みなさんはお酒を飲まれますか?
筆者はある時、仕事中のストレスから、過度のアルコール摂取をしていたことがあります。お酒がないと眠れない、また精神的に不安定になる状態に陥ったからです。
しかしその職場を辞めたことがきっかけで、アルコールからも離れることができました。
このコラムのテーマを思いついた時、もし今もその職場で働いていたら、筆者もアルコール依存症になっていたかもしれないなぁと思いました。
適度な飲酒によってストレスを発散させることは悪いこととは言いません。
しかし、過度な飲酒によってからだを壊してしまったり、周りに迷惑をかけることもあります。
一度依存症になってしまうと、お酒を止めるのはかなり難しくなってしまいます。
そんな「アルコール依存」について、初期症状や症状の経過、またもしアルコール依存症になってしまった場合、どんな治療法があるのかなどをまとめました。
■アルコール依存の症状・診断について
アルコール依存症は、厚生労働省によると
『長期間大量に飲酒した結果、アルコールに対し精神依存や身体依存をきたす精神疾患』
とされています。
アルコールを多量に長期間摂取した結果、アルコールに対し耐性を形成し、生体の精神的及び身体的機能が持続的あるいは慢性的に障害されている状態がアルコール依存症です。
老若男女問わず、長期間多量のアルコールを摂取すれば、アルコール依存症になる可能性はあります。
アルコール依存症の症状には、精神依存と身体依存があります。
1.精神依存
・「お酒を飲みたい」という強い欲求(渇望)が湧き起こる
・飲酒の量のコントロールができず、節酒ができない
・飲酒がメインの生活になってしまい、飲酒の時間とその状態からの回復で1日の大半を過ごし、飲酒以外の娯楽を無視してしまう
・精神的・身体的問題が悪化しているにも関わらずお酒をやめない
2.身体依存
・アルコールが切れると離脱症状(手が震えるなどの禁断症状)が出る
・以前と比べて、酔うまでに飲むお酒の量が増えた
以上のようなものです。
飲酒の量が増え、飲酒に1日の時間の大半を使ってしまうことによって仕事や家庭をおろそかにしてしまい、人間関係が破綻したり職を失ってしまうこともあります。
自分で気づきやすい症状の例としては
・お酒の勢いで眠りに落ちるが、お酒が切れると途中で起きてしまう
・特に朝、気分が落ち込み、からだも怠くなる
・以前よりお酒の量が増えた
などが挙げられます。
離脱症状としては
・手が震える(振戦)
・汗をたくさんかく
・血圧が上がる
・ちょっとしたことでイライラするようになった
・生活習慣病
・肝炎や肝硬変
・うつ病、不安障害、パニック障害などの精神障害
などがあります。
★診断はどのように行われる?★
アルコール依存症について世界保健機関(WHO)が定めた診断基準は以下の6項目です。
・アルコールに対する強い欲求
・飲酒行動や飲酒量をコントロールできない
・離脱症状がある
・耐性がある
・お酒のことで頭がいっぱいになり、その他の楽しみについての関心が極端に減る
・飲酒が悪い結果を招くことはわかっているが、飲酒を続けてしまう
医療機関などで相談すると、当事者がそれまでどのようにお酒と関わっていたかについて詳細を聞かれます。
当事者からだけではなく、家族などの周囲の人の話も聞かれることがあります。
それらの話も加味し、診断基準と照らし合わせてアルコール依存症かどうかの診断が行われます。
★どのくらいの量が「飲みすぎ」?★
「アルコールを飲みすぎないようにする」といっても、具体的にどのくらいの量が飲みすぎか分からない人もいらっしゃるのではないでしょうか?
厚生労働省が推進する「健康日本21」の中から参照しますと、アルコール依存症の発症リスクの少ない「節度ある適度な飲酒」は『壮年男性の場合の純アルコール量換算で1日20g以下である』との数値を示しています。
これは
・ビールなら500ml
・日本酒なら1合弱
・25度焼酎なら100ml
・ワインなら2杯程度
に相当します。
1日の飲酒量がこれらの3倍以上になると「飲みすぎ」となってしまい、アルコール依存症になる可能性が高まってしまいます。
3倍以上というと、単純計算で
・1日にビール3本
・日本酒3合弱
・25度焼酎300ml
・ワイン6杯
となりますが、これらの量は「美味しく飲めてしまう量」なので、お酒に余程弱い人以外では、ついこのくらいの量飲んでしまうこともあると思います。
美味しいお酒を「ほどほど」で抑えるのは難しいかもしれませんが、飲みすぎるということはやはり「アルコール依存症に向かって突き進んでいってしまっている」ということです。
お酒は「楽しく・美味しく」飲みたいですよね。適切な量を守って、「飲みすぎ」にならないよう注意しましょう。
■アルコール依存症はどのような経過をたどる?
