境界性パーソナリティ障害。
この障害は対人関係が不安定になりやすく、日常生活や社会生活に支障を来たしてしまうものです。
この障害の患者さんはとても敏感で、いつも親しくしてくれていた人が少しでも自分から離れていこうとすると不安や怒りが急激に現れ、自分を傷つけてでもその人を引き止めようとするなど「見捨てられ不安」がとても強いです。
また気分も不安定で物事を「良い・悪い」の両極端な考え方で判断をしがちです。そしてネガティブな感情を抱きやすく、自傷行為や自殺企図が見られるのも特徴です。
そんな「境界性パーソナリティ障害」についてまとめましたので、興味のある方はご覧ください。
■境界性パーソナリティ障害の症状
境界性パーソナリティ障害の主な症状は以下のようなものです。
・見捨てられ不安が強く、相手が離れようとすると必死でしがみつこうとする
・自殺企図や自傷行為を繰り返す
・目まぐるしく気分が変動する
・対人関係が両極端、不安定
気分の変動が激しく対人関係がうまくいかなかったり、行動にも不安定な面が出て来て日常生活や社会生活に支障を来たしやすくなってしまいます。
ただ、自分から信頼していた人が離れていこうとすると必死にしがみつき、時には自傷行為や自殺企図などをしてまで自分のもとにとどめておこうとします。
「見捨てられる」という不安から自分でも自分をコントロールできなくなってしまうのです。
冷静になると「何であんなことをしてしまったんだろう」と自分を責めたりしてしまうのですが、不安になると過剰といえるまでの行動に出てしまうのがこの障害の特徴です。
「境界性パーソナリティ障害」の「境界性」というのは「神経症」と「統合失調症」という2つの病気の境界線にある症状を示す、ということを指します。
例えば「強いイライラ」は神経症的な症状で「現実が冷静に認識できない」というのは統合失調症的なものです。それを併せ持ったものが「境界性パーソナリティ障害」なのです。
よく見られる症状を詳細に見ていきましょう。
・現実又は妄想で、見捨てられ不安が強い
・対人関係が激しく、コミュニケーションをとるのが難しい
・気分や感情が目まぐるしく変わり、周囲の人たちがついていけない
・感情のブレーキが効かず、ちょっとしたことで癇癪を起こしたり、
激しく怒り、また傷つきやすい
・自殺企図や自傷行為を繰り返し、周囲を戸惑わせる
・いつも空虚で、幸せな気分を持ちにくい
・生きていることに対して辛さや違和感を持ち、自分が何者であるかわからない
・強いストレスがかかった時、一時的に記憶が飛ぶ
などがあげられます。
いくつか症状について見ていきましょう。
★見捨てられ不安★
この病気の当事者は孤独でいることを嫌います。また自分という存在がまったくない、と感じることがあり、これは自分を気遣ってくれる他者がいない場合によく見られます。
こころの中は空虚感を感じていることが多いです。
そして、その人が自分から離れていこうとすると怒り、恐れを抱きます。
例えば、約束をしていて相手が遅れた場合、それを「自分と会いたくないから遅れたのだ」と考えることもしばしばです。
そのため、少し遅れただけでも激怒したり相手をものすごく責め立てたりしがちになります。
相手が遅れたのを自分への関心と絡ませて考えてしまうので、どうしてもそういう激しい対応をとるようになってしまうのです。
これは相手が「自分に対してはこう振る舞ってくれるだろう」という高い期待を抱いているからとも言えます。
それなのに相手が約束の時間より遅れて来た。ということは自分のことを大切に思っていないのでは?と思ってしまうわけです。
そしてその怒りが爆発し、相手を激しく責め立てるのです。
★怒り★
境界性パーソナリティ障害の患者さんは怒りをコントロールすることにも困難を感じ、不適切で痛烈な怒りを現します。
皮肉や嫌味、または怒りのこもった痛烈な批判として表現することもあります。
これも前述のような見捨てられ不安が原因で起こりえます。
無視されたと感じたり、ないがしろにされたと感じたりしたときに親しくしていた人や恋人、親などに対して爆発しがちです。
しかし、この様な形で怒りを爆発させたあと、それに対して恥ずかしさや自責感を感じ「自分は悪い人間だ」「恥ずかしい人間だ」などと感じることもあります。
★変わりやすさ★
境界性パーソナリティ障害の患者さんは、両極端な考え方をしがちです。
ある時はその人を理想化し、親密な関係を築きますが何か起こってその人から離れた時、幻滅し、その人に対して怒りを露わにしたり、けなしたりをすることもあります。
支えられていると感じた時には無防備で、愛情を求めますが、その愛情が脅かされたり、別の方向へ向いてしまった時、相手のことを低く評価する場合もあります。
