みなさんは「リモートハラスメント(以下、リモハラ)」という言葉は聞いたことがあるでしょうか?
リモハラとは、リモートワーク中に起きるハラスメントを指します。
ハラスメントというと、パワハラやセクハラ、マタハラなど様々なものがあります。ハラスメントは、それを行った本人の意図に関係なく相手が不快に感じ、不利益をこうむったり尊厳を傷つけられたと感じれば、それは全て「ハラスメント」であるとされてしまうので要注意です。
リモートワークでは普段の対面の仕事とは違い距離感をつかむのが難しく、知らない内にリモハラを行っているかもしれないという点があります。
リモートワークでは、対面で仕事をするとき以上に相手の気持ちを考える想像力や相手を不快にさせないコミュニケーション能力が必要とされます。
リモートワークが普及してきた現代の新たなハラスメントについてまとめました。
■リモハラって何?
リモハラ(リモートハラスメント)とは
‶在宅勤務やリモートワーク、テレワークなどにより、通常の就業場所を離れた遠隔地で勤務する従業員に対し、オンラインを介して行われるハラスメント〟
のことを指します。
リモハラが広まるきっかけとなったのは、令和2年のコロナウイルスの大流行です。緊急事態宣言などが出る中、テレワークやリモートワークを取り入れる企業も増えてきました。
そんな中、問題として浮き彫りになってきたのが「リモハラ」です。リモハラは文字通りオンライン上で行われるハラスメントであるため、他人の目がなかなか届きにくいという問題点があります。
そういったことから、一度リモハラが起こるとエスカレートしやすい傾向にあるのです。
★リモハラの原因は?★
ここではリモハラが起きる主な原因を挙げていきたいと思います。
例えばリモートワークへの理解不足から起き得る原因としては
・私生活の場面で仕事(リモートワークなど)を行っているため、プライベートとの区別がつきにくい
・宅配便の受け取りなど業務の間にプライベートな事態も入り込むのに理解が得られない
・上司が職場とは違う部下の姿を見て、親しみを込めたつもりでプライベートな質問などをしてしまう
などがあります。
また、リモートワークはコロナウイルスが理由にもなり、急速に広まっていきました。
企業側がその進展についていけていないことが、過度に監視のようなことをしてしまったり、必要以上な報告を求めるなどの行為につながってしまう原因だと思われます。
リモートワークはオフィスワークと違ってWEBカメラを使わない時以外は文字だけでのコミュニケーションとなるため、以前のようにマネジメントや適切な指示ができないと感じる上司もいるようです。
全体の仕事の進捗状況や部下の統率の不安が、前述のように過度な報告を求めてしまったりする原因の一つでもあります。
オフィスワークでのコミュニケーションの取り方とリモートワークでのコミュニケーションの取り方は柔軟に変えてくべきですが、従来のやり方に固執してしまい、部下がストレスを感じる場合も多くあります。
■どんなことがリモハラになる?
リモハラには、パワハラ型、セクハラ型、モラハラ型など種類があります。事例を挙げつつどんなものか紹介していきます。
★パワハラ型★
例としては
・業務に関係ない話を延々とする(または説教)
・業務中、常にWEBカメラを起動させ監視する
・必要以上に報告のメールやチャットを求める
・業務時間外でのチャットへの反応要求
・頻繁にWEB上での飲み会を強要する
などが挙げられます。
これは上司にリモートワークの経験がなく部下の管理の仕方が分からない、また不慣れな在宅勤務によるコミュニケーションの齟齬が原因となって起こっていると言えます。
部下が出社して勤務していた時に比べて顔を見る頻度が減ったり、コミュニケーション1つとるにしてもチャットやWEB会議などの形をとらなければならないため、上司の不安になっているのです。
そして、その不安が過度の監視などにつながってしまうことでリモハラになるのです。
リモートワーク中は上司が求めれば部下がチャットなどで応えることが当たり前と勘違いしている上司もおり「プライベートな空間にいる部下を思い通りに動かせる」と勘違いに及んでしまうこともあるので要注意です。
★セクハラ型★
例としては
・上司が女性の部下に「今日、化粧していないの?」と言う
・部下の服装を見て「いくらリモートワークでもその服装はひどくない?」と言う
・WEBカメラ越しに見えるプライベートな空間について言及する
・必要もないのに1対1の面談を強要する
・「部屋が散らかっているね。もう少し片づけたら?」など私的な空間に対して口を出す
などが挙げられます。
WEBカメラに映りこんだ部屋の様子について言及したり、部下の服装やメイクについて指摘する、また「もっと部屋が見えるように」と強要するなどは立派なリモハラに当たるでしょう。
