双極性障害(躁うつ病)について~気分の波が現れたら要注意!~

障害

なんだか気分が落ち込むな、と思っていたら急に元気が出て来て、普段なら買わないような高価なものを衝動的に買ってしまった、ハイテンションになってどんなことでもできるような気分になった、などということはありませんか?

そういった場合、双極性障害(躁うつ病)が疑われます。

もし、うつ状態が続くのなら自ら精神科や心療内科を訪れるかもしれませんが、躁状態が続いていると自分では「病気である」という考えには及ばないため、なかなか病院に足が向くことはありません。

しかし、うつ状態の時に病院に行って「うつ病である」と誤診されてしまったら大変です。なぜなら躁うつ病とうつ病はまったく違う病気で治療法も違うからです。

周囲も、そして自分自身も自分のこころの異変に気付いて、早期治療につなげることが大切です。

■双極性障害ってどんな症状?

双極性障害は、気分がやけに上がってハイテンションになる躁状態と、気分が落ち込んでしまううつ状態を繰り返す脳の病気です。

躁状態とうつ状態は両極端な症状です。その間をいったりきたりするのが双極性障害なのです。

前述したように、うつ病と混同されることがありますが、違う病気であり治療の仕方も異なってきます。

誰にでも「気分の波」はあります。しかし、双極性障害の‶躁状態〟は「これは普通ではないのでは?」といったものなのです。

誰彼構わず話しかけたり、何日も眠らずにエネルギッシュに行動したり、大きな買い物を衝動的にしてしまったりと、とにかく「普通」とは違うくらい「躁」の状態が行き過ぎています。

他にもみられる‶躁状態〟の例を挙げます。

・ぐっすり眠れなくなる
・人が変わったように気分が高揚する
・怒りっぽく不機嫌になる
・自分が偉くなったような気がする
・買い物やギャンブルにお金を使いすぎる

まだほかにもありますが、一例を挙げますとこの様な感じです。

一方、うつ状態はどんなものかというと気分がふさぎ込み、やる気がなくなってしまったり、意欲の低下が起こってしまったりということが起きます。

うつ状態の時に見られやすい症状としては

・気分がふさぐ
・憂鬱で涙が出る
・眠れなくなる
・希死念慮(死にたい、消えたいという気持ち)がわいてくる
・人と話すのが苦痛

などがあります。

このような躁状態とうつ状態をくりかえし、社会生活や日常生活に支障が出てしまう症状が双極性障害です。

躁状態が起きてからうつ状態に陥ると、躁状態の時にしてしまった自分の行動について思い出して、より憂うつな気分になったりもします。

そのため自分を責めすぎたり、自分を傷つけるような行動に出てしまうこともあるのです。

双極性障害は躁状態からうつ状態に急激に変化するため、より一層負担が大きくなり、うつ状態もひどいものとなりがちです。こういったときに当事者が危ない行動に出ないか気を付けなくてはいけません。

■双極性障害とうつ病の違いは?

双極性障害は、うつ状態と躁状態、または軽躁状態とうつ状態を繰り返す病気です。

「自分は偉くなった」といった寛大な気持ちになったかと思えば、躁状態の時に行った行動について必要以上に自分を責めてしまったり、自分自身の存在を否定したりとうつ状態に陥る、という躁とうつの波を繰り返すのが特徴です。

しかし、うつ病は‶単極性うつ病〟ともいい眠れなくなる、気分が落ち込む、意欲がなくなる、食欲が落ちるなどといったうつ状態のみが見られる病気です。

その病気になる原因も違ってきます。

★うつ病の原因は?★


未だ「これが原因だ」といえるはっきりとした原因は分かっていませんが、うつ病になる原因の一つにストレスがあります。

仕事の疲れや家庭でのトラブル、寝不足、過労、また本来ならば嬉しいことであるはずの子どもの自立や結婚がストレスになることがあります

こういったことがこころの中に重なっていき、キャパオーバーを起こすとうつ病になるとされています。

重症になると「死んでしまいたい」など重篤な気持ちが現れることもあります。

ストレスに対する強さは生まれ持ったもので決まり、遺伝や生育環境もうつ病のなりやすさに影響を与えていると言えます。

★双極性障害の原因は?★


双極性障害の原因は、遺伝的な体質により神経伝達物質の機能が正常に機能しないことであると考えられています。

ストレスが発症のきっかけとなることはありますが、直接の原因ではありません。

また、双極性障害を引き起こす遺伝子は見つかっていませんが、発症には遺伝的な側面もあるのではないかと言われています。

しかし、未だ「これだ!」という原因を特定できたわけではありません。

■双極Ⅰ型と双極Ⅱ型

双極性障害の中にも2つの種類があり、それぞれ「双極Ⅰ型」「双極Ⅱ型」と分けられています。特にⅡ型は症状がうつ状態から始まるため、長く続くとうつ病と見分けがつかないという厄介なものです。

