自傷行為とその背景~当事者を支援するための心構えと関わり方~

自傷行為
Luisella Planeta LeoniによるPixabayからの画像

自傷行為の典型的なものとして、「リストカット(以下、リスカ)」という手首をカミソリやカッターで切るものがあります。これは偶然発生するわけではなく、自傷者の意思や精神疾患の影響によって行われるものです。このコラムでは、自傷行為が起きる原因、自傷行為を繰り返してしまう人との関わり方までまとめました。

■なぜ自分を傷つける?~一時の解放感を求めて~

まず、一口に「自傷行為」と言っても様々な形態の行為があります。

自己切傷…手首等の四肢、顔や首、胸や腹といった身体の様々な部分を刃物で切る事。
自己裂傷…皮膚を引き裂く事。ひっかく事。
自己火傷…タバコなどを身体に押し付ける等して、火傷を負わせる事。
自己殴打…自分の事を素手や物で殴ったり蹴ったりする事。
自己咬傷…自分の体を咬む事。

ざっと挙げただけでも、これだけの種類があります。この中で、一番代表的なのが「自己切傷」に含まれる‶リスカ〟や腕を切る〝アームカット(以下アムカ)〟です。リスカやアムカは10代から20代の人が行うことが多い傾向にあります。

自傷行為を行う理由としては、対人関係のトラブル等でストレスがたまったり、会社で仕事を失敗して落ち込んでしまったり、自分を無価値だと思ってしまった事等があります。そしてそれをだれにも相談できず、一人で抱え込んでしまった時、自分を傷つけてしまうのです。

また、「自分が生きている事の再確認」「血を見ると‶生きている〟と安心する」といった理由から行われることもあります。

自分を傷つける事で苦しみから一時的には解放されますが、それは単なる「応急処置」でしかなく、その解放感は長くは続きません。その為、一度自傷行為を行ってしまうと、何か嫌な事があるたびに自傷に及ぶという「習慣化」の恐れがあります。リスカ等自傷行為が習慣化してしまうと、「より深く」「より多く」とエスカレートしていって、最終的には予期せぬ死につながる危険性もあります。

その為、習慣化してしまう前に止めなければならないのですが、自傷行為は他人から言われて簡単に止められるものではありません。薬物やアルコールのように中毒性があるからと言えるでしょう。

自傷行為の代わりに誰かに相談する事で解決できればいいのですが、自傷行為を行う人は悩み等を周囲の人に相談する事が苦手な傾向にあります。

その為、その苦痛をどう処理していいかわからず、悩みぬいたうえに「自傷」という道を選んでしまう人もいるのです。その背景には、自分に対する懲罰的な意味で行われる事もあります。何かトラブルがあると「自分はダメな人間だ」「生きていても仕方ない」と過度に自分を責めてしまい、自分を罰する意味で行われるのです。このように、様々な理由から自分で自分を傷つけてしまう人たちがいます。どんな理由で行われるにせよ、「自分が苦しんでいることに気付いてほしい」とSOSを出している事に変わりはありません。辛さを分かってほしいけれど、他に方法がなく、自傷行為という形でメッセージを発信し続けているのです。

■自傷行為と精神疾患~心の病も原因となる?~

精神疾患を持った方すべてが自傷行為を行うわけでもありませんし、自傷行為をしているからといってすべての人が精神疾患であるというわけではない、という事をご理解いただきたいです。しかし、自傷行為と精神疾患が深く関係しているのは事実です。

精神の不調が原因となって自傷行為をしてしまう障害としては、境界性パーソナリティ障害、解離性障害、うつ病、統合失調症等があります。自傷行為と精神疾患の関係については、コラム「自傷行為はなぜ起こる?周囲の適切な対応方法とは?」の中で〝境界性パーソナリティ障害〟と〝うつ病〟について触れましたので、今回は〝解離性障害〟〝統合失調症〟と自傷行為の関係について書かせていただきます。

1.解離性障害
解離性障害の「解離状態」とは、強烈なストレス等のために観念や感情(精神機能)の一部が自分から切り離される状態の事を言います。精神機能の一部が切り離されるというのは、「自分が自分ではないような感じ」だと言い換える事もできます。

例えば症状としては

・昔の記憶の一部が思い出せない(解離性健忘)
・自分が自分でない感じ(離人)
・いつの間にか知らない場所にいる(解離性とん走)
・現実感がなく、カプセルに入っているような感じ

等があります。

解離性障害の原因としては

・子どもの頃に虐待を受けた
・ひどいいじめ、暴行などの被害に遭った
・大きな災害、事故に巻き込まれた

等の経験による〝トラウマ〟が原因の一つとされています。そのような辛い記憶から自分を守る為に、脳が一時的に過去の記憶を消してしまうのです。これを「解離性健忘」と言います。

例えば解離の状態でリスカをしてしまって、「気が付いたら手首から血が流れていた」ということもあります。しかもその時は〝「私」は「私」である〟という意識が薄い為、制御能力が弱くなり、予想以上に深く自傷行為を行ってしまう可能性もあります。このようなことから、自殺未遂とも関連が深いとされています。

2.統合失調症
統合失調症には、陽性症状と呼ばれる症状と陰性症状があり、陽性症状では幻聴・妄想が活発になります。周囲の人には理解されづらいのですが、頭の中で人の声が聴こえ、「死ね」「お前は生きている資格がない」等と言ってくることもあるのです。

コラム筆者も統合失調症になって長い年月が経っていますが、このような経験はたくさんあります。そこでそれが「幻聴である」と判断できれば良いのですが、本当のことのように感じてしまい、自傷行為に走ってしまう人もいます。

