増え続ける中高年ひきこもり第2章~当事者とどう関わっていくのか~

ひきこもり
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■ひきこもりを支援するには?~当事者を脅かさない関わり方~

まず、ひきこもり当事者と関わる際に気を付ける事は「~をして〝あげよう〟」とは思わないようにすることです。支援の際には、当事者と同じ目線に立ち、一緒に何かをし、しっかりした一人の〝人〟として付き合っていく姿勢が大切です。

最初は、信頼関係を再構築することから始まります。その為には、当事者と「対話」を重ねていく事が第一歩です。対話と言っても難しい事ではありません。例えば「おはよう」「体調はどう?」〝ごく普通の〟声かけでいいのです。それを毎日繰り返していく事によって、当事者は「自分の事をきちんと見てくれているんだな」と感じられると思います。

ひきこもっている状態から、いきなり外にひっぱりだす等という無茶はしてはいけませんが、ある程度の「誘いかけ」や「お願いごと」もひきこもり当事者が家庭でまで孤立してしまうのを防ぐには必要です。例えば、「食事ができたからお皿を並べておいて」等軽いお願いごとをしてみます。すると、意外にもやってくれる事があるのです。当事者はひきこもっていることに対して引け目等を感じていることもある為、案外断れないものなのです。

そして、やってくれた際には「ありがとう、またお願いね」と声かけをすることが大切です。お手伝いをしてくれた時ごとに、お礼を言い、また手伝ってほしいことがあるたびに声かけをしていくと、対話の最初の一歩がクリアできるのではないでしょうか。

■家庭という密室に外の風を入れる~第三者との関わり~

そして、ひきこもり解消には〝第三者による関わり〟がポイントとなってきます。家族だけでは専門的な知識も不足していますし、どの様に当事者と関わっていけばいいのかわからないという家族も多いと思います。

そこで、すべての都道府県に配置されている「ひきこもり地域支援センター」、また自治体によっては「精神保健福祉センター」でひきこもり支援を行っているところもあるので、利用してみるのはいかがでしょうか。

こちらでは、ひきこもりの親等の家族が集う〝家族会〟や講座、セミナー等が行われているほか、精神科医や「ひきこもり支援コーディネーター」という専門職等が家族の相談に乗ってくれる〝相談会〟というものもあります(県等によって支援の内容は異なります)。

こちらのメリットは、同じ立場にある人たち(ひきこもり当事者の家族等 )との話ができると言う点や、専門知識を持ったスタッフが相談に乗ってくれることによって、回復に向けてより良い関わり方を学べるという点です。

そして本人が参加せず、親だけでも相談に乗ってもらえるという所も、メリットの一つだと思います。また、精神科や心療内科でもひきこもりについて相談に乗ってくれるところはあります。

しかし、本人同伴でないと相談を受け付けてくれない等といった条件付きの病院もありますので、事前に電話等で確認してから通うかどうか決めることをお勧めします。

そして病院を探す際は、親だけでもOKという所、また通院時間が1時間以内で済む所等がいいでしょう。親だけで病院や支援機関に相談に通っている場合も、本人にはその旨を伝えます。

当事者も薄々は「何らかの対策をとりたい」と思っていることが多い傾向にある為、親が通っているうちに「医者は何と言っていたか」等と、興味を示すこともあります。

そこで「本人にも一緒に行ってほしいな」と思うなら、通院日について前々から伝えておくのではなく、当日の朝「今日は病院だけど一緒にどう?」のような声かけを行います。何故なら、あまり早く伝えすぎると本人の気持ちが変わる可能性があるからです。しかし、本人が「嫌だ」というのならば、強引な説得はいけません。それこそ、せっかく築いてきた信頼関係にヒビが入り、また一からやり直し、という事になってしまうかも知れません。

■家庭内暴力にはどう対応する?~暴力は「嫌だ」というメッセージ~


ひきこもり当事者も、精神がボロボロの状態で、何かに当たり散らしたいとき、暴力という行為に出る事もあります。こういった時、暴力に対しては徹底拒否しなければなりませんが、本人の思いや気持ちはしっかり受け止める事を心がけなければなりません。

もしかしたら、家族がなんとも思っていないような言動が暴力の原因となっているかもしれません。ひきこもっていることに関しての皮肉や不満、否定的な言動が本人の心に傷を負わせてる可能性もあります。第1章にも書きましたが、親が叱咤激励することによって、本人は不安な気持ちに駆られ、反発心から親に対して暴力という形で反抗することもあります。

だからと言って暴力を甘んじて受け入れる事は絶対にいけません。家庭内暴力に関しては、徹底的に「嫌だ」と伝え続けてください。「暴力は良くない」というのは「拒否」とは違い、説教と同じ意味合いを持ちます。その為、とにかく「暴力は嫌だ」と伝えます。『暴力には、「家族が刺激している暴力」と「慢性的な暴力」があります。』(中村靖三郎‶【イラスト解説】ひきこもり→家庭内暴力収める「7つの道筋」NGは″より引用:https://withnews.jp/article/f0190709001qq000000000000000G00110101qq000019431A)
前者は、上にも挙げたように本人がひきこもっていることに対して皮肉を言ったり、不満を言って自尊心を傷つける事です。

