みなさんは精神科で働く看護師、「精神科看護師」をご存知ですか?
精神科看護の患者さんは、精神的に支援を必要としている人です。
統合失調症、うつ病、躁うつ病、てんかん、不安障害など様々な精神障害がある人のケアを行い、その人たちが「自分らしい」生活を送っていけるようにサポートします。
一般の病院の科、例えば外科などと比べると医療面でのケアは少なめであり、患者さんとの心理的ケア、医師の補助などが主な仕事となってきます。
他にも薬の処方などの仕事も担っています。
そんな「精神科看護師」についてまとめましたので、ぜひご覧ください。
■精神科看護の定義と骨子
まず精神科看護の定義を見てみましょう。
‶精神科看護とは、精神的健康について援助を必要としている人々に対し、個人の尊厳と権利擁護を基本理念として、専門的知識と技術を用い、自律性の回復を通して、その人らしい生活ができるよう支援することである〟
とされています。
この定義は三つを骨子として精神科看護を定義しています。
1.精神科看護の対象
2.個人の尊厳と権利擁護
3.自律性の回復とその人らしい生活
この三つの骨子について簡単に掲載したいと思います。
1.精神科看護の対象
精神科看護は、精神的健康について援助を必要としている人々を対象としている。精神的健康は精神疾患に起因するものだけではなく、人々が生きる過程で直面する多様な心の問題を含んでいる。よって、精神科看護は、精神疾患を有する人々にとどまらず、すべての人々を対象とする幅広い支援活動を意味している。
2.個人の尊厳と権利擁護
生命・自由・幸福の追求は日本国憲法で定められた、国民の権利であり人間がもつ根源的かつ普遍的な願いである。しかしながら、我が国の精神障害者の処遇をめぐる歴史的経緯は、人権が尊重されてきたとは言いがたい。精神科看護者は、この歴史的経緯を重く受け止め、対象となる人々の生命、人格に対する深い尊厳とともに、高い職業倫理をもって判断し、行動しなければならない。
3.自律性の回復とその人らしい人生
精神科看護の対象は、精神的健康について援助を必要としているすべての人々である。「自律性の回復」とは、対象となる人自らが、思考・判断・行動することを通して、自身のよりよい生き方を見出すことを指している。
以上が三つの骨子を抜粋したものになります。
精神科看護師は、こういった理念や定義を基に看護に当たっているわけです。
■精神科看護師の役割は?
それでは、そんな精神科看護師は看護をするにあたってどんな役割を担っているのでしょうか?
★コミュニケーション★
まず、精神科看護の対象は精神疾患全般になります。疾患を一つだけもつ患者さんもいますし、何か他の疾患を併発している患者さんもいます。
そういった人たちも適切なケアを受けられるよう配慮していかなくてはなりません。
精神科看護師の主な仕事内容としては、コミュニケーションによるこころのケアになります。精神科の患者さんには、自分のからだの異常や変化を訴えるのが苦手な人が多い傾向です。
そういったサインをコミュニケーションやバイタルチェックなどで見逃さないようにし、医師に伝えるという大切な役割を担っています。
患者さん一人ひとりの変化を見逃さない鋭い観察眼が必要となってくるのです。
精神科では投薬が主な治療法となりますが、服薬を拒否する患者さんもいます。
また病識(自分が病気であるという意識)がなく薬を飲みたがらない患者さんもいますので、上手く説明できるスキルも求められます。
そのため、日ごろからコミュニケーションを大切にすることによってこころを開いてもらい「この人の言うことなら、聞いてみよう」と思ってもらえる信頼関係を築いていくことが重要な役割でしょう。
バイタルチェックの時に「何か困っていることはありませんか?」「今日の調子はいかがですか?」などと何気ない声かけをすることによって、患者さんが話し始める場合もあります。
そういった場合は、じっくり傾聴します。そうすることによって「あ、この人は自分の話を聴いてくれる人なんだ」と理解してもらうのです。
そこから徐々に信頼関係を築いていくことになります。しかし「別にないよ」などといって何も話さない患者さんもいるでしょう。
そういったときは無理に聞かないのも大切です。
患者さんのペースで「話してみようかな」と思ってくれるまで辛抱強く待つことも必要なのです。
患者さんが「話すことは別にないよ」といったときに無理に話を聞きだそうとしないことで、「この人は自分の意思を尊重してくれるんだ」と理解してもらえる可能性もあるからです。
話すことがないと言っているのに「どうしたんですか?」「元気ないですね」などと無理矢理話をしようとすれば、患者さんからすれば鬱陶しいもの。
それが原因でイライラが爆発し、暴れだしてしまうなどということもあるかもしれません。
本人が「話したくない」と言っている時は無理に話を聴かないこと。
あなただって「今は誰とも話したくない」という気分の時もありますよね?
