愛着障害克服へ向けて~人のつながりの大切さ~

愛着障害
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皆さんは「愛着(アタッチメント)」という言葉を聞いたことはありますか?愛着は、子どもが特定の人物(主に母親・父親等)との間に築く、心理的な結びつきの事をいいます
この愛着が幼いころにしっかり形成されないと、大人になってから対人関係の形成等に問題が起きる事があります。今回は、「愛着障害」の特徴や愛着スタイル(愛着の形)、克服法等についてまとめました。

■愛着って何? ~安定した愛着スタイルを築くには?~


愛着(アタッチメント)とは、「母親をはじめとする、特定の人物との心理的な結びつき」の事です。主に、臨界期と呼ばれる生後6か月~1歳半くらいの間に築かれます。赤ん坊は、おむつが濡れて気持ちが悪い時、おなかが空いた時など、泣いて知らせます。通常であれば、養育者(母親や父親等)がすぐそれを満たしてくれます。また、抱っこをされたりあやされたりすることによって、赤ん坊とのスキンシップが図られます。

そのような事が繰り返された結果、赤ん坊が成長したときに「この人たち(養育者)は欲求を満たしてくれる。安心して頼ることができる」と認識するようになります。このように養育者との間に安定した愛着が育まれれば、子どもは安定した愛着スタイル(愛着の形)を持つことができます。そして、その後の人生においても人との関係が上手く築けたり、家庭や社会生活でも良い関係性を築くことが出来る傾向にあります。

愛着は、人格の土台部分を形成しています。この「愛着」がどう育まれるかによって、成長してからの対人関係のスタイルや仕事の仕方、人生に送っていく上での姿勢まで大きく左右されるのです。

その為、愛着スタイルがどのように形成されていくかが大切です。それは、養育者と子どもとの関わり方によって決まってきます。もちろん養育環境も愛着形成には影響してきますが、主にどういった愛着スタイルを築くかは、養育者との間の関係の安定度合いによって決まると言えます。

愛着形成に最も重要な時期は生後6か月~1歳半とされています。この時期は臨界期と呼ばれ、もしこの時期に養育者がコロコロ変わったり、母親から離されたりすると、愛着を形成していく上で悪影響が出る為、養育者が安定した関わりを持つことが必要となってきます。

では、「愛着障害」とはどのような障害なのでしょうか?

愛着障害は、医学的に2つに分類されています。

1.反応性愛着障害(反応性アタッチメント障害)
子どもが5歳になるまでに発症し、対人関係に問題をきたす障害です。大人に対して過度の警戒を示し、養育者からも離れて行ったり、逃げて行ったりしてしまう傾向があります。他者を警戒しすぎて、安心して頼るという事ができないのです。

特に、虐待を受けた子どものケースに見られやすいといわれています。また同年代の子との交流のぎこちなさも見られます。こちらは自閉症スペクトラムとも見分けがつきにくいので、慎重な診断が必要です。

2.脱抑制型愛着障害
1の反応性愛着障害と違い誰にでも見境なく愛着を示し、べたべたとくっついたり、場にそぐわない言動をしてしまう障害です。1の反応性愛着障害と同じで、5歳までに発症するとされています。誰彼構わず注意を引こうとして、親しげな行動をしますが、協調性はあまりなく、情動障害や行動障害を伴う事もあります。多動性や衝動性も見られるため、ADHDと誤診される可能性があります。

これら2つは特性が真逆のものとなっています。では、どのような傾向が見られた時、この障害を疑うべきなのでしょうか?

1の反応性愛着障害では
・養育者の慰めや安心を求めるために、抱き着いたりすることがほとんどない
・無表情で、笑顔が見られない
・ほかの子どもと仲良くしようとしない、交流がない

等があげられます。

2の脱抑制型愛着障害では
・あまり知らない人に対しても何ら警戒心もなく近寄っていく
・度を越えたわがままがある
・抱っこされているときに、養育者の方を見ようとしない、視線が合わない
・養育者の事を安全基地として認識していない

等があげられます。

愛着障害を発症した子どもが大人になると、対人関係に問題が起こったり、人間不信に陥る事もあります。また親と上手く関係を築けなかった自分の過去にとらわれる事もあり、愛着スタイルが不安定なものになります。そして、養育者自身にうつ病等の精神面の不調があった場合、子どもは不安定な愛着スタイルになりやすいともいわれています。育った環境や養育者の健康状態等によっても、子どもの愛着スタイルの形は変わってくるのです。

