録していきましょう。
記録する意味は、後から自分で振り返ってみてどのような変化があったかという‶気づき〟を得るためです。「こんなにも自分は変われたんだ」「少し成長できたな」という喜びは、心を成長させます。心が成長すれば、ストレス耐性もだんだんついてきて、今まで「苦しい」とか「怖い」などと思っていたことも気にならなくなるかもしれません。
まずは、自分ができることから始め、メンタル面と身体面を整えていきましょう。
そして、1つできることが増えたら、少しレベルを上げてみましょう。それを繰り返していけば、心はどんどん強くなります。そうすれば、トラウマとなっている出来事さえも乗り越えられるメンタルが手に入るかもしれません。その「乗り越えられた時の自分の感情」も記録として残しておくといいですね。挫折しそうになった時、それを見れば勇気がわいてくると思います。
こういった「記録法」を用いることも、トラウマの克服法の1つと言えます。記録をとっていくことによって、自分が成長したことを実感できる。この方法のメリットはこの点です。
そしてさらに「辛い時の対処法」などをメモしておくこともお勧めです。
筆者も「辛い時はこう対処する(ストレス発散法)」ということをまとめたメモをいつも手元に置いています。例えば辛くて仕方ない時などは、そのメモを見て、「今は○○という状態だからこうしよう」と取り入れています。
辛い時は視野が狭くなりがちなので、「辛い」という感情だけに焦点が行ってしまいがちで、「気持ちが楽になる」方法を考えるまで頭が回らないと思います。
そのためにも「辛い時の対処法」メモは必要なものです。一度、心に余裕があるときにでも「自分が辛い時(ストレスがたまった時)はどうしているかな?」といったことを客観的に見て、メモをとってみましょう。そして辛い時はそれを見て、実践してみましょう。あなたの心が少し、軽くなるかもしれませんよ。トラウマからの脱出も、これが第一歩です。
著者 もち猫
福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。