陽性症状が表れている時は感情も昂っているため、自己制御が効かず、体に大きな損傷を与える自傷行為を行ってしまう時もあります。

上に挙げた解離性障害や統合失調症は、放っておくとどんどん悪化の一途をたどってしまう為、「少しこころの調子がおかしいな」「自傷行為が酷くなってきてしまったな」と思ったら、なるべく早く精神科や心療内科を受診される事をお勧めします。

■自傷行為へはどう対処する?~支援者のスタンスと自傷者への接し方~


自傷行為を行っている人は、今までに苦しい思いを沢山してきて、その辛さを「自傷行為」という形で発散し、何とか自分を保っています。その為、最初に自傷者と接するときは自傷者の思いについて否定や非難をせず、ありのままを受け入れる事が大切です。

いじめにあった等の過去の記憶から、最初は支援者を受け入れようとしない自傷者もいるでしょう。また、暴言を吐かれたりするかもしれません。しかし、「あなたのことを心配しているよ」というメッセージを伝え続ける事で、自傷者は少しずつ心の扉をひらいてくれるかもしれません。小さな可能性でも信じて、自傷者と粘り強くかかわり、信頼関係を築いていく事が支援を始めるにあたっての第一歩だと言えます。また、必要に応じて自傷行為による傷の手当てをするなど、心のケアだけでなく実際の傷に対する手厚いケアも行っていく事が信頼関係を築くには大切な要素だと言えると思います

自傷行為をするには必ず何らかの理由があります。自傷者の心は様々な葛藤や悩みで一杯で、自分自身でも自傷行為をしてしまう理由をうまく整理できていない傾向が多いです。
その為、理由を知ることが出来るまで長い時間がかかる場合もあるので、辛抱強く寄り添いながら待つ事が必要です。自傷行為の理由や思いを話してくれたら、勇気を出して話してくれたことに対して、自傷者へもねぎらいの言葉をかけるといいでしょう。しかし、自傷者から過度に依存されないようにすることも支援をしていくにあたって必要となってきます。

例えば、‶自傷者の話を聞く時間〟についてです。自傷者から相談された時に、「〇分間の中でお話を聞かせてください」といった風に枠組みを作らないと、自傷者は支援者に依存して何時間でもしゃべり続ける可能性があります。その為、リミットセッティングしておくことによって支援者のプライベートの時間まで割く事にならない様にするのです。

次に、‶自傷者が辛くなった時・自傷したくなった時の電話(メール、LINE等)について〟です。いくら支援者といっても一人の人間です。眠る時間も必要ですし、いつもいつもスマホやパソコンを見ているわけにもいきません。その為、「電話やメールは○○時まで」と決めておきます。そうしないと、いきなり深夜に自傷者からSOSの電話がかかってきたり、支援者がオフの時に連絡が入ったりと、支援者のオフ時間と仕事の時間の境目が曖昧になってしまいます。

このように、ルールを定めておかないと自傷者は支援者に過度に依存するようになってしまいます。そして、もし支援者が電話に出れなかった時などに「お前のせいで自傷をしてしまった」等と責任を押し付けられかねないのです。ですから、しっかりオンとオフの境界線を引いて、そのルールをお互いが守る様に努められれば、と思います。

■自傷行為を行っているあなたへ~周りはきっと支えてくれる~

自傷者自身も、自分と向き合う時間を作ってほしいと思います。そして、自分のプラスの面をちょっとずつでも、見つけていってほしいです。

自分一人で考えるのが難しかったら、支援者や周囲の人々と共に考えてみましょう。自分の良い所が見つかれば、きっと自分の事を好きになれます。自分の事を好きになれば、「自分を傷つけたい」という衝動も、収まる可能性が十分にあるのです。

精神疾患等の問題に対しては、支援者のサポートや社会資源(制度・施設・サービス等)を使って、なんとか解決へと導いてほしいと思います。自傷行為自体は精神科や心療内科で相談できます。また「悩みを話したいけれど聞いてくれる人がいない」という人はカウンセリングを受けてみる事も一つの手だと思います。カウンセラーに自分の葛藤や悩みについて話を聴いてもらい、自分の心の整理を行います。

また、精神科デイケアもある為、同じような悩みを持った仲間ができるかもしれません。さらに、デイケアには精神保健福祉士等のスタッフも常駐する為、その人たちに話を聞いてもらうのもいいと思います。家族などの近すぎる人には話しづらくても、カウンセラー等の「少し距離を置いた人には話せる」という人もいるかもしれません。そういった人にはカウンセリングや精神科デイケアがお勧めです。悩みの解決には時間がかかるかもしれませんが、きっと自傷行為はやめられます。

コラム筆者も自傷癖があります。まだ自傷行為から卒業できていませんが、周りの人々に支えられてきたのもあり、一番ひどかった時から比べたらかなり回復した方だと思います。リスカから卒業する為に、刃物は他人に預ける、悩みで頭がパンパンになったら、いきなり自傷行為に走るのではなく、何か他に方法はないかワンクッションおいて冷静になる時間を作る等努力しています。


しかし、時には失敗する時もあります。でも、それでいいと思っています。いきなり自傷行為をやめる事が出来たなら、それで悩んでいる人なんていません。失敗しつつも、家族や周囲の人に力を借りて、リスカ卒業を目指しています。まずは、信頼できる他者を見つけることが大切です。

「信頼できる他者」というのはリスカを否定しない人、ありのままの自分を受け入れてくれる人です。そういった人と共に、自傷行為卒業を目指してください。あなたもいずれ、自傷行為に頼らなくても生きていけるようになります。筆者も、きれいな腕を堂々と見せられるように、少しずつ努力していきます。これを読んでくださった自傷者の方も、ちょっとずつでいいです。自傷行為に頼らない方法を見つけていってください。このコラムが少しでも参考になれば幸いです。

著者 もち猫
福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。