持続性抑うつ障害とはDSM-5以前「気分変調症」と呼ばれていた障害です。
この障害では1日中抑うつ気分が続くことが特徴です。常に憂うつな気分が2年以上継続するものの、うつ病の診断基準となる「抑うつエピソード」は満たさない症状をいいます。
つまり、うつ病までは行かないものの、慢性的に憂うつな気分が2年以上続く「気分障害」の中のカテゴリーの中の「抑うつ症候群」に該当するものといえます。
持続性抑うつ障害が重症化することによってうつ病へと移行してしまう場合もあります。
そんな「持続性抑うつ障害」についてまとめました。
■持続性抑うつ障害の症状と診断基準
ここでDSM-5での「持続性抑うつ障害」の診断基準を見てみましょう。
A.抑うつ気分がほとんど1日中存在し、それのない日夜もある日のほうが多く、少なくとも
2年以上続いている。
B.抑うつの間、以下のうち2つ(またはそれ以上)が存在する
1.食欲の減退又は増加
2.不眠又は過眠
3.気力の減退又は疲労感
4.自尊心の低下
5.集中力低下または決断困難
6.絶望感
C.この症状の2年間の期間中、一度に2か月を超える期間、基準AとBの症状が
なかったことはない
D.2年間、うつ病の基準を持続的に満たしているかもしれない
E.躁病エピソードまたは軽躁病エピソードが存在したことは1度もなく、また
気分循環性障害の基準を満たしたこともない
F.障害は、統合失調症、妄想性障害、その他特定不能の統合失調症スペクトラム障害や
その他の精神病症状ではない
G.物質、または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない
以上がDSM-5での持続性抑うつ障害の診断基準です。
持続性抑うつ障害はうつ病まではいかないものの、
・抑うつ気分
・イライラ
・憂うつな気分
・意欲の低下
・集中力の低下
などの症状が2年以上続くものです。
こういった症状が慢性的に続くため、当事者は「毎日が辛い」「自分は無価値な人間だ」などといった考えを抱きやすい傾向にあります。
1日の内では、夕方にかけて落ち込みや辛さが増していくことが多いです。
何か楽しいことや嬉しいことがあると多少気分は上がるのですが、しばらく経つとまた憂うつな気分が襲ってきます。
うつ病よりも落ち込み方が軽度で、特にきっかけがなく落ち込むことが多いので「これが自分の性格なんだ」と思いこんでしまうこともあります。
そのため「これは病気のせいだ」と思うことがなく、病院に行く機会を失う人も少なくありません。
そのため、適切な治療を受けないまま時間が経過してしまうとうつ病を併発してしまう恐れもあるのです。これを‶二重うつ病〟ということもあります。
うつ病が治ったとしても、持続性抑うつ障害は残る可能性が高いです。
そのため、うつ病の症状が軽減しても本人の精神状態が改善しない時には、持続性抑うつ障害を疑うべきです。
またパニック障害や不安障害を合併する場合もあります。これはストレスへの耐性が弱まってしまっているからです。
不安な日々が続くことからアルコールを摂取しすぎてアルコール依存症になってしまったり、薬物に手を出してしまう人もいます。
この様なことを見てくると、持続性抑うつ障害は毎日不安な気分が続くことから、様々な合併症を発症する恐れがある病気だと言えそうです。
このように持続性抑うつ障害の患者さんは日常的な憂うつ感に悩まされるため、楽しみも少なく、日々苦しい思いをしているのです。
★あなたは大丈夫?症状をチェック!★
こんな症状があったらあなたも持続性抑うつ障害かもしれません。
・抑うつ的な気分が一日続く
・抑うつ気分を感じる日が多い
・周りの人たちが抑うつ気分を認めている
・食欲が低下する、または過剰に食べてしまう
・眠れない、または眠りすぎてしまう
・からだが怠い
・絶望感を感じる
・憂うつな気分が2年以上続いている
・双極性障害や気分循環症とは違う
・焦りが強くなる
どうでしたか?たくさん当てはまったからといって持続性抑うつ障害だ、と確定されるわけではありませんが、傾向はあるかもしれません。
■持続性抑うつ障害の原因は?