そんな時にうるさく話しかけてくる人がいたらイライラするのではないでしょうか。それと同じです。
患者さんが「話したくない」といったらその時はそっとしておく。
そういった臨機応変な対応も円滑なコミュニケーションがとれるようになるまでには必要となってきます。
★投薬★
投薬も精神科看護師の役割です。前述したように服薬を拒否したり、病識がないため服薬の必要性はないと考えている患者さんもいます。
そういった時に役立つのが日ごろのコミュニケーションで築いた信頼関係です。
ただ単に「この薬を飲んでください」と医師の言うとおりに出すだけでなく「○○という効果があるので忘れず飲んでくださいね」と信頼のおける看護師が言ってくれれば「飲んでみようかな」という気持ちになる可能性も高いと思います。
それに入院患者の中には「この薬飲みたくないんだよね……」と相談を持ち掛けてくる患者さんもいるかもしれません。
そういった時に看護師はそれを医師に伝え、診察の時に医師と一緒にそれはどんな効果がある薬なのか、どうして飲まなければいけないのかを患者さんに伝えることによって納得してもらうというのも大きな役割です。
本人の言い分も聞きながら、医師の診療方針を理解し、その薬が必要なものならばきちんとその薬を飲む必要性を説明する。
そういったやり方をしていけば患者さんも「自分の訴えをきちんと聞いてくれた。だけど必要だと分かったから飲もう」という気持ちになってくれるかもしれません。
しかし患者さんが「飲みます」といったからといって薬を渡すだけではいけません。
本当に飲み込んでいるのか、嚥下まで確認することが必要です。
ただ大きく口を開けてもらえば飲んだかどうかわかりますが、毎回そんなことをしていれば患者さんの看護師に対する不信感が募ってしまう可能性があります。
そういったときに「今日は体調どう?」などと話をすることによって、きちんと飲み込んだかどうか確認するという手段を使うこともあります。
なぜそこまで「飲み込んだかどうか」を確認しなければいけないかというと、薬を溜め込んで自殺を図ってしまう患者さんもいるからです。
患者さんのいのちを守るためにも、薬の管理に関しては最大の注意を払うべきといってもいいでしょう。
★セルフケアの介助★
精神科では、入院生活の中でセルフケア能力が落ちている患者さんもいます。そういった患者さんに対して
・髭剃り
・トイレ介助
・歯磨き、整髪
・買い物代行
・お金の管理
・入浴介助
などのサポートをすることもあります。
他の科では身体の介助をすることはあっても買い物代行やお金の管理といったサポートをすることは少ないでしょう。
これも患者さんが社会復帰していく為のリハビリテーションです。
スタンスとしては、患者さんの為にも必要以上に介入せず、できないところをフォローしていくといった感じでしょうか。
看護師に頼りきりにならないよう注意してサポートを行います。
また、デイケア・ナイトケアを行うのも精神科看護師の役割としてあります。
これは精神疾患がある患者さんがスムーズに社会復帰できるように、日中や夜間の一定の時間でケアを行っていくものです。
作業療法士と共に生活習慣を取り戻すプログラム(料理やロールプレイなど)を行うことが多い様です。
また、お花見やクリスマスパーティなどのイベントごとを通じて社会復帰を目指す取り組みがなされている所もあります。それぞれ病院や施設によって、プログラムは様々です。
このようなデイケア・ナイトケアが行われている病院では、病棟とデイケア施設において看護師の所属が別になっています。
一時的に安定した患者さんが退院しデイケアを利用していたとしても、症状が悪化して再入院となることもあるでしょう。
そういったときは、病棟看護師がデイケアの看護師から患者さんについての情報を聞くことによって、患者さんのデイケア利用時の様子の情報を共有し、治療方針へ反映させます。
以上のような役割の他にも、入院患者さんの相談に乗ったり、身の回りのサポートをしたりと、精神科看護師の役割は多岐にわたります。
では、どういった人が精神科看護師に向いているのでしょうか?
■精神科看護師に向いている人って?