■愛着スタイルの様々な形~安定した愛着スタイルをつくるには?~


〝愛着スタイル〟とは、人が対人関係を形成する上でみられる心理的な傾向の事を言います。〝愛着スタイル〟は養育者や重要な他者との間で愛着パターンが積み重ねられていくうちに、その人固有の愛着パターンが明確になり、確立されていくものだと言えます。この愛着パターンというのは、幼い頃の愛着スタイルが未熟で確立したものではない為、愛着スタイルと区別されるのが通常です。そして、子どもが成長し、最終的に確立されたものを〝愛着スタイル〟と呼ぶのです。

〝愛着スタイル〟は不安定な養育者・養育環境等、後天的な問題によって不安定な状態に陥ることもあります。この章では〝愛着スタイル〟の様々な種類について紹介します。

1.安定型愛着スタイル
養育者が安定した安全基地(心の拠り所)として機能し、子どもに対してたっぷり愛情を注いであげられた結果、得られた愛着スタイルだといえます。安定した安全基地に守られてきた結果、「自分が困ったときや助けてほしい時には、必ず誰かが助けてくれる」と確信でき、何か困りごとがあってもきちんと周りに相談し、対応することができます。その為、ストレスもため込みにくい傾向にあります。そして、対人関係も良好で、自分の気持ちはしっかり伝えられます。相手を尊重する気持ちも持ち合わせている為、周囲からの信頼も得られ、順調な社会生活を送っていくことが出来る人が多いといえます。

2.回避型愛着スタイル
人間関係においては、距離を置いた関係を好みます。親密な関係をなるべく避けようとし、心理的にも物理的にも人と距離を置こうとします。例えば、自分のクラスメイトや同僚とも一緒にいる事を好まず〝皆でいる時間は有益でない〟等、物事をネガティブな方向へ考えてしまいます。そして一番の特徴は、「人との葛藤を避ける」事です。相手と距離を置くのも、葛藤が起こるのを避けるためで、争いが起こるくらいなら自分から身を引こうとします。そういった行動ばかりとっている為、自分が悪くなくても争いを起こさない為に我慢をしてしまい、心の中にはモヤモヤが溜まりやすくなります。それがストレスとなってしまい、心に乱れが生じることもしばしばです。

3.不安型愛着スタイル
とにかく「人から嫌われる事」に関して敏感です。その為、必要以上に相手に気を使ったり、相手の顔色をうかがいながら話をするなど、常に人から嫌われない様に、気を遣ってばかりいます。このタイプの人の一番の関心事は、「人に受け入れられるかどうか」「どうやったら人に気に入られるか」です。相手が少しでも冷たい態度をとると、このタイプの人は「嫌われてしまったのでないか」と激しい不安に襲われます。嫌われることが怖い故に、相手に逆らえず、その人の言いなりになる場合もあります。相手に利用されていると分かっていても、拒み切れないのです。

4.恐れ・回避型スタイル
愛着回避と、愛着不安が強いスタイルです。対人関係を避けようとする人嫌いの面と、実は誰かにそばにいてほしい、他人の反応に敏感で見捨てられ不安が強いと言うアンビバレントな面を持つ人たちです。その両方を抱えている為、人間関係はもつれ、より不安定なものになってしまいます。一人でいる事は不安で、人との関わりを求めるのですが、仲が深まるにつれて、強いストレスを感じたり、些細な言動に傷ついてしまうという矛盾を抱えています。これは「他人の事を信頼したいが心から信頼しきれない」というジレンマでもあります。

このように、愛着スタイルに関して大きく分けると、この4つのタイプに分類できます。
では、これらの愛着障害を克服していくには、どうすればいいのでしょうか?

