PTSD~トラウマ体験・フラッシュバックの恐怖~

トラウマ

PTSD」というのはみなさんも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

以前皇族だった方が「複雑性PTSD」という障害になられたのは多くの方がご存知だと思います。

PTSDでは、フラッシュバックといってその原因となった場面が生々しく思い出されたり、それから逃げるためにそのきっかけを避けてしまう回避行動とよばれるものが見られます。

今回はPTSDの症状や筆者の体験談、対処法などについて紹介していきたいと思います。

興味のある方はご覧ください。

■そもそもPTSDって?


PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは、厚生労働省によると

死の危険に直面した後、その体験の記憶が自分の意志と関係なくフラッシュバックのように思い出されたり、悪夢を見たりすることが続き、不安や緊張が高まったり、辛さのあまり現実感がなくなったりする状態

とされています。

過去には外傷神経症、災害神経症などと呼ばれていましたが、1980年のアメリカの精神医学会の診断基準で「PTSD」と呼び名が変わりました。

日本においても阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件をきっかけにこの病名が広まることとなりました。

PTSDは、生死にかかわるような出来事を経験した人のみでなく、その周囲の人もなり得る障害です。

例えば小さい子どものころに虐待を受けていたり、いじめにあっていたりするとそれがトラウマとなり、PTSDを生じやすいとされています。

虐待やいじめなどが長期間に及ぶとPTSDは重症化・慢性化しやすくなり、PTSDになりかねないとも言われています。

ここでの「トラウマ(心的外傷)」は精神医学用語で、本人の対処能力を超える衝撃的な体験によって起こるこころの傷のことを指します。

PTSDには4つの症状があります。

★再体験★
・トラウマとなった出来事を何度も思いだす
・出来事が目の前で起こっているような錯覚に陥る
・現実を認識できなくなる
・トラウマとなった出来事が悪夢となって何度も現れる

★回避行動★
・トラウマのきっかけになった人や物、場所を避ける
・トラウマのきっかけとなった人物に似ている人が怖い
・感情が生き生きと感じられない
・未来がないように感じる

★否定的感情と認知★
・「私が悪い」「誰も信用できない」など否定的な考えが浮かぶ
・恐怖、怒り、罪悪感などのネガティブな感情が続く
・ものごとへの興味が失せる

★覚醒亢進★
・些細な物音や人の声に驚く、警戒心が強くなる
・いつもイライラ、ピリピリしている
・集中力が落ちたり心身が疲れやすくなったりする

の4つが主症状として現れます。

他にも現実感がなくなったり、周囲から見るとボーっとしているように見える「解離」という症状や動悸、めまいなどの身体症状が見られることもあります。

上記のように、PTSDは命に関わるような出来事・虐待やいじめなどの重大な出来事をきっかけとしているといえます。

しかし、人は対人関係の中で悩んだり、傷ついたりすることもあるでしょう。多くの場合は人に話したり、自然に消えて行ったりと消化することができます。

しかしもし人間関係でトラウマを抱いている人はどうでしょうか。自分のトラウマを周りに話す気になるでしょうか。

それができないからこそ余計にフラッシュバックとなって思い出されたり、悪夢を何度も見るという体験に繋がってしまうのです。

★複雑性PTSDって?★
虐待やいじめなどが続き、一定期間繰り返されることによってトラウマを残すこともあります。

この様な体験を「複雑性PTSD」と呼ぶこともあります。傷が癒されないまま残っていると、イライラしたりいつもピリピリしていたりとPTSDと同じような症状を呈する場合もあります。

さらには周りの世界に対する信頼感が失われる体験をすることもあります。

例えば

・幼児期に祖父母、父母から虐待を受けていた
・幼少期から厳しく育てられた
・両親のネグレクト(育児放棄)があった
・両親が常にけんかをしていた
・学校でたびたびいじめに遭っていた
・信頼していた友人に裏切られた

などが挙げられます。

この様な事柄が重なると、人と会うのが怖くなったり人に不信感を抱くようになります。勿論同じ体験をしたからといって全員が複雑性PTSDになるわけではありません。

ストレス耐性などは個人によって違いますから、なる人もならない人も出てきます。もしなってしまった場合、身近に支えになってくれる人がいるかいないかはその人の症状の度合いを決定づける材料となります。

しかし「複雑性PTSD」という病名はありますが、まだ研究が進んでおらず、定義づけもされていないのが現状です。

■PTSDの症状は?