周りの人が冷たくなった、自分に関心を示さなくなったなどが理由で感情の爆発が起きる傾向にあります。
周囲の対応について不満がある場合、自傷行為や自殺企図をしてまで自分のほうに振り向いてもらおうとします。
しかし周りもだんだん「またか」と対応するのにも辟易してくるため、相手にしなくなってきます。すると、本当に命を脅かす行為に突っ走ってしまうということも起こりかねません。
★境界性パーソナリティ障害の原因★
パーソナリティ障害がある人は、もともとその人固有の「気質」がかかわってくるといえます。
その「気質」というのはその人のパーソナリティの基礎となるもので、遺伝が原因ともいわれていますが、まだパーソナリティと遺伝については研究がなされている途中なので、その関係性についてははっきりとしたことはわかりません。
また「環境」も境界性パーソナリティ障害になる原因の一つです。
例えば家族間での親離れ・子離れができておらず依存的な関係にあったり、親が子どものいい面を認めず、言うことを聞かないと叱責してばかりいて、子どもが親の言われるままに育ってしまった場合などがその例です。
こういった場合「親の言うことは絶対」と思っていて、自分が行ったことに対して親が叱責してくると「自分は間違っているんだ」「自分の意見を持ってはいけないんだ」と自責的になったりして、自己否定感がわいてきます。
そのようにして親の敷いたレールの上を走ってきた人の中には「自分の価値観」というものを持たない人も存在するのです。
このように、境界性パーソナリティ障害についての先天的な要素を持ちながら生まれ、さらに環境要因も重なることによって障害を発生してしまう可能性もあると言えます。
その他にも友人や恋人から嫌な思いをすることをされたり、虐待やいじめを受けたりしてトラウマが作られ、フラッシュバックによって起こるものや、理想とは程遠い自分に失望して境界性パーソナリティ障害を発症してしまうというケースもあります。
メンタルに問題を抱えているため(先天的な脆弱性があるため)迫害経験によってこの障害になってしまう可能性も高くなるのです。
それでは、境界性パーソナリティ障害はどう治療していくのでしょうか?
■境界性パーソナリティ障害の治療
主な治療法は2つです。薬物療法と、心理療法を主に行っていきます。
抗うつ剤や抗不安薬での薬物療法を行いながら、カウンセリングなどの心理療法を並行して行っていくのが一般的と言えます。
・気分の落ち込み
・強いイライラ
・強い不安感
・冷静でいられない(興奮してしまう)
などの症状に対しては先ほど述べたような抗不安薬や抗うつ剤を用います。
境界性パーソナリティ障害の心理療法(精神療法)について代表的なものとして、弁証法的行動療法があります。
これは認知行動療法の一つであり、自分では制御できない、激しく辛い感情を抱えて苦しんでいる人のために開発されたものです。
特に境界性パーソナリティ障害には特化しています。
問題行動に対して適応した行動がとれるようにし、不適切な行動を減らしていくことによって問題行動の解決を図ります。
この「弁証法的行動療法」はマーシャ・M・リネハンという自身も境界性パーソナリティ障害当事者である研究者が発見した行動療法で、自身の体験をもってエビデンス(根拠)も確立しています。
問題になる一定の認知や行動のパターンに対して上手く対処できるようになれば問題行動はなくなります。
境界性パーソナリティ障害などのパーソナリティ障害の人の場合、問題が起きた場合一定の行動パターンによって解決しようとします。
しかし、その行動パターンのもととなる認知に働きかけることによって状況に応じた行動をとれるようになれば、問題を回避することもできるようになります。
そういったことの積み重ねがパーソナリティ障害の特性を修正できる第一歩となるのです。
つまり
・問題を解決できる「スキル」を獲得し
・その「スキル」を使って
・「自分が自分らしく、より生きやすくする方法」を身に付けていく
という考え方が弁証法的行動療法になります。
以上のような方法やまた別の心理療法を薬物療法と並行して行っていくことによって、治癒を目指します。
境界性パーソナリティ障害の治療は根気のいるものです。治療者側・患者側の「治したい・治りたい」という気持ちを大切に一緒に治療に取り組んでいきます。
治療期間がどれくらいかかるかは人によってバラバラです。だからこそ「治したい!」という気持ちを強く持つ必要があります。
もちろん治療する側も、当事者と信頼関係を築き、辛抱強く回復までの道のりを一緒に歩んでいく覚悟が必要です。
では、境界性パーソナリティ障害当事者の家族など、周囲の人は当事者とどう接していったらいいのでしょうか?