★遺伝★
持続性抑うつ障害の原因は、遺伝にもあると言われています。
持続性抑うつ障害の患者さんの家族を調査してみたところ、うつ病を患っている親族が居たというケースも見られます。
特に若い時にこの病気を発症する場合には遺伝的要因も関わっているのではないかと言われています。
★環境★
大人でも環境の影響は受けますが、思春期の場合自意識が高くなることや周りの目を気にすることも多くなるため、影響が大きいとされています。
・自分に自信が持てない
・周囲に気を遣ってしまう
・きっちりとしすぎた生活リズムでの生活を送っている
などの症状を持ちながら、慢性的なストレスを感じると持続性抑うつ障害へと発展することもあります。
子どもの場合、学校でいじめに遭ったり、親との死別を経験すること、また大人の場合失業や離婚、年老いた親の介護なども発症の原因となる場合があります。
こういった原因の中でも、すぐに終わることのない長く続く問題がストレスの原因となり、そのストレスから持続性抑うつ障害を発症するというケースが多いようです。
★性格★
前述した「神経症的傾向」を示す場合は持続性抑うつ病と関連していると言われています。
感情が不安定となり、落ち込みやすくなるため発症に至ってしまうこともあるようです。
ただ病気になりやすい性格はあっても「性格=病気」というわけではありません。
神経症的性格傾向の人は憂うつになったり落ち込みやすかったりしますが、ずっと落ち込んでいるばかりではないのです。
確かに神経症的傾向は病気になりやすいですが、決して「悪い性格」というわけではないのでご注意ください。
■神経症的傾向のメリットは?
ここで神経症的性格のメリットを紹介したいと思います。
★物事を深く考えることができる★
‶ポジティブイリュージョン〟という言葉があります。これは物事を実際よりも楽観的に見るという傾向です。
楽観的な傾向の人だけでなく、普通の人でも抱えていることがある傾向です。
実際に、自分が行った課題に対して予想得点をたずねる実験で、多くの人が実際の得点より高い得点を予想していたという実験もあります。
その中で、唯一正確に近い得点を予想できたのは神経症的性格傾向の人だけだったのです。
そういったことから、神経症的性格傾向の人は忖度なく物事を考えられる人だと言えると思います。
★気配りができる★
神経症的性格傾向の人は周りの環境の変化に敏感に反応したり、周りの人の気持ちを読み取ったりすることが得意なため、周りの人たちに配慮して行動できるところがあります。
誰かが困っていても敏感に察知できるため「気配りが上手」「よく気が利く」ともいえます。
★SOSに早く気づける★
神経症的性格傾向の人はたしかに病気になりやすいです。
しかし「細かいことが気になる」「ちょっとした変化にも気づける」といったことから、からだやこころのSOSにも早く気づくことができると言えます。
そのため自分のからだやこころの状態を把握しやすく、少しでも異常が見つかれば早く対応することができます。
■持続性抑うつ障害の治療
持続性抑うつ障害は落ち込みはあってもうつ病ほど強いものではないため「性格のせい」などと捉えてしまうことも多く、また日常生活も何とか送れるため病気だと気づくことが遅くなる場合もあります。
また周囲から「甘え」であると指摘されることもあり、病識をもちにくいです。
そのため病院に行くのが遅れてしまい、治療に至るのが遅れてしまうこともあります。
病院で「持続性抑うつ障害である」と診断された場合には、薬物療法と精神療法を行います。
以前は薬物療法の対象ではないとされていましたが、近年の治療では抗うつ薬などが処方されます。
いくつかの新規抗精神病薬(SGA)は、単独で使用したり、また抗うつ薬への付加療法で効果があることが報告されています。
他にもうつの症状で「食べられない」「眠れない」といった症状がある場合はそれを改善する薬も処方されることがあります。
また精神療法では認知行動療法、精神分析療法、対人関係療法などが行われます。
認知行動療法では、患者さんのものの考え方・捉え方にアプローチし、抑うつ的な考え方(どうせ自分なんて、などという否定的な捉え方)を新しい考え方に変えていけるよう働きかけていきます。
そして患者さんの良いところを引きだし、物事を前向きにとらえていけるよう思考の方向性を変えていきます。
対人関係療法は、特に対人関係が症状に関連していたりストレスの原因となっている患者さんに行われる精神療法です。
1回50分、20回までの期間限定の療法です。
