マルトリートメント~不適切な養育で脳が子どもに及ぼす影響~

児童虐待

皆さんは、「マルトリートメント」という言葉を聞いたことはありますか?

日本語にすると、子どもへの「不適切な養育」となります。虐待まではいかなくとも、

〝意図的な無視、子どもが見ている前での配偶者へのDV、暴言、わいせつな行為をする、暴力を「しつけ」と称してふるう〟

など、子どもにとって悪影響な養育を総称して「マルトリートメント」といいます。

このマルトリートメントを受けた子どもは学習意欲の低下、非行に走る、そして精神疾患などの二次障害を併発する恐れもあります。

今回は、そんな「マルトリートメント」について解説していきます!

マルトリートメントってどんなもの?

虐待より広い意味を持つマルトリートメントですが、大人の側に加害の意図があるかないかに関わらず、子どもに傷や精神疾患が見られなくても、

子どもが傷つく行為はすべてマルトリートメントと言えます。

上記の様な子どもを傷つける行為を行い続けていると、子どものこころに傷が残ってしまい、それが子どものこころや脳の健やかな成長を邪魔してしまうのです。

このような体罰で見逃してはならないのが、体罰は「身体的マルトリートメント」であると同時に、「心理的マルトリートメント」であるともいえることです。

何故かというと、この体罰や暴言などが、トラウマとなって子どものこころに残り続けるからです。

トラウマは大人になっても消えない場合が多い上に、何かを引き金にそのことがフラッシュバックしてしまうこともあります。

それが精神疾患などの二次障害に繋がってしまえば、日常生活や社会生活にも支障を来すことになります。

また、マルトリートメントによって脳が傷つくというケースもあります。

言葉の暴力や体罰などのマルトリートメントによって、それぞれの機能を司る脳の領域が変形してしまうのです(萎縮・肥大化など)。

例えば、言葉の暴力を受けた場合には、「聴覚野」という脳の領域が傷つきます。

その他にも体罰や子どもの前で親がDVを見せつけること等によって様々な脳の領域が傷つきやすくなります。

何によって脳のどこが変形するかなどの詳細は割愛させていただきます。

それならば傷ついた脳は元に戻らないのかというと、実は修復可能なのです!

マルトリートメントを受けた人の中には、「愛着障害」を抱えた人が多い傾向にあります。

愛着障害というのは、幼少期に不適切な養育を受けたことにより、その後の人間関係の形成や社会生活の発達に困難が生じることを言います。

しかし愛着の再形成をすることによって、この愛着障害は克服できます。マルトリートメントが原因で愛着障害を起こしている人の場合、こころに大きなトラウマを抱えていることが多いです。

この愛着障害の修復のポイントは、親などの養育者や、信頼できる大人と「強い結びつき(絆)」を築くことです。

自分が安心感を得られる人ならば、親以外の人でもいいと思います。学校の先生や病院のカウンセラー、学校ならばスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーでもいいです。

一緒にいて、安心することができ、また癒してくれるような存在を探してみてください。

そんな人々と、アタッチメント(愛着)を築くことが大切です。

アタッチメントには、
・目と目で見つめあうこと
・抱きしめたり手を触れあったりしてスキンシップを取ること
・微笑みかけたり、あやしたりして子どもとの感情の共有をすること


などが含まれます。

このように積極的にコミュニケーションをとっていくことによって、愛着は再形成され、結びつきも強まっていくのです。

結びつきが再形成されれば、子どもは親のことを「いつでも戻ってこられる安全基地」として捉え、外の世界へ出ていけます。

そして、マルトリートメントを受けた子どもの回復には、「普通の子以上に褒めて育てる」ことが必要です。

子どもの側に寄り添い、頑張ったことは人一倍褒めて、認めてあげる。

これを繰り返し、根気強く続けていけば、子どもの脳はまた修復されます。

マルトリートメントを行ってしまった親の方へ。

このような行為は行わないのが一番ですが、そんなつもりはなくとも、もし行ってしまった場合。

たっぷりの愛情を子どもに注いであげてください。温かい言葉をかけ、スキンシップをたくさんとって、子どもの安全基地となってあげてください

そして二度と、理不尽な暴力・暴言を子どもに浴びせるようなことはしないでください。

このコラムを読んでいただいて、「マルトリートメント」について少しでも理解して頂けたら幸いです。

そして、この概念が広まり、被害を受ける子どもが減ることを祈ります。

著者 もち猫
福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。