この章では、アルコールを摂取する人がどのような経過をたどってアルコール依存症になってしまうのかを簡単に紹介したいと思います。
★アルコールの摂取が始まる★
もともとお酒を飲む習慣のない人でも、会社の上司に誘われて飲みに行ったり、パーティーに参加する時に飲酒するなどして、アルコールを摂取する機会があると思います。
そこで自分に合ったお酒が見つかれば(日本酒、ビール、ワインなど)自宅でも飲酒することが習慣となる可能性もあります。
お酒を飲み始めると、だんだん耐性がついてきて以前の量では酔うことができなくなります。
そのため「酔った時の気持ちいい感覚に浸りたい」という気持ちから、お酒の量が増えていきます。
これがアルコール依存症の始まりとなるのです。
★依存症との境界線★
お酒を飲む習慣がつくと、中には毎晩お酒を飲むようになる人もいます。お酒を飲めない日は「何か物足りないな」と感じる人もいます。
そして、例えば次の日にプレゼンなどの緊張することがあったり、ストレスがたまったりすると、お酒を飲むことによってそれらの不快な気持ちを消そうとするようになってしまいます。
その結果、お酒の量が増えてしまいます。何故なら以前と同じ量では酔えなくなっている(耐性がついてしまっている)からです。
お酒が増えると「ブラックアウト」という現象が起こります。これは記憶が欠落してしまう現象です。
そして、日常生活のどの行為よりも(仕事、家庭など)お酒を優先するようになってしまいます。ここまでくるとアルコール依存症寸前です。
★アルコール依存症初期の症状★
お酒が切れると、先ほど挙げたような離脱症状が生じるようになります(手の振戦、多汗、高血圧、イライラなど)
しかし、本人はこれが「アルコール依存症の症状である」という自覚がないことが多いです。
まだ「アルコールに依存している」という自覚がないため、ただの体調不良として捉えてしまうのです。
また「お酒を飲みたい!」という気持ちから、仕事に集中できなくなったりして、1日中お酒のことを考えてしまう場合もあります。
お酒が飲めない状況にいるとソワソワしてくるケースもあります。
★アルコール依存症中期★
この時期になるとかなりアルコールに対する依存心が強くなってきます。
二日酔いになるまで飲んでしまうこともあります。
その際に手の震えやイライラが出てくるため、それを抑えようと思い、更にお酒を飲んでしまう人もいます(迎え酒ともいいます)
また、お酒がトラブルの元となることもあります。
例えば
・車の事故で他人にケガをさせる
・他人とのトラブル(喧嘩など)
・家庭内での暴力
・不注意による判断ミス
また、家庭で「飲みすぎだよ」などと言われると、家族の前では飲まないようにするものの、隠れて飲酒するようになる場合もあります。
それが分かってしまうと家族に対して暴力的になったり、暴言を吐いたりしてDVに発展してしまうかもしれません。
またお酒を飲むために嘘をつくようにもなります。
★アルコール依存症後期★
もうこの時期には、自分でお酒の量を調整できなくなっています。
お酒に対する耐性もかなりついてしまっているため、飲む量も最初の頃に比べるとかなり多くなっています。
飲まないと離脱症状が出てしまい、その離脱症状を防ぐためにまた飲む、というスパイラルに入ってしまっている状態です。
アルコールを摂取しないと精神的に不安定(不安、抑うつ)になるため、余計にアルコールに頼ろうとしてしまいます。
この頃には「みんなで楽しく飲む」というよりは、お酒に支配されていると言えます。
またお酒を飲みすぎたことにより、からだにも影響が出ます。
先ほど挙げた
・肝炎
・肝硬変
・膵炎
・生活習慣病
などの病気を発症する可能性もあります。
仕事を続けることも難しくなり、経済的に破綻してしまったり、社会的な信用を失ったりということもあり得るでしょう。
また家庭でも家族よりアルコールを優先してしまう為、家族が見離してしまう場合もあります。
そしてお酒に溺れてしまい、最後には最悪の事態が起きることも予想されます。
このように、「適度な飲酒」はストレス発散にもなり良い効果をもたらしますが「過度な飲酒」はからだを壊す元にもなりますし、何より社会的に信用を失ってしまうなどのデメリットが多いので注意が必要です。
■アルコール依存症の治療法
アルコール依存症から立ち直るには「減酒」をするといいという説もありますが、基本的には「断酒」することを目標に置いたほうが良いと思います。
「断酒」を原則とするというのは、厚生労働省の「アルコール依存症への対応」のホームページにも掲載されています。
「断酒」とは、お酒を一滴も飲まないということです。
「飲みすぎなら飲む量を減らしたらいいのでは」「たまに飲むくらいはいいのでは」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、アルコール依存症は「お酒の量をコントロールできない」病気です。
