増え続ける中高年ひきこもり第1章~当事者の思いと葛藤~

ひきこもり
shaukingによるPixabayからの画像

「ひきこもり」と聞くと、学校を卒業したばかりの若者や不登校から継続して家にこもっている、いわゆる「若い」ひきこもりを想像する方が多いかもしれません。しかし、2019年に内閣府が発表した調査結果によると、40歳から64歳までの「中高年ひきこもり」は61万3000人に上るといいます。そんな「中高年ひきこもり」が増える原因や表れる症状等についてまとめました。

■ひきこもりとは?~困難な状況にある「まともな」人~


中高年のひきこもりについて書いていくにあたって、まずは‶ひきこもりとはどのような状態を指すのか〟を説明したいと思います。

ひきこもりの定義としては、

‶様々な要因の結果として社会的参加 (義務教育を含む就学、非常勤職を含む就業、
 家庭外での交遊など)を回避し、原則的には6か月以上に渡っておおむね家庭に
 とどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい )〟

とされています。

更に、「広義のひきこもり」として、

・自室からほとんど出ない
・自室からは出るが自宅からはほとんど出ない
・近所のコンビニ等には出かける
・趣味の用事の時だけ外出する

という4つの項目が設けられ、これらが6か月以上続くならば「広義のひきこもり」に当てはまる、と定義されています。

ひきこもりになる理由は様々です。パワハラやセクハラ、いじめ、こころの不調、また激務で心や体の調子を崩してしまった人、人間関係が上手く築けなかったり、リストラ等で退職し、そのままひきこもってしまった人もいます。

これらは誰にでも起きうることだと言えます。その為、ひきこもりは『「困難な状況にあるまともな人」』(斎藤環 中高年ひきこもり 幻冬舎新書 44頁より引用)であると言えます。

つまり「困難な状況」の程度が大きく、長期化してしまった「状態」を指すのが、‶ひきこもり〟なのです。

■何故ひきこもる?~中高年がひきこもりになる原因と現状~


40歳から64歳のひきこもりの理由として一番多いのが〝退職〟です。この世代のひきこもりの4分の3は男性が占めます。例えば退職後、仕事に打ち込む日々から解放されるものの、特にやることもなく毎日ぼーっと家で過ごしてしまう人もいるでしょう。その状態がズルズルと続いて、ひきこもりとなってしまう、という可能性も無きにしもあらずです。

そして、もしリストラされてしまった場合はどうでしょうか。突然の解雇で、本人は途方に暮れるでしょう。家庭を持っている場合は、家族を守る為にも収入が必要ですので、どこかで働かざるを得ません。しかし、40代や50代の人が再就職をしようとしても、企業は即戦力になる人材を求める傾向があります。

そこで、資格や経験を持っている人は多少有利になるかもしれませんが、若い人材に比べて働ける期間も短い為、採用をためらう企業もあるのが事実です。そこで働くことを諦めてしまう人もいるでしょう。年金暮らしの親を頼ったり、妻のパートでの収入を主な収入源として、自分は家に引きこもってしまう場合もあると思います。

また、10代・20代にひきこもりになり、そのまま中高年までひきこもりが長期化してしまう人もいます。中高年になってやっと就職しようという気持ちがわいてきても、働いていない期間が長いこともあり、再就職先は見つかりにくいと思います。

「早く就職したい!」という思いから、非正規雇用者としてコンビニや飲食店でのアルバイトを始める人もいます。しかし、そこには自分より年下の〝先輩〟がいることが多いです。その〝先輩〟に中高年のスタッフが怒鳴りつけられたりしているのを見たことがある方もいらっしゃるかもしれません。

それは中高年の人にとって、屈辱だと感じられることもあるでしょう。我慢強い人は、その屈辱に耐えながら日々を送ります。しかし、その屈辱や人間関係に耐えられず、アルバイト先も辞めてしまい、家に引きこもってしまう中高年がいるのも事実です。