■安全基地と愛着障害~不安定な愛着スタイルを持つとどうなる?~


安定した愛着スタイルを築くには、親が子どもに対して愛情をたっぷり注ぐことと、スキンシップを伴う関わり、養育者の「安全基地」としての機能が大切です。
この「安全基地」とは、子どもが外の世界に出ていった時にも見守ってくれる、心の拠り所の事を指します。

安全基地の機能は主に身近にいる大人(母親や父親、祖父母等)が担います。
子どもが外の世界に出て、不安や恐怖を感じた時、「安全基地に戻れば安心感が得られる」と思えれば、子どもは積極的に外の世界に出るようになります。この行動を「愛着行動」と呼びます。その為、養育者はなるべく子どもの側にいて、子どもの欲求に応えられる姿勢を保つのが望ましいとされています。

愛着障害がある人は、養育者からの愛情があまり受けられなかった為に、不安定な愛着スタイルになってしまったと言えます。また、養育者が気まぐれに接したり(甘やかす時はとことん甘やかし、機嫌によっては暴力を振るうなどの養育者の機嫌次第での対応 )虐待、養育者の頻繁な交代等が行われた場合には更に不安定な愛着スタイルになってしまいます。そして不安定な愛着スタイルから愛着障害へと移行していくのです。

子どもの頃に発症した愛着障害をそのままにしておくと、大人になってから「自分で職業や進路を選択する事」に苦手さを覚え、仕事面や学業面でのアイデンティティの確立が困難になる事もあります。
また他人の些細な一言に深く傷ついてしまったり、過去の失敗や嫌だった事をいつまでも引きずってしまって、養育者に対して怒りが再燃する場合もあります。逆に、大人になっても養育者の言いなりで、「良い子」のままでいる人もいます。そして、愛着障害が精神疾患を引き起こす引き金になってしまう事もあるのです。

例えば

・うつ病
・心身症
・不安障害
・境界性パーソナリティ障害

等が挙げられます。このように、子どもの頃からの愛着障害をそのままにしておくと、二次障害として精神疾患等を発症してしまう事もあるのです。その為、子どもが小さい頃からの安定した愛着の形成が、愛着障害発症を阻止するカギとなってきます。

■愛着障害の克服に向けて~一人の人間として自立する~


そもそも、愛着の原点というのは養育者と子どもの間で育まれるものです。その為、愛着障害とは、それを作り上げていく上で何らかのつまずきがあったもの、と言えます。よって、愛着障害に効く薬はありません。なぜなら、愛着障害は「克服」するものであって「治療」するものではないからです。

愛着障害を克服するには、まず「安定した安全基地」を確保することです。愛着障害は、「安全基地が持てない障害」だと言い換えることもできます。

そこで、赤ん坊の頃に築かれなかった安全基地を構築し直し、安心して頼ることが出来る拠り所として機能させることが必要となってきます。

「良い安全基地」とは、本人が辛い時にたっぷりの愛情で包み込んでくれて、精神的に安心して頼れる人や、信頼して話ができる人の事です。家族以外にも、頼れるカウンセラーもいいでしょう。
又、人である必要はありません。自分が行くとほっとできる場所等でも良いです。そして好きな音楽や本の世界に入った気分になってみるのもいいでしょう。自分の心が満たされ、「ここにいてもいいんだ」、そんな風に思える所が理想の安全基地です。そこにいて自分の心が満たされていくと、安定した自我が生まれます。そして、「一人の人間として自立する」時が来ます。

「自立する」といっても、「一人で何でもできるようになる」というわけではありません。必要な時には周囲の力を借り、対等な人間関係の中に身を置くことを言います。

自分が他人を尊重するとともに、自分の存在を認めてもらえるようになる事によって、自信をもって周囲とのつながりの中で自分の力を発揮していけるようになることです。このように、自分が周りに受け入れられるという体験をもう一度やり直すとともに、「自立できた自分」を認めてあげる事で、‶本当の意味での自立〟を達成することができるのです。愛着障害では、小さい頃に認められなかった事などを再体験する事で、自分なりに満たされなかった気持ちを補っていくのが大切なのです。

愛着障害は養育者の育て方・養育環境等様々な問題が重なり合って起きる障害です。その為、愛着障害を克服するのは容易な事ではありません。しかし、様々なしがらみから脱し、自由になれた時こそ「本当の自分」に出会えると言えます。重要なのは過去に縛られ、過去の中に問題探しをする事ではありません。「過去の自分」の殻を打ち破ってください。そこには新たなあなたがいるはずです。

著者 もち猫
福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。