例え減酒したとしても「もう少し飲みたい」という衝動が抑えられず「あと少しだけ」と思ううちにどんどん量が増えていってしまうことも考えられます。
そのため「減酒」よりは「断酒」を目指した方が、アルコール依存症からの回復には効果的だと言われているのです。
しかし、断酒には強い決意・意志が必要です。
なぜなら断酒には期限がないからです。
例えば「1ヶ月お酒を飲まないでください」と言われれば「1か月後には飲めるんだ」と頑張れる方もいるかもしれません。
しかし、断酒は「一生お酒とは縁を切る」というスタンスです。
たとえ数年間お酒を飲まなかったとしても、たまたまお酒を口にした時に誘惑に負けてしまい、どんどん量が増えていってしまうというのがアルコール依存症の怖いところです。
長年かけて作り出された「アルコールへの依存心」は、簡単に消えてなくなるものではないのです。
アルコール依存症の患者がお酒を飲むことを止めない理由の一つとして「否認」という、こころの働きがあります。
これは「自分はアルコール依存症ではない」という風に、自分のお酒との向き合い方に対して問題意識を持っていない状態のことです。
「飲酒の問題がない」と本人が問題を認めないだけでなく「問題があるとしても軽い方だ」「お酒をやめようと思えばいつでも止められる」と、問題を現実よりも軽く受け止めてしまうことも否認の一つであると言えます。
しかし、お酒に対する問題にまっすぐ向き合わなければ、アルコール依存症から抜け出すことは不可能です。
まずは「自分のお酒の飲み方には問題があるんだ」ということをしっかり受け止め「周りに迷惑をかけないためにも、治療に取り組んでいこう」という気持ちを持つことが大切です。
■アルコール依存症の自助グループ・断酒会とは?
★AA(Alcoholics Anonymous)とは?★
アルコール依存症から回復を目指す人の団体の中に、AAというものがあります。これはアルコール依存症の自助グループです。
またAAは
「さまざまな職業・社会層に属している人たちが、アルコールを飲まない生き方を手にし、それを続けていくために自由意思で参加している世界的な団体」
と位置付けられています。
AAのメンバーになるために必要なこととしては「飲酒をやめたい」という願いだけが参加条件となります。
会費などの料金は必要ありません。
現在、およそ180以上の国と地域に10万以上のグループが存在し、メンバーは200万人以上います。
日本においては、600以上のグループがあり、メンバーは5,700人以上いるとされています。
AAは、アルコールを完全に断つためのプログラムです。
「今日一日、ともかく最初の一杯に手を付けない」
AAのメンバーは、このことを常に心に置いています。
ここで、「AAの12のステップ」を紹介します。
★AAの12のステップ★
1.私たちはアルコールに対して無力であり、思い通りに生きていけなくなったことを認めた。
2.自分を超えた大きな力が、私たちを健康な心に戻してくれると信じるようになった。
3.私たちの意志と生き方を、自分なりに理解した神の配慮にゆだねる決心をした。
4.恐れずに、徹底して、自分自身の棚卸しを行い、それを表に作った。
5.神に対し、自分に対し、そしてもう一人の自分に対して、自分の過ちの本質をありのま
まに認めた。
6.こうした性格上の欠点全部を、神に取り除いてもらう準備がすべて整った。
7.私たちの短所を取り除いてくださいと、謙虚に神に求めた。
8.私たちが傷つけたすべての人の表を作り、その人たち全員に進んで埋め合わせをしようという気持ち になった。
9.その人たちやほかの人を傷つけない限り、機会あるたびに、その人たちに直接埋め合わ
せをした。
10.自分自身の棚卸しを続け、間違った時は直ちにそれを認めた。
11.祈りと黙想を通して、自分なりに理解した神との意識的な触れ合いを深め、神の意志を
知ることと、それを実践する力だけを求めた。
12.これらのステップを経た結果、私たちは霊的に目覚め、このメッセージをアルコホーリ
クに伝え、そして私たちのすべてのことにこの原理を実行しようと努力した。
以上がAAの12のステップです。
AAに参加しているアルコホーリク(アルコール依存者)たちは、これらを基にアルコールと向き合い、飲酒の問題を解決できるよう生活しています。
AAのメンバーは、AAミーティングで経験と希望を分かち合い、アルコホリズム(アルコール依存)から回復するために提案されたこれらのステップを実行していきます。
また、AAには「オープン・ミーティング」というものもあり、これには誰でも参加できます。
通常2,3人の参加者と司会者が自分のアルコホリズムとAAでの回復に関する話をし、自分たちの経験談を分かち合います。