PTSDは、とてもつらい体験をした経験の記憶が整理されず、そのことが何度も思い出されて(フラッシュバックや悪夢など)当時に戻ってしまったかのように感じる病気です。

その体験から1ヶ月以上たってもその体験の記憶が自分の意志とは関係なく思い出され、その時と同じ感情、身体の感覚を感じたり、実際に当時の光景が見えたり、加害者がすぐそばにいる感じがする、というのも特徴です。

その体験があまりにも強烈で、記憶についても鮮明に覚えている部分と全く覚えていない部分があったり、時間軸が分からなくなったり、体験したことや感じたことなどについて混乱してしまったりします。

何が原因で何が結果かということもわからなくなります。これを「記憶の断片化」といいます。

「いつ、どこで、どのように、なぜ起こったか、その結果どうなったのか」というものがわからなくなっていますので、情緒的にも非常に不安定な状態です。

そのために、ふとした瞬間に記憶が意識の中に侵入し、フラッシュバックや悪夢といった形で現れることがあるのです。そういったことから当事者は苦痛を感じます。

時にはこのような辛い記憶から逃れるために記憶の一部を失ったり「解離」といって現実感がなくなってぼんやりしている様子に見えることもあります。

いわゆる「現実逃避」をするために、自分の辛い記憶から自分を切り離している感じです。

★筆者のフラッシュバック★

筆者もフラッシュバックがよく起こります。いつも見えるのは中学生時代に受けたいじめについての記憶です。

筆者は中学時代、引っ込み思案で学校に行ってもほとんど人と話すことがありませんでした。その気の弱さを馬鹿にされたり、容姿のことなどについて毎日悪口を言われていました。

筆者がクラスに入るとみんなが黙り込み、こちらを睨んでいます。そしてしばらく経つと悪口が襲ってきます。そのような辛い状況でしたので、途中から不登校になりました。

その「皆がこちらを睨んでいる顔」は今でも鮮明によみがえることがあります。普通に生活を送っている分には良いのですが、突如その時の記憶が蘇るのです。

その時に言われていたこと、皆が嘲笑する顔、先生の見て見ぬふりの態度……。

先日も、フラッシュバックが起こりました。なんと、事業所のみんなが中学の制服を着ているように見えたのです(筆者は就労継続支援A型事業所で働いています)

その瞬間、いじめられていた時の記憶がパーンと頭の中に蘇りました。

「これは現実じゃない」

そう自分に言い聞かせるのですが、中学時代に聞いた同級生の声までが聴こえて来て、仕事を続行するのが困難になり、頓服を飲んで少し休ませて頂きました。

休んでいる間も同級生の声は頭の中で響き、泣けてきました。いつになったらこの過去から解き放たれることができるのだろうかと。

いじめについて、覚えていない部分もあります。きっと、辛すぎてこころが消去してしまったのでしょう。

また、中学時代のことはほとんど覚えていません。

ただ、ふとした瞬間にいじめの記憶だけが蘇ることはあります。中学校で楽しかったことなどは全く覚えていません。

いじめられていた、相談室登校になった、不登校になった、これくらいしか記憶がないのです。

思い出そうとしても思い出せないのに、思い出したくもない記憶だけが蘇ってくるなどというのは残酷なことだと思います。

しかし、筆者にとってはいじめがトラウマとなっているため、いつフラッシュバックが起きるかと不安な毎日です。

事業所の支援者さんも

「今は中学時代のあなたじゃない。モクレンのもち猫だ」

と何度も言ってくださるのですが、そう信じようとしてもフラッシュバックは容赦なく襲ってきます。

消せるものなら記憶を全部消してしまいたいと思うこともあります。しかし意識的に記憶の隅の方にやることはできても、完全に消すことはできません。

フラッシュバックがいつ襲ってくるかもわかりません。

しかし、筆者の場合トリガー(原因)が少しわかっているので、それを避けることでフラッシュバックを多少なりとも抑えることはできています。

トリガーとしてはまず大人数の人が集まる場所。そして笑い声が聞こえてくる場所。この2つが重なるとフラッシュバックが起きる可能性が高くなります。

中学時代の教室を彷彿とさせるからです。

しかし事業所に通所するとなると、それは避けることはできません。そのため(聴覚過敏のためというのもありますが)ノイズキャンセリングヘッドフォンの使用ができるようお願いしました。

仕事をしている時は小音で音楽を流すか、ノイズキャンセリング機能で周囲の音を遮断しています。

自分の世界に入ることで、集団という苦手な場所に少しずつ適応できるよう努力しています。

本当は他の人と話す機会もあればいいなぁと思うのですが、筆者自身の障害の特性といじめの記憶によりそれはかなりハードルが高いものです。

今は、休憩の時に支援者さんと一緒にタバコを吸いに出て「お疲れ様です」と他の利用者さんに言うか会釈をし、みんなから離れたところで休憩をとるのが精一杯です。

筆者にとって、いじめの記憶やそのフラッシュバックに負けないようなメンタルで、周りとの交流を図っていくのが今後の課題だと言えると思います。

■PTSDの治療と周囲の人との接し方


PTSDの治療としては、薬物療法・心理療法(認知行動療法、対人関係療法など)・環境調整などを主として行っていきます。

PTSDは治る病気です。早い人だと心理療法や薬物療法によって3ヶ月くらいで寛解する人もいます。

薬物療法では、抗うつ薬や抗不安薬、気分安定薬などが用いられます。

心理療法では、日常生活で受けるストレスへの対処法を身に付けたり、認知行動療法や対人関係療法、曝露療法などによって物の見方に対する考え方を変える工夫をしていきます。

