10人に1人が抱える“生きづらさ” 自閉症スペクトラムって?

自閉症スペクトラム
Анастасия ГеппによるPixabayからの画像

自閉症スペクトラム(ASD)」とは、かつて広汎性障害と呼ばれていたものが、診断基準の改正により改めて整理し直されたものです。強いこだわり、社会性においての障害など、様々な特徴があります。今回は、自閉症スペクトラムの特徴などについて解説します。

■空気が読めない、いわゆるKYな存在 自閉症スペクトラム(ASD)って?


自閉症スペクトラムとは、かつて精神疾患の診断基準となっている「DSM-Ⅳ」(アメリカ精神医学会の診断と統計マニュアル)において「広汎性発達障害」と呼ばれていたものです。それが「DSM-5」に更新されてから、「自閉症スペクトラム」という名称に変更されました。

自閉症スペクトラムの中には、自閉症、アスペルガー症候群、レット障害、特定不能の広汎性発達障害などが含まれています。

スペクトラム」とは「連続体」「一続き」といった意味です。これまでの考え方では広汎性発達障害や発達障害として含まれなかった「障害を持たない人まで含めて一続きで考える」という新しい考え方です。

自閉症スペクトラムの子は、発語が遅れたり、「オウム返し」(親などが言ったことをそのまま返す)、不自然な敬語を使うたとえ話がわからないなどのコミュニケーションの障害がみられます。

中には、1歳前半頃までにある程度話し出したものの、1歳半~1歳後半頃から急に話ができなくなったというエピソードをもつ子どももいます。

これは「折れ線現象」というもので、この現象が見られたらほぼ「自閉症スペクトラム」といえるとされています。

多くの場合、いったん発語が止まっても数か月から1~2年程度で再び話ができるようになります。

幼児期後半からは、不自然な敬語や大人びた言葉を使うようになる子もいます。また、小学校高学年以降になると、皮肉や冗談が通じないで真に受けてしまうという特徴が出てくることもあります。

冗談で言われた事でも本気にして怒ってしまったり、相手の気持ちなど考えずに一方的に話し続けるため会話のキャッチボールができなかったりと、対人関係での不具合も出てきます。

また興味のないことはほとんど聞かず、そういう話になるとつまらなさそうな顔をしてしまったり、強引に自分の興味のある話に持っていこうとする傾向があります。

また、そのような振る舞いによって、相手がどう感じるかといったことは考えないことも多く、相手の感情を読みながらコミュニケーションをとったりするのも苦手とする人が多いです。

そのような傾向から、親しい友人もできず孤立してしまうこともありますが、この障害を持つ人は一人でいることを好む人も多いため、一人になるのを気にしない人がいるのも事実です。

こういった「他人の気持ちを考えるのが難しい」ことや自己中心的な会話スタイルから、相手と交互に会話をするようになっても、どこかぎくしゃくしたところが残るのが自閉症スペクトラムの人の特徴ともいえます。

■いつもと同じじゃなきゃ嫌だ! 自閉症スペクトラムのこだわりって?

自閉症スペクトラムの特徴の一つに、「限定された反復的な行動」や「ある手順やルール、物事への強いこだわり」も挙げられます。

こだわり行動の代表的なものとして、

興味のあることや行動が限定的である
手のひらをひらひらさせたりするのをいつまでも飽きずにやっている
ある物事に関する手順に異常にこだわる

などが見られます。

「手のひらをひらひら振る」などの常同行動と呼ばれる行動は、知的能力の遅れが目立つ人に見られる傾向があります。

これは無意味にやっているのではなく、多くの場合、不安な状況に陥った時などに、「こころを落ち着かせるため」に行っているのです。周りには無意味に見えても、本人にとってはこころを落ち着かせる重要な意味を持ち合わせています。

またパターン化された行動を邪魔されたりすると、パニックを起こしたり、自傷行為に走るなど危険な場合もあるので要注意です。

小学校高学年くらいになってくると、こだわりも数字や記号といった知的なものへと発達し、自分がこだわりを持っている分野では大人顔負けの知識を持っていることもあります。

ある分野に特化していて周囲から「〇〇博士」などと呼ばれることもあるくらいです。こういったプラスの面もあるのですが、自分で勝手に決めたルールなどにこだわり、それを他人も守るように強要するなどといったマイナスの面も持っていることがあります。

こういった「自分の関心、ペースの維持を優先させたい」というのが自閉症スペクトラムの「こだわり」だと言われています。

■子ども時代からのケア カギは「安全を脅かさないこと!」

自閉症スペクトラムである幼少期の子どもへの支援において最も重要な課題は、二次的な問題の発生を防ぐことです。

二次的な問題の中でも一番起きやすいものは、いじめや不登校です。それが悪化してしまうとひきこもりにもつながりかねません。

その為、幼少期の子どもにおける支援については「安心感を提供する」ということが第一になってきます。

まずは、子どもが安心して過ごせる環境(居場所)を作ることが必要となってきます。いわゆる「保護的な環境」です。

自閉症スペクトラムの子は、こだわり行動やコミュニケーションが苦手といった理由から、友達との対人トラブルなどを起こしやすい傾向にあります。

学校や幼稚園などでは、先生に叱られて帰ってくることも少なくないと思います。しかし、そこで親が先生と一緒になって怒るだけでは親への信頼感も揺らぎかねません。

親は、その子には特性があることを理解し、怒るだけでなく「辛かったね」と優しく包み込んであげることも大切です。

また、自閉症スペクトラムの子は得意なこと・苦手なことがはっきり分かれています。その「得意なことを伸ばしてあげることがとても重要です。

自閉症スペクトラムの子は、そのさまざまな特徴からほかの子よりも叱られやすかったり、注意される回数が多い傾向にあると思います。

そういった出来事が重なって、自分に自信を無くし自己肯定感が低くなっている可能性もあります。

そんなとき、その子が得意とすることがあれば、それを伸ばしていく教育をしていくことによって、その子の自己肯定感は回復していくと思います。

また、苦手なことについては、無理強いをしてもその子のためにはなりません。それどころか、それがトラウマとなって後々フラッシュバックを起こすようになるかもしれないのです。

苦手なことについては、無理強いせずとも思春期以降になれば自発的に「頑張ってみよう」と自ら取り組み始めることが多い傾向にあります。

親の側も、こころにゆとりを持って子どもと接することが大切です。苦手なことがあるからと言って過度に叱責することはよくありません。

親が根気強く子どもに関わり、「特性」を理解しつつ共に歩んでいくことによって、その子の人生は実りの多いものになるのではないでしょうか。

■自閉症スペクトラムについてまとめ

自閉症スペクトラムでは、今や10人に1人にその傾向があるともいわれており、それぞれが日常の中に「生きづらさ」を感じています。

それが〝コミュニケーションがうまく取れない″ことであったり、〝何かに対して強いこだわりがあり、譲れない″ことであったり、苦しみは様々です。

しかし苦しみに違いはあっても、「生きづらさ」を抱えながら生活している、という点では共通する部分があります。

そして、その「生きづらさ」を感じながら生きている人は10人に1人(自閉症スペクトラムの人の割合)は存在するともいわれています。

そんな人たちの特徴や生きづらさを世の中の人が理解することによって、自閉症スペクトラムの人にも「生きやすい」世の中になることを願います。

著者 もち猫
福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。