これに対して「クローズド・ディスカッション・ミーティング」というのもあり、これにはアルコール依存症者だけが参加できることとなっています。
こういった自助グループのミーティングに参加をし、他の当事者の経験談を聞くことによって自分なりの対策を立てていくことができると思います。
★Al-Anon and Alateen(アラノン・アラティーン)★
こちらは、アルコール依存者の家族のためのグループです。
アルコール依存者の家族は、当事者によって受けている被害などをどこに相談すればいいかわからず、困っていることもあります。
このため、依存症当事者と同様に、家族にとってもアルコール依存についての正しい知識を得たり、悩みを相談できる場が必要なため、こういった家族の自助グループも必要とされているのです。
アルコール依存症の自助グループである断酒会は患者本人だけでなく家族も参加できるのですが、AAは原則本人のみの参加になります。
そこで「アルコール依存症当事者の家族だけが参加できるグループ」が作られました。それがこのアラノン(Al-Anon)です。
AAと同様に「言いっ放し、聞きっ放し」で進行するミーティングと、回復の指標とする12のステップについて自らの体験や考えを話し合っていくという2つの構成からなっています。
他の人に自分の嫌な思いや苦痛を話すことによって、それが軽減され、家族が身体的にも精神的にも健康的に生きるために助け合っていきます。
家族の悩みが減ることによって当事者への接し方にも変化が起きるなど、当事者の回復にもプラスの効果がもたらされることも期待されます。
★断酒会★
断酒会は、AAの取り組みを参考に、日本の文化などを考慮し、独自に発展したグループです。
断酒会でもAAと同様、参加者同士がアルコールに対しての自分自身の体験を語り合います。これを「断酒例会」といい、この断酒例会は全国各地で行われています。
断酒例会では、参加者同士が氏名を名乗り合います。参加者(アルコール依存症当事者)の家族も参加でき、一緒に自身の体験談を語り合います。
当事者の家族のみで行われる断酒例会もあります。
断酒例会は会員制をとっていることも特徴です。
自分(当事者)の体験を語り、また他の参加者の話を聞くことによって自分とお酒の関係を見つめ直すことにより、お酒から離れられるよう努力していきます。
このように「同じ悩みをもった者同士」という仲間意識も生まれるので、一人でお酒をやめようと努力をするよりは「仲間に支えられている」という気持ちから断酒を継続できる可能性も高くなります。
また断酒を継続することで、今までのお酒に溺れていた自分から卒業し、新しい人生をスタートさせるのだという気持ちも生まれます。
ただ、お酒を止められただけで終わるわけではありません。
お酒に飲まれてしまって失った社会的信用を取り戻したり、破綻した人間関係の再構築を図っていくことも必要となります。
断酒会に参加して体験談を話したり、他の参加者の話を聞くことによって、お酒に溺れ、見えていなかった問題がひとつひとつ見えてくるのです。
それらを解決していくことで、自分が起こしてきた問題への償いに変わり、償おうとしている当事者の姿を見て周りも変化していくのだと言えます。
お酒はたしなむ程度なら問題ありませんが、お酒に飲まれてしまっては人生が壊れてしまいます。
お酒を飲む際は、お酒を摂取することによって起きる問題も頭に入れ、自己管理できる程度に抑えていくことが必要だと言えるでしょう。
お酒は「楽しんで」飲める範囲が良いですね。
■まとめ
以上、アルコール依存症の症状やどのような経過をたどるか、また治療法や自助グループなどについて見てきましたが、いかがでしたか?
お酒は楽しんで飲める程度なら問題ありませんが、お酒に飲まれてしまうと自分の人生も周りの人の人生をも狂わせてしまいます。
もしお酒を飲む機会が増えてきたら飲みすぎないように注意し、またストレスを感じたり眠れなくなったなどの症状があったとしても、お酒だけに頼ることがないよう気を付けてください。
お酒を飲みすぎる原因の内容によっては、心療内科や精神科を訪れた方が良い場合もあります。
お酒の量が増えたな、と思ったら、一度「自分は何故お酒に頼ってしまうのか」を見つめ直してみてください。
こころやからだが疲れているな、と思われたら、医療機関を訪れてみることもお勧めします。
しかし、気を付けていてもアルコール依存症になってしまう可能性もあります。
そういった時は、自助グループに参加する、断酒会に参加するなどして他の当事者の方の意見も取り入れ、治療に専念し、社会的信用を取り戻せるよう努めていってください。
当事者の方の一日も早いお酒からの卒業を祈ります。
著者 もち猫
福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。