■周囲の人の接し方
境界性パーソナリティ障害の症状は周囲にとってなかなか理解しがたく、また障害ゆえの感情の変わりやすさなどに振り回されてしまいがちです。
そこでいくつかの心構えを紹介します。
★本人に巻き込まれない★
当事者家族などは「一貫した対応」をとっていくことが必要となります。
「ここまでは許すけれどこのラインは超えてはいけない」などと対応する場合の境界線を敷き、当事者の行動で許されること・許されないことを明確にします。
とにかく‶本人のペースに巻き込まれない〟ということが大切です。
境界性パーソナリティ障害の人が行うことに対していちいち動揺していたら「こうすれば家族を引き留められる」と思ってしまい、当事者は何かあるたびに危険な行為に及んでしまうことがあります。
そのような事態にならないためにも「ここからここまでは対応するけれど、それ以上はしない」という境界線を引いておくことです。
★密着しない関係★
境界性パーソナリティ障害の人はいつも「依存できる人」を探しています。
依存するだけならまだいいのですが、その人が少しでも当事者から離れようとすると敵意をむき出しにし、攻撃的な言葉を投げかけてきたり暴力的な行為に発展することも珍しくありません。
ですから、家族など周囲の人も「ある程度距離をとって」対応していくことが大事です。
★小さなことでも褒める★
境界性パーソナリティ障害の人は、自己肯定感が低い人が多いです。小さい頃から否定されてきた、認めてこられなかったという気持ちから承認欲求が強いのです。
ですから、ちょっとした進歩(学校に半日行けた、アルバイトに挑戦できたなど)があったら、その都度当事者へ「褒め」の言葉かけをしてあげると、本人の安心感に繋がります。
当事者が安心してこころが安定して来れば、周囲への攻撃的な態度も和らいでくることでしょう。周りへの不信感も薄れてくるかもしれません。
本人を「肯定的に」見てあげることがこの障害にとっては大事なことなのです。
★温かく見守る気持ちで★
家庭などで思い通りにならないことがあると暴力に走る当事者もいます。
彼らは強く依存している相手が自分と同じ思いを持ち、自分の思った通りに動いてくれるものだと思いこんでいます。
周囲の人は、そういった暴力的な行為などを否定的に見るのではなく、その人のこころの葛藤を理解して「肯定的に、見守る気持ちで」見ていかなくてはなりません(もちろん、暴力などが度を過ぎる場合は警察などと連携することが必要です)
そして「あなたのことを心配しているんだよ」というメッセージも伝えていくべきです。
当事者は自分の気持ちが爆発したとき「この気持ちは誰も分かってくれない」「どうせ理解者なんかいないんだ」と自暴自棄になっている傾向にあります。
そういった時に周囲が「あなたのことを心配している」ということを伝えることで「あなたは一人ではない」「大切に思っているんだ」というメッセージとなります。
当事者は孤独を恐れているので「理解者がいてくれる」というだけでも安心します。
しかしここで気を付けなければならないのが「近い存在になりすぎない」ということです。先ほども述べましたように当事者は依存できる相手を探しています。
そんな時にあまりにも肩入れしすぎてしまうと、当事者はあなたを「依存できる存在」とみなしてしまう可能性があります。
ですから「近すぎず、遠すぎず」の関係を築いていくことがこの病気の当事者と付き合っていく上でのポイントとなるでしょう。
そのような関係を続けていけば、当事者の無用な動揺を防ぐこともできます。
医療機関で適切な治療を受けながら、家族など周囲の人がそのような関わりをしていくことで当事者の暴力的な行為が減ったり、暴力以外の方法で意思表示ができるようになるかもしれません。
そのようになったら大きな進歩です。病状が良くなってきていると言ってもいいでしょう。
この病気の治療は根気と辛抱強さが必要です。家族などの周りの方がどれだけ適切な関わりを続けていけるかもその人の病状には大きく響きます。
もし家族や周囲に境界性パーソナリティ障害の人がいる場合
・密着しすぎない
・適切な距離を保った関係を維持する
・肯定的な態度で接する
・本人が努力したことに対して「褒め」の言葉かけなどをする
などの点を大切に関わっていってほしいと思います。
■まとめ
境界性パーソナリティ障害の症状から原因、家族の接し方などまとめましたがいかがでしたでしょうか?
この障害の人の心理はとても不安定で、いつも誰かに認められることを求めています。またずっと自分の側にいてくれる人も同時に求めています。
しかしこういった心理に負けてしまうと、対応する側が疲弊してしまうという事態も起きかねませんし、当事者も自暴自棄な行動に出てしまうかもしれません。
そのため接し方のポイントにも述べたように「適切な距離」を保ちながら接していくことが大切です。しかし当事者に
「見離された」という気持ちを抱かせないことも大切です。
このような絶妙な距離を見つけることは大変かもしれませんが、当事者にとっても、対応する側にとってもこの距離が有益なのです。
当事者のペースに巻き込まれないように、しかし肯定的な態度で当事者を支え、温かく見守る気持ちで一緒に回復への道を歩んでいってほしいと思います。
著者 もち猫
福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。