画面越しに対話をすることで親密さが増したように上司が思いこんでしまうのが原因の1つです。私的な空間を共有したような気持ちになってしまうのです。
そして、他人の目もないということから上司はつい私的なことにまで踏み込んで質問をしてしまいます。
また上司という立場を利用して、異性の部下に1対1の面談を強要するなどして、自分の欲求・興味を満足させようとします。
在宅での勤務となり、プライベートな空間も上司に見られるようになりました。
そういったことから、仕事とプライベートの間の境界線が薄くなったように上司が感じてしまうことが、セクハラ型のリモハラにつながると言えますね。
★モラハラ型★
例としては
・「子どもの声がうるさい」などプライベートなことに対して上司が口を出す
・生活音について不快な反応をする
・チャットやSNSツールで特定の個人の誹謗中傷をする
などです。
モラハラ型のリモハラも、セクハラ型のリモハラと同じくWEBカメラ越しに相手のプライベートが見えるという環境特有の問題と言えるでしょう。
コロナウイルスの流行により自粛傾向が高まり、ストレスを抱えている方も少なくはないです。
上司も、慣れないリモートワークでの部下の管理や自粛によるストレスによって、ついこういったモラルのない発言をしてしまうのでしょう。
前述のようなWEBカメラに映るプライベート空間に関する問題発言が多数報告されており「在宅環境モラハラ」とも呼ばれるようになっています。
■リモハラの被害者・加害者にならないために
★被害者にならないために★
まずは「リモートワークも仕事である」ということをしっかり意識し、在宅だからと言って気を抜いた服装をせず、またコミュニケーションを図る際も言葉遣いに気を付けることが必要です。
以下のようなことに気を付けると、リモハラにつながらずに済む場合が多くあります、
・服装や身だしなみを整える(カジュアル過ぎないものにする)
・仕事をする場所の背景に私生活が垣間見えるようなものは置かない
・可能であれば、必要な時以外はWEBカメラをオフにする
・業務中に生活音(子どもの声や音)などが入ってしまう場合は、事前に上司に報告して、
了承を得ておく
などです。
WEBカメラにプライベートな部分が映らないようにするだけで、リモハラは減らせます。どうしても映ってしまうという場合は、スクリーンやカーテン、布などを用いるのも一つの手です。
また、在宅での仕事と言うのはプライベートと仕事の切り替えが難しいものです。そういった時に、パーティションや衝立を使った「仕事場作り」がお勧めです。
安いものだと3,000円ちょっとで手に入ります。ネットなどで探すと木製のものやカラフルなものなど色んな種類のパーティションが見つかります。
自分の部屋のカラーに合わせてチョイスし「自分が集中できる仕事場」「プライベートな部分を隠せる仕事場」を作ってみてはいかがでしょうか。
またZoom用の「バーチャル背景」というものもあります。
あるサイトでは右クリックしてダウンロードするだけ、しかも無料というとても使い勝手のいい背景が配布されています。
お洒落なインテリアの背景からリゾート地の背景まで種類豊富に取り揃えてあります。こちらもネットで検索すればすぐ出てきますので、ぜひ活用してみてください。
そして、背景を整えたら上司への対策を行っていきましょう。上司は慣れないリモートワークで仕事の進捗状況が心配です。
そのため、要求されてから応えるのはもちろんですが、こちらから「今どの仕事がどこまで進んでいるか」といった進捗状況をマメに伝えるのです。
そうすれば、上司からの「仕事の方はどうなんだ!」という過度な報告を求められるのを防ぐことができます。定期的な報連相、迅速なチャットやメールで上司からの攻撃を防ぎましょう。
★加害者にならないために★
まず、大前提として上司だけでなく部下も「リモハラについての正しい知識を持つ」ことが大切です。
そのためには、社員教育が必要です。
「リモハラはやる従業員が悪い」などと言っていては社内の空気も人間関係もギスギスしたものになりかねません。
社員教育を行い、リモハラについて正しい知識の普及をすることによって被害者・加害者になる可能性を排除するのです。
そして「わざとやっていたわけじゃない」といった事態を防ぐためにも、リモートワークについてのルールやマナーをきちんと定めておくことが重要です。
ルールは従業員を‶縛る〟ものではなく‶守る〟ものであることを認識しルール作りを行っていきましょう。
第一に心がけておかなければいけないのが「ハラスメントは相手が不快と感じたら成立してしまう」ということです。
言動に気を付けておかないと、親しみをこめて言った言葉でもセクハラなどととらえられて「リモハラだ!」と言われてしまうこともあり得ます。
つまり、誰にでもリモハラの加害者となってしまう可能性はあるということです。