うつ状態が長く続き「治りにくいうつ」として捉えられていたものが、躁状態が現れることによってはじめて「双極性障害(Ⅱ型)」であるとわかることが多い傾向にあります。

双極性障害と分かるまで10年ほどかかる場合もあり、それまで適切な治療が受けられないのが当事者の辛い部分です。

この章ではⅠ型とⅡ型の違いについて解説していきます。

★双極Ⅰ型★


躁状態とうつ状態が現れるタイプです。躁状態は仕事や人間関係の破綻をきたすほど大きいものが多く、入院が必要になる場合もあります。

周りから見ても「明らかに普通ではない」とわかるほどです。

躁状態は1週間以上続きます。時には幻聴や妄想なども併せて見られることがあります。

うつ状態の重症度はうつ病と同じ程度です。

うつ状態では気分がふさいでしまって、心身のエネルギーがなくなってしまいます。病気の期間の約3分の1は抑うつの状態にあるとされています。

発症するのに男女差はありませんが、再発を繰り返すのも特徴の一つです。

★双極Ⅱ型★


Ⅰ型と違い、軽躁状態とうつ状態が見られるタイプです。Ⅰ型より躁状態が軽いため見逃されやすく、入院の必要もない場合が多いです。

しかしⅠ型より躁状態が軽いからと言って病気の症状が軽い、というわけではありません。

多くはうつ状態から始まり、うつ状態の期間はⅠ型より長い傾向にあります。重症度はうつ病と同じくらいです。

うつの程度はⅠ型と同じくらいですが、うつの期間はⅡ型の方が長く、病気の内の約半分をうつ状態で過ごすとされています。また、自殺のリスクもⅠ型より高いと言われています。

そして

・パニック障害
・社交不安障害
・アルコール依存症
・摂食障害

などを合併するケースもあるので要注意です。上に挙げたのは一例ですが、もし合併症にかかった場合、長いうつ状態の治療と合併症の治療を並行して行っていくことになります。

双極Ⅱ型では

軽躁状態が少なくとも4日以上持続し、うつ状態も少なくとも2週間以上持続し、それぞれの期間内はほぼ毎日、終日症状が現れている

場合に診断されます。

Ⅱ型は慢性化しやすく、躁状態よりうつ状態の方が長く現れやすいです。そのため、治療にも時間がかかる場合があります

この2つをどう分けるかと言うと‶躁状態がはっきりしているかどうか〟です。明らかな躁状態が見られればⅠ型、軽躁状態が続き、うつ状態が長引いているならⅡ型といった具合です。

双極Ⅰ型では社会生活に破綻をきたすほどの躁状態が現れます。何日も寝ないで動き回ったり、時間に関係なく誰彼構わず電話してしまったり、大声で話していてさえぎられると怒るなど「明らかな躁状態」が続きます。

双極Ⅱ型では社会生活にはそれほど影響はない軽躁状態が現れます。本人が気づくより先に周囲が気づくことが多いようです。

なぜ軽躁状態に気づかないかと言うと、うつ状態の時と比べて気分が良くなった気がして、自分では「元気が出てきたのかな」と勘違いしやすいからです。

■双極性障害の治療

双極性障害は、ほかの精神疾患と同じく早期発見・早期治療が大切です。

前述しましたように双極性障害と分かるまでに10年かかる場合もあるということから「何かおかしいぞ」と思ったり、周囲の人から見て「様子がおかしい」と感じたら早めに精神科・心療内科を訪れてみることが重要です。