また対人関係療法というものも行われることがあります。今回はこの療法について少々説明したいと思います。

対人関係療法は今現在のPTSDによる対人関係の問題に着目し、対人関係や対人関係の欠如などに焦点を当て、一緒に安心できる状況を探し、そういった世界を広げていくことを目標とします。

EMDR(PTSDの治療法の一つ)や曝露療法と違って過去の辛い体験を思い出して訓練をし、乗り越えていくといった厳しい治療法ではありません。

今起こっている心理的問題を意思疎通の問題としてとらえていきます。うまくコミュニケーションができれば対人関係の問題も解決に近づき、社会的役割も回復します。

その結果、自尊心も高まっていきます。

最初は「重要な他者」を見つけることから始めます。

人は誰とでもうまくやっていけるわけではありません。両親やきょうだい、恋人、配偶者、友人など、その患者さんにとって心理的安心感が強い人を確認します。

そして見つかった「重要な他者」との現在の関係に焦点を当てて、その人間関係と症状の関係を把握していきます。

対人関係療法では、次の4つのテーマの内1つか2つについて選んで治療を進めていきます。

1.対象喪失体験
重要な他者の死別後の受け入れが進まない場合

2.対人関係の不和
それぞれの役割への期待にずれがある場合

3.役割の変化
生活上の変化についていけない場合

4.対人関係の欠如
社会的に孤立している場合

の4つです。

これらのテーマに関して、患者さんは感情を大切にしながらその人との間の出来事や、どのような問題があるのか、感情や症状とどう関係があるのかなどを話します

そして、それをどうやったら解決できるのか思いつくままに語ってもらいます。そして、実際に行うことを具体的に決めていきます。

決まったら、それをロールプレイで練習して般化(実際の生活で使えるようになること)できるように訓練していきます。

これを、期間を区切って行うのが対人関係療法です。

この他にも眼球運動によってトラウマに働きかけるEMDRや、不安という刺激に触れながら段階的に慣れていく曝露療法という方法もあります。

どれを行っていくかは症状などを鑑みて主治医やカウンセラーと一緒に決めていきます。

どの療法をするにしても、患者さんが治療に主体的に、また積極的に取り組んでいくことによって早期治療に繋がるでしょう。

★周囲の接し方★

身近な人がPTSDにかかってしまったら、まずはそのトラウマ体験の辛さや苦しみを否定せず、傾聴していく姿勢が大切です。

PTSDがある人がトラウマについて話すのは前述した重要な他者であることが多いです。

そのため、そのように信頼している人に冷たくされたり放っておかれたりすると、その体験までがトラウマになってしまう可能性があります。

そのため、勇気を出してトラウマについて話してくれたらまずは「私に相談してくれてありがとう」と労をねぎらいましょう。

「そんなはずはない、大丈夫だ」

などの言葉はその人を否定する言葉になりかねません。そういった言葉は禁句です。

「そのような辛い目に遭ったなら、今苦しんでいるのは当然だ」

と考え「それは治療を受けていくことによって良くなる」ということを伝えていきましょう。

そのような態度で接すれば患者さんも「この人は苦しみを分かってくれる」と思え、信頼関係を築くことができます。

医療につないでいくことも大切です。

先ほども述べましたがPTSDは治る病気です。患者さんだけでなく、周囲の人も積極的に治療に協力していくことで早期寛解が叶うかも知れません。

もし薬を処方された場合は医師の指示の下適切に服薬していくことが大切です。多く飲んでしまったり、勝手に断薬してしまえば症状はぶり返してしまいます。

本人だけで薬の管理ができない場合は、家族や周囲の方が手を貸してあげてください。

しかし治療のサポートばかりしていては、周囲の人も疲れ切ってしまいます。周囲の人もしっかりとリフレッシュすることが必要です。

本人が安定している時に少し離れ、自分の時間を作って趣味に打ち込んだり、友人とランチに行っておしゃべりをするなど適度にガス抜きをして下さい。

支える側がピリピリしていれば本人に悪影響を与えかねません。心の余裕を作るためにも、支える側の人も自分の時間を大切にして下さい。

支える側の人にもその人の人生を歩む権利はあるのです。本人にかかりきりで、本人の人生に巻き込まれてばかりいてはいけません。

双方に心の余裕がなければ良い信頼関係は築いていけませんからね。

■まとめ

以上、PTSDの症状や筆者の体験談、治療法(主に対人関係療法について)まとめてみました。

生死にかかわるような体験や、またはいじめや虐待などこころにトラウマを残す体験をしていれば、PTSDにかかってしまう可能性は高い傾向にあります。

しかし何度も言いますがPTSDは治る病気なのです。

本人やその家族など周りの人が協力して、治療に積極的に取り組んでいけば必ず治ります。

心理療法の時にトラウマとなった出来事を思い出すなど辛い体験はあるかもしれませんが「絶対に治すんだ!」という強い気持ちで治療に取り組んでいってほしいと思います。

このコラムが少しでもPTSDで悩んでいる方の参考になれば幸いです。

著者 もち猫
福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。