★冷静な人★
精神科には、家庭内で暴れだして搬送されてくる人や、何か気に入らないことがあって暴言を吐いてくる患者さんもいます。
そこでパニックになったり看護師側が怒りだしたりしてしまっては、収拾がつかなくなります。
そこで、まずは冷静な頭で対応できる看護師が望まれます。
興奮している患者さんにも圧倒されず、適切な処置をしっかりしていくスキルが必要です。何事にも動じず、予想外の事態にも即対応出来ると向いていると言えるでしょう。
★穏やかな人★
先ほども述べたように、患者さんの中にはちょっとしたことで興奮してしまう人もいます。
そうならないように普段から穏やかに、優しい口調で話しかけたり、笑顔で患者さんと接することができると患者さんも落ち着いてくるのではないでしょうか。
ちょっとしたことで怒らないこころ、何事も柔らかい態度で対応できるスキルが必要です。
また、暴言を吐かれたり患者さんが暴れたことによってメンタルをやられていては、いけません。メンタルのタフさも精神科看護師には必要でしょう。
★体力がある人★
腕力をはじめ、適切な力の入れ方を学ぶ看護師も多いようです。興奮して暴れている患者さんには、ふつうの腕力では太刀打ちできません。
そのため、適切な腕力の使い方を勉強しているといざという時に役立ちます。ただ、絶対に通常以上の体力ないと精神科看護師になれないという訳ではありませんのでご安心ください。
病院によっては毎日男性看護師がシフトに入るよう調整されており、暴れる患者さんを抑えるのは男性看護師の役目、といったこともあるようです。
★観察力とコミュニケーション能力★
精神科に通ったり入院している患者さんの中には、自分の想いを言葉で伝えられなかったり、自分のことをあまり話そうとしない人もいます。
そういった人の「ちょっとした変化」に気づく観察力やコミュニケーション能力も必要となってきます。
普段から接していて「あれ?今日は何か違うぞ?」と気づける力です。ちょっとした症状の変化やからだの異変などに気づくことができるスキルが必要です。
また「話すことが好き」という人も精神科看護師に向いていると言えます。
精神科では薬物療法なども行いますが、入院している患者さんとは常に向き合っていかなくてはなりません。
「患者さんの話を傾聴する力」「じっくり話を聴き、適切なアドバイスができる力」が必要になってきます。
適当なところで話を切り上げてしまったり、聞き流してしまうようでは患者さんからの信頼も得られません。
また、自分から症状を話すことができない患者さんのためにアドボケイト(代弁)することも看護師の役割です。
患者さんが何を伝えたいのか、話の核は何なのかを汲み取っていくスキルも大切です。
そういったことから「話すのが好きな人」も精神科看護師に向いていると言えるでしょう。
では、精神科看護師に不向きな人はどんな人でしょうか?
■精神科看護師に不向きな人って?
★人と話すのがあまり得意ではない★
精神科医療では、一般の科よりはコミュニケーション能力が求められる現場です。
普段の何気ないコミュニケーションから患者さんの異変を感じ取ったり、相談を持ちかけられた時にじっくり聴くことが必要となってきます。
そういったことにストレスを感じる人は、精神科看護師にはあまり向いていないかもしれません。
★医療技術面にやりがいを感じる人★
精神科病棟では先進医療のようなことは行われていないことがほとんどです。
そのため、医療技術を高めたいという人や、最先端医療を学びたいという人にはあまり向いているとは言えないでしょう。
精神科はどちらかというと医療技術よりもコミュニケーション能力などの方が重視されます。
救急医療のような第一線で活躍したいという様な人にはあまり向いていません。
★メンタルがあまり強くない★
精神科では、時には患者さんから痛烈な言葉を浴びせられることもあります。それに対していちいち凹んでいては、仕事になりません。
そう言ったことも覚悟でスパッと割り切れるメンタルが必要です。
からかわれたとしても逆に笑顔で返せるくらいの精神的余裕があるといいでしょう。
しかし、看護師も人間です。
愚痴や不満がたまったら仲間同士で打ち明け合う場面を設けて、そこで思う存分吐き出してまたメンタルを切り替え、患者さんと向き合っていけるといいと思います。
■まとめ
このコラムでは、精神科看護師の役割や定義などをまとめさせていただきました。
精神科看護師は一般の科とはやはり求められる技術や知識が異なっており、向き・不向きがはっきりする場だと思います。
精神科看護で一番必要なのはコミュニケーション能力と鋭い観察眼です。
患者さんの表情、声のトーン、普段から話をしていて変わったところはないかなどしっかりと見極めなければなりません。
もちろん自分を傷つけようとしたり他の人に危害を及ぼそうとする患者さんに対しては、からだを張って対応する必要があります。
ですから、医療技術があるだけでは勤まらない現場なのです。
将来、精神科で看護師として活躍したいと思っている人は普段からこういった能力が身に着くように生活を送っていってほしいと思います。
この記事が少しでも参考になれば幸いです。
著者 もち猫
福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。