エビデンス(根拠)も確立されており、自分の気持ちや考え方に影響を与える「重要な他者」との現在の関係が病気の症状に関わっていることが明確な場合に効果を現わすとされています。
対人関係療法では、身近な重要な人物(家族、パートナーなど)との現在の関係に着目します。
その「重要な他者」とどのような関係にあり、普段どのように関わっているか(コミュニケーションのとり方など)を把握します。
そして、例えば母親とのコミュニケーションをとった時のことに対して、それをどう解釈してどんな気持ちになったのか、本当はどのようなことを期待していたのか、それ(期待していること)を手に入れるためにはどのような行動をとればいいか(コミュニケーションの取り方を含む)を治療者と一緒に考えていきます。
そしてお互いがストレスなく付き合っていけるように、好ましいコミュニケーションの取り方や接し方を学んでいきます。
■治療の上での本人・周囲の心構え
「性格のせいだから」
そういって諦めてしまう人も少なくはないこの病気。しかし、薬物治療や精神療法を続けていくことによって回復することは可能なのです。
一気によくなることは稀ですが、少しずつ治療を進めていけば症状は回復します。
先ほど紹介した認知行動療法や対人関係療法などで「自分のものの考え方」「コミュニケーションの取り方」などを変えていけば日々の生活が楽になってくると思います。
「自分のものの考え方を変える」とは「自分の内面と向き合い、内面を変化させる」ということです。それは苦しい作業かも知れません。
自分の今までの「当たり前」を変えていくのですから。
しかし今までのような「自分はダメな人間だ」「物事がうまくいかないのは自分の性格のせいだから」などといった考え方は‶病気のせい〟だと思ってください。
自分を肯定的に見ることができない、いつも自分を卑下してしまうのは‶性格のせい〟ではなく‶病気のせい〟であることを受け入れてください。
「自分の弱点だと思っていたことは実は病気のせいだったんだ」
そう思うことで、いつも訳もなく落ち込んでいたことに理由付けができます。
しかし、このように思えるようにはひとりでは難しいかもしれません。精神科・心療内科の医師やカウンセラーなど「相談相手」を見つけることも大切です。信頼できる相手ならば友人や家族でもいいです。
こころから信頼できる相談相手を探しましょう。
そして相談相手が見つかったら、本心を語っていきましょう。
最初から話すのが難しかったら、手紙にして伝えるのも一つの手です。
文章にならないなら、まずは思いついたことからどんどん紙にアウトプットしていきましょう。
そうすれば漠然としていた思いが形になって現れてきます。そうやって自分の想いを整理していくのです。
その中で、少しずつでいいので「自分の良い面」にも目を向けられるようにしていきましょう。
一人では難しいかもしれませんが、相談相手となってくれている人にも力を借りれば必ずあなたの良いところは出てきます。
このように‶今までの悲観的なものの見方は病気のせいだった〟と思い直すことで自分の良いところを認めてあげることができ、ものや出来事の見方も良く変わってきます。
焦らず、ゆっくり取り組んでいきましょう。
一人で頑張る必要はありません。周りの信頼できる人たちに力を借り、症状が軽減できるよう努力できると良いですね。
あなたの苦しみが少しでも緩和されることを祈っています。
■まとめ
以上、持続性抑うつ障害の症状やチェックテスト、治療法などについて解説してきました。
このコラムを読んで「私も持続性抑うつ障害かもしれない」と思った方もいらっしゃるかもしれません。
そういった方は早めに精神科や心療内科を受診されることをお勧めします。受診を押し付けるわけではないのですが、早い発見に越したことはないからです。
何もなかったら何もなかったでいいのです。
それよりも症状を放っておいて悪化してしまう方が危険です。
小さい芽のうちに摘み取ることで悪化を防いでいきましょう。苦しさを無理やり我慢することはないのです。
「風邪っぽいな」と思ったら内科に行くように「こころの調子が悪いな」と思ったら早めに精神科や心療内科を訪れてみてください。
苦しさの原因がはっきりするだけでも気持ちが楽になると思います。
精神科や心療内科は特別な場所ではありません。怖いところでもありません。
もしあなたが前述のような症状で悩まれているのなら、一歩踏み出してみてください。それが回復への一歩となります。
少しでもあなたが楽になること、そしてよりよい日常生活が送れるようになることを願っています。
著者 もち猫
福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。