何もなかったらなかったでいいのです。それよりも「もしかしたら」という可能性を感じた時に何もしないでいると、重症化してしまう可能性もあります。

その前に手を打っておくことが必要です。

病院に行く前に周囲の人に自分について

・妙におしゃべりになったことはなかったか
・何日も寝ないで活動していたことはないか
・誰彼構わず大声で話しかけていたことはないか

など、躁状態の病状がなかったか

・気分が憂うつになってなにもできなかったことはないか
・死にたい気持ちに襲われたことはないか
・意欲・やる気・食欲が失せてしまったことはないか

などのうつ状態の症状がなかったかどうかを尋ねるなどしていくと、正確な情報が医師にも伝わり、正確な診断がされやすくなります。

双極性障害の治療の目的は、躁状態・うつ状態から抜け出し、再発を防ぐことにあります。再発を繰り返すと症状が悪化する場合もあるため、再発は防止しなければなりません。

治療としては、薬物療法と心理社会的療法を主に行っていきます。

双極Ⅰ型は特に長い間投薬治療を行っていきます。用いられる薬としては気分安定薬や抗精神病薬などです。

しかし、どんな薬を飲むかよりも「継続して服薬できるかどうか」が大切になってきます。

まずは「自分は病気である」という意識を持ち、医師の指示のもと再発を防ぐためにも薬を服用し続けていくことです。

継続して服薬していれば、症状をコントロールしながら今までと同じような生活を送ることができるようになります。

「病気になってしまった」などと悲観せずに「病気も自分の一部なんだ」と受け入れ治療を積極的に行う姿勢を持ちましょう。

心理社会的療法では、心理教育や認知行動療法、対人関係・社会リズム療法などといったものが用いられます。

★心理教育★


患者自身が病気を受け入れ、コントロールできるようになることを目標に行います。そのため、心理教育は発症した初期に重要なものとなります。

また病気の特徴を理解し、再発のサインを知っておくことも大切です。

それを知っていれば再発する前に対処することができるからです。

★認知行動療法★


うつ状態になると「○○ができなかった」などと否定的な方向に考えが向きがちです。その‶考え方の癖〟に気づき、肯定的、客観的な考え方が出来る様にその癖を修正していきます

★対人関係・社会リズム療法★


双極性障害では、生活リズムの乱れが症状の悪化に繋がることが知られています。

対人関係・社会リズム療法は対人関係から生じるストレスや、双極性障害にかかってしまったというストレスを軽減させる対人関係療法と、社会生活を送るにあたって生活リズムを整えていくことを目的とする社会リズム療法を組み合わせたものです。

良好な対人関係を築ければ周囲の人にも病気のことを理解してもらえ、サポートを得ることができます。

また、自分にとってどんな生活リズムが調子よく毎日を送れるものなのか把握しておくことで、規則正しい生活が送れるようになり症状も安定化してきます。

自分の生活リズム(起床時間、食事の時間など)を表などにして視覚化し、守れるようにしておくといいかもしれませんね。

★本人が知っておくといいこと★


まずはやはり「服薬を怠らないこと」です。心理社会的療法も大切ですが、服薬を怠ってしまうと再発のリスクが高くなります。

それを避けるためにも「もう症状が治まったから大丈夫」などと自己判断せずに主治医の指示に従い、処方された薬は適量を守って服薬を継続していきましょう。

また「何かちょっと調子が悪いな」などと思ったら、周囲の人に相談したり、主治医にも調子がおかしいことをしっかりと伝えていくことが大切です。

それはもしかしたら再発のサインかもしれないからです。

前述したように精神疾患は早期発見・早期治療が大切です。

再発しないためにも、常に自分のこころの状態をチェックし、いつもと違った様子はないか点検しておくことが大事です。

また、社会復帰を焦らないことも1つのポイントです。双極性障害は適切な治療を続けていけば症状はコントロールできるようになりますが、生活リズムの乱れを起こしやすい病気でもあります。

そのため、いきなり「フルタイムでバリバリ働こう!」というのではなく、デイケアに通う、福祉的就労を利用する、リハビリ出勤をしてみて段階的に時間を増やしていくなど、働き方にも工夫が必要となってくると思います。

自分のこころと相談しながら、階段をゆっくり上るように社会復帰を目指しましょう。

■まとめ

以上、双極性障害の症状からⅠ型、Ⅱ型の違い、治療法など解説してきましたがいかがでしょうか。

前述しましたが、双極性障害はかかってしまったとしても服薬や心理社会的療法で症状をコントロールすることによって、社会生活を支障なく送れるものです。

ですから、自己判断で服薬を中断してしまったり、治療を投げ出してしまったりしてはいけません。

治療は長く苦しいものになるかもしれません。しかし、いずれは社会復帰も望めますし「病気は自分の一部」と認識していくことで「治療を頑張ろう」という気持ちになれると思います。

・規則正しい生活を送ること
・服薬を自己判断で中断しないこと
・病気になったからと言って悲観せず、治療に積極的に臨むこと
・社会復帰を焦らないこと

などを大切にして、治療に励んでいってほしいと思います。

きっとまた晴れやかな気持ちで、自分らしい生活を送ることができるようになるはずです。

著者 もち猫
福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。