後者は、小さなことに難癖をつけて暴力をふるってきたり、「私の人生は失敗した」「お前ら(両親)のせいで自分はこうなった」といって否定的・他責的になり、親に対して暴力をふるう事です。

このような暴力に対しては「リミットセッティング」をします。「ここまでは良い」けれど「ここからは許さない」といったものです。まだ言葉で辛さを伝えているうちは良いとして、当事者が暴力という手段に出たら、そういう手段での要望には応えられないこと、暴力は嫌だという事を伝えます。つまり、「暴力を振るわれるのは嫌、話ならとことん聞く」「暴力を使った要求には応えられない」ということをあらかじめ設定し、本人にも伝えておくのです。それでも収まらなければ、親側の対応を「予告」しておきます。

「今までの様な暴力が起きたら警察に通報する」
「暴力が収まらないなら避難する」

といったようなことです。又、あらかじめ警察に相談しておくという手もあります。

例えば、家庭内暴力で困っている事を話しておいて、通報したら家に来てもらうというものです。もしこの約束を破って暴力をふるってきたら、躊躇することなく実際に通報してください。すると警官が家に入ってくるので、本人は「通報されると他者が家に上がり込んでくる」ということを学習します。本人は家に第三者が入ることはとても嫌なので、それを理由に暴力も収まってくる可能性があります。また、自宅以外への避難も予告後に暴力が収まらないなら実際に実行します。

避難先としては、ホテルや親戚の家等が考えられます。避難したら、そこから本人に連絡を入れます。「避難したのはあなたが嫌なのではなく、あなたの暴力という行為が嫌だからだ」ときちんと伝えます。期間としては大体1~2週間が目安だと思われます。避難している間も、1日に1回は電話を入れ、本人の様子を確認します。

少し反省してきたかな、と思ったら一時帰宅します。しかし、一時帰宅の時も一泊だけしてすぐ避難先に戻ります。これを繰り返して本人が落ち着いたようなら、「もう暴力はないと思うので帰宅する」と電話を入れ、避難先から自宅へ帰宅します。

本人は、親に見放されることを極度に恐れているので、避難するという事をほのめかしただけでも動揺します。暴力という過激な行動に出ていても、実は家族から見放される事をとても恐れているのです。

■ひきこもり克服に向けて~ひきこもりからの出口へ~

あくまでも治療(克服していく過程)の主体は本人です。本人も、今の状況のままではいけない事は親以上にひしひしと感じています。しかし、本人にとって外の世界はとても怖いものです。そこで、せめて家の中だけでも「安心して」過ごせる場所として機能させなければなりません。その為には、家族の温かい見守りが必要です。

ひきこもり当事者と関わる際は、まずお説教や叱責はNGです。些細な声かけから始めて、本人も安心して対話が出来る様になるようにします。しかし、甘やかしもNGです。闇雲に愛情を注ぐよりは、「優しく丁寧に対応するけれど、本人の心に土足で入っていくようなことはしない」という、ほどよい距離感を持った関係がいいと思います。

当事者と関わっていく上で

・家族会、病院等に通って得た知識を活かす事。
・家族らが抱えている問題については家族会や病院等できちんと相談し、専門家の意見を聞き、実行に移す事。
・ひきこもり当事者の安全は脅かさないよう注意する事。

こういった態度が大切になってきます。

ひきこもり克服には、時間がかかるのも事実です。支援をしていく家族にとっては、粘り強く、根気が必要な事だと思います。ひきこもり克服、つまりゴールとしては、「自分の現状を肯定的に受け止め、主体的に動けるようになる事」だと考えられます。

しかし「主体的に動く」と言っても、それが就労や就学だけとは限りません。例えば散歩が出来る様になったり、精神科のデイケアや自助会等で仲間たちと談笑できるだけでも社会参加している、と言えるのです。

目標を「就労」としてしまうと、本人にとってはあまりにもハードルが高すぎます。まずは家族以外の人と関われるようになる事、それだけでも一歩前進です。当事者にとって、「家族以外の人と関わる」という事はとてつもなく勇気のいる事です。それを家族が認め、応援していく事で、本人はほんの少しずつですが、きっと変わってくると思います。

そんな本人の努力を認め、そっと背中を押す気持ちで「ほどよい距離感」を保ちながら関わっていけば、ひきこもり克服に近づくでしょう。時には専門家の力も借りつつ、本人がゴールに向かって一歩一歩、歩んでいくのを見守ってあげてください。

ttいなみに第1章はこちらです!よろしければご覧ください♪⇩

著者 もち猫
福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。