今のひきこもりの平均年齢は30代くらいが多いです。ひきこもりに共通してみられる‶ひきこもる原因〟の一つには、「挫折体験」が挙げられます。

「挫折体験」とは、例えば

・いじめ等で不登校になった
・就職活動がうまくいかなかった
・職場、学校での人間関係がうまくいかなかった
・職場、学校の環境に馴染めなかった

等、学業・仕事での負の体験の事を言います。こういった負の体験を味わうことで、以前はあった自己肯定感や、社会に認められている、という感覚もなくなり、アイデンティティが崩壊する可能性があります。 

アイデンティティは人間が生きていく上での土台なので、「自分はどうせ社会から必要とされていない」「生きていても意味がない」という被害的な考えからアイデンティティが崩壊してしまうと、意欲もやる気もなくなり、ひきこもってしまう可能性も高くなると言えます。

また、ひきこもりになる背景因子に精神疾患や発達障害が隠れている場合もあります。ひきこもりに見られやすい精神疾患としては、統合失調症やうつ病、強迫性障害などがあります。

例えば統合失調症では、幻覚や幻聴、妄想等が見られるため、精神科や心療内科にかかる必要があります。また、無気力状態になることもあり、その状態が長引くとひきこもりに至ることもあります。

そして、うつ病では、特性として朝の調子が悪い事が多く、学校や仕事に出かける時間になっても起きられず、夕方になると少し元気になると言う日内変動が見られます。うつ病は、自分の心の状態と環境の相互作用によって生じる病気であり、「朝きちんと起きたい!」と思っても自分の意思ではどうにもならないくらい体が重く、起きられない事もあるのです。うつ病の治療には時間がかかることが多いため、じっくり時間をかけて解決していく必要があります。

この様に、精神疾患が原因となって自宅療養となり、そのまま無気力状態が続いてひきこもりになってしまう、というケースも存在します。こういった場合は、精神科や心療内科にかかることが必要なので、もし心の調子が悪くてひきこもっている、という場合は一度専門家のもとを訪れる事をお勧めします。

■ひきこもっている人の心情は?~ひきこもり当事者の思い~


中高年になってひきこもった人は、決してひきこもる生活を楽しんでいるわけではありません。(中高年ひきこもり全員がそうだとは言えませんが)。
「自分が何かを楽しむ事」に罪悪感を感じ、終日無為に過ごしてしまう当事者たちも多いと思います。ひきこもる人たちの多くは「自分には娯楽を楽しむ資格はない」と思ったり、言葉には出さなくても頭の中ではひきこもりになってしまった自分の事を責め続けている可能性もあります。

しかし、「自宅から一歩も外に出ない」というひきこもり当事者はごく少数です。多くの人はコンビニやスーパー等、外に出る事もあります。しかし、やはり近所の目もあるので、出かけるのは夜間になることが多く、昼夜逆転の生活になりがちです。

そして、当事者の多くは「このままではいけない」という思いを抱いています。こういった自責の念がある為、「自分の力で何とかしたい」という思いはするのですが、それは「人の力を借りたくない」といった気持ちの裏返しでもあります。

もちろん、当事者の家族も何とかしたいと思っているのは事実でしょう。しかし、ほとんどの家族はひきこもりに対する専門的な知識を持ち合わせていません。その為、当事者に対して「もっと頑張れ」「いつになったら働くのか」等といった言葉かけをしがちです。それが当事者にはプレッシャーに感じられ、逆に徹底してひきこもってしまう、という事態にもなりかねません。

もしくは、家庭内暴力という形で反撃に出てくる場合もあります。暴力は主に自分より力の弱い者にむきます。その為、母親が被害者となるケースが多いようです。上に挙げたような言葉かけが逆に暴力への引き金となり、今まで大人しかった当事者がいきなり暴力をふるってくる、という場合もあります。これも無理解な親の発言や態度が原因となって起きていることが多いです。

当事者は、自分が頑張らなければならない、というのは重々分かっています。しかし、そんな歯がゆさを抱えているのに、親からプレッシャーをかけられれば反発心を抱くのも無理はありません。不安から、暴力へとつながってしまうケースもあるのです。

それでは、中高年(若年層も含め)のひきこもりの人を支援していくには、どのような方法があるのでしょうか?第2章で紹介したいと思います。

第2章はこちらになります!興味のある方はご覧ください♪⇩


著者 もち猫
福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。