上司が部下を管理しようと必要以上に報告を求めるといったパワハラを起こすこともありますが、部下がリモートワークにうまく対応できない上司を嘲笑し訴えられてしまう場合もありえます。
上司から部下へおこなわれるハラスメントだけが悪とされるのではなく、上司を馬鹿にしたりして人権を侵害するようなことを行えばそれも立派なリモハラです。
リモートワークではオフィスワークより意思疎通が難しいため、まずは言動をいつも以上に丁寧にすることです。
「相手にこれを言ったらどういう気持ちになるか」など相手への配慮を忘れず、言葉遣いも丁寧にコミュニケーションを行っていきましょう。
そしてセクハラ型のリモハラの部分にも書きましたが、プライベートな部分についてWEBカメラ越しに言及するのも慎みましょう。
例え気になったことがあったとしても「見て見ぬふり」をするのが一番です。
もしあなたが何気なく言ったひとことでも、相手が不快と感じればリモハラとされてしまいます。
ですから、仕事以外のことで気になってもそれは「見なかったもの」とし、プライベートについては触れないようにすることでリモハラは防げます。
■もし、リモハラを受けたと感じたら
まずはその行為についての証拠を集めていくことが必要です。リモハラはチャットやメールなど証拠を残しやすいのが特徴です。
加害者からのメールなどのスクリーンショット、WEB面談では会話の内容の録音などをしておいて、それをリモハラの証拠とします。
そして、もし会社に相談窓口があるのならそこに相談しましょう。
もし相談窓口がない場合は、上司から受けているリモハラならそのさらに上司に当たる人に、また上司が部下から起きているリモハラの場合は同僚と連名でルールなどの改善を求めることも効果的です。
社内で相談できなかったり、企業の力だけでは解決できない場合は、労働局や労働基準監督署に設置されている「総合労働相談コーナー」や「厚生労働省委託事業ハラスメント悩み相談室」(WEBサイト)を利用するのも一つの手です。
厚生労働省委託事業ハラスメント悩み相談室では電話相談とメール相談を受け付けており、相談は無料です。
職場で起きるハラスメント全般についての相談をすることができます。
またハラスメントの詳細も記載してあり「これはハラスメントなのかな?」と疑問に思っていることがハラスメントに当たるのか確認することもできます。
もちろん匿名可、秘密厳守で相談に乗ってもらえます。
「会社側に伝えるのは少し気が引けるな」
「今後の人間関係を考えると相談しづらいな」
といった場合にも、悩み相談室は有効な手だと思います。自分一人で悩んでいても解決しません。
しかるべきところに相談し、自分を守ってあげてください。
■企業側ができること
前述しましたが、やはり「ハラスメントに対する正しい知識の普及」は大切です。セミナーの開催や、勉強会の実施などを積極的に行っていくべきです。
またそういったことが起こってしまった場合の相談窓口を作ることも必要不可欠な要素です。さらに、設置するだけでなく社員全員に周知しておくことも重要です。
上司がそれを見ればハラスメントの防止になりますし、部下がそれを見ればハラスメントを受けた時にどこに相談すればよいのかわかり、もし被害を受けている人がいたとしたらすぐ相談に行くこともできるので、安心材料にもなるでしょう。
そういった窓口を設置することも大切ですが、もし被害者が相談に来た場合、それによって不利益を被らないように配慮することもポイントです。
普段から上司・部下共々どういった行為がハラスメントになってしまうのかを意識しながら働き、また企業としても被害者だけが被害を被らないように風通しのいい人事を目指していくことが必要になってくると思います。
■リモハラについてまとめ
リモートワークをしていると、つい親近感が増したような気がしてプライベートなことに関して口走ってしまったり、親しみを込めて言った言葉がセクハラだと思われてしまったりと問題が起きるリスクは高いです。
上司は部下のプライベートなことには触れず、また必要以上の報告を求めるなどの行為は控え、新しい働き方に慣れていく必要があると思います。
たしかに慣れないリモートワークで距離感をつかむのも難しいかもしれませんが、そういったことは企業側がセミナーを実施するなどして働き方改革を行っていく必要があるでしょう。
部下もリモートワークに慣れない上司を嘲笑したりといったことは控えるべきです。
しかし「リモハラだ」と感じた場合は自分一人で悩まず、先ほど挙げた相談先や企業の相談窓口、人事部などに勇気を持って相談すべきです。
軽いリモハラを許していると、それがだんだんエスカレートする恐れがあるからです。
加害者・被害者にならないためにも、今の時代に必要とされている働き方に適応していくことがリモハラをなくす第一歩なのではないでしょうか。
著者 もち猫
福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。