「うつ病」は、大人だけの病気ではありません。10代の子どもにも起きうる病気でもあります。昔は「うつ病は成人に発症するもの」とされていましたが、ストレス社会といわれる現代、子どもにもうつ病は増えています。なぜ子どものうつ病は起きるのでしょうか?
■思春期のうつ病とは?
子どもの「うつ」は、思春期の症状との見分けが難しいといわれています。それは、「朝起きてこない」「反抗的な態度をとる」などという思春期特有の症状と似ているからです。
その為、親としてはしつけとして過度な干渉やしつけを繰り返してしまい、気づいた時にはうつの症状が悪化している、なんてことも稀ではありません。
そんな「思春期のうつ」にはどんな症状があるのでしょうか。代表的なものを挙げると、
・朝起きてくるのが遅くなった、起こしてもなかなか起きない
・反抗的な態度をとるようになり、イライラしている
・自分の部屋にこもりがちになった
・元気がなく、考え事をすることが多くなった
・学校に行くのを嫌がるようになった
などです。一見すると思春期の子どもにみられる症状ではありますが、実は「うつ」である可能性もあります。なぜなら、思春期の特徴の一部が、子どもの「うつ」の初期症状であることが多いからです。
思春期のうつ病になると、「自分なんかダメだ」「生きていてもしょうがない人間だ」などと自己肯定感がダウンしてしまい、時には自傷行為や、自殺企図を引き起こす例もあります。
また、抑うつ気分からやる気がなくなり、学校に行けなくなってしまって引きこもりになったり、逆に神経が興奮気味になり、ちょっとのことでもイライラして家庭内暴力や非行に走る子どももいます。
このような自殺企図や家庭内暴力といった危険な行為の裏にも、子どものうつ病が隠れているかもしれません。
■なぜ起こる?思春期のうつ病
思春期は多感な時期です。思春期ならではの悩みもあると思います。対人関係だったり、家庭内や進学・就職の悩みなど様々な問題が山積みです。
さらに、親からの叱責、人間関係でのトラブルなどでストレスがたまっていけば、ストレスはどんどん増え、そのストレスのはけ口がなければ、やがてうつになるという可能性も捨てきれません。
「子どもだからうつ病になんかならない」という考えではなく、「子どもでもうつ病になる可能性はある」という前提で考えないと、いずれその子が壊れてしまう可能性もあります。
ここでは、ストレスの原因を3つにわけて考えてみたいと思います。
1.家庭での問題
2.学校での問題
3.発達障害によるもの
1の「家庭での問題」から見ていきます。この時期、自我の成熟とともに親離れが始まります。
そのため親との衝突も多くなります。また、「自分の世界」というものを作りたい時期なので、親からの干渉を嫌がったり、反抗したりと、親との関係がぎくしゃくしたのものとなることも多いです。そうすると、だんだんストレスが溜まっていきます。
次に2の「学校での問題」についてです。思春期では、親からの自立を求めて、クラスメイトなどの仲間と行動することが多くなります。そのため仲間との間でトラブルが起きたりすると、学校に行きづらくなり、場合によってそのまま不登校になってしまうこともあります。
このように友人関係などでの問題が、やる気の低下、抑うつを引き起こし、やがてうつ病になってしまうというケースもあり得ます。
最後に、3の発達障害での問題です。発達障害とは、自閉症や、アスペルガー症候群、また学習障害(LD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)など様々な学力・知能などでの障害を指します。
注意欠陥・多動性障害(ADHD)などでは、落ち着きがなく授業中に立ち歩いたりして教師から注意される、また周囲の空気を読めない、いわゆるKYであるという特徴があるため、周りに溶け込むことができず、孤立し、落ち込んでうつ状態になるという場合もあります。
1から3まで見てきましたが、いずれにしても子供が抱えるストレスは大きく、周りに相
談できる場所や人がなければ、悩み続け、抑うつ状態に陥り、うつ病になる可能性は大きいといえます。
■見逃さないで!~親は子供の最大の理解者~
前章でも述べたように、思春期は身体的・心理的にも大きく変わる時期であり、悩みも多くなってきます。そんな時に大切なのが、周りの大人の対応です。
子どもの表情や声のトーン、いつもと違うところはないですか?
まずは、親が一番の理解者になることです。「最近ちょっと元気がないな…」と思ったら、ひと声かけてあげてください。
一般的には、真面目な子、おとなしい子、几帳面な子ほどうつ病になる可能性があると言われています。なぜなら、親の前では「良い子」を演じようとするからです。
そしてその無理がたたって、ついにつぶれてしまいます。ですから、「うちの子は大丈夫」などと信じ込まず、常に様子を観察していることが大切です。
親は、子どもの「安全基地」です。そこに逃げ込めば、温かく包み込んでもらえる、そんな存在が親なのです。
親が子どもを見ていて病院につれていく必要を感じれば、心療内科などを受診してください。親の勝手な判断で、診断してしまうのは危険です。専門家に診せ、正確な診断をしてもらうことが大切です。
その結果「うつ病」などとこころの病と診断されたら、たっぷりと休養の時間を与えてください。今まで無理をしてきた分の充電期間です。
ポイントは、せかさないこと。あくまでも本人のペースを乱さないことが大切です。無理をさせても、かえって症状を悪化させてしまうだけです。
もし何かをスタートしようとするときは、必ず主治医の意見も聞いてください。勝手な判断で物事を進めるのは危険です。医者はこころの専門家ですから、今やるべきこと、やるべきではないことを、的確に判断してくれます。
そこで大切となってくるのが「信頼関係」です。医師と親が協力し合って、「あなたは今、こういう状態だから、○○なんだよ」と分析してあげて、子どもを一人の人間として認めてあげれば、子どもも自然と親や医師を信頼するようになるでしょう。
本人と親、医師との連携のもと、適切な治療を行っていけば予後はよくなります。早めの治療こそ早期完治の最大のカギなのです。
親や子どもが共同して治療に取り組むことによって、子どもは「本来の自分」を取り戻せるでしょう。笑顔が絶えない家庭が増えることを祈ります。
■うつ病は怖くない!~早期発見がカギ~
現代の子どもは、いじめ、不登校、家庭問題など、多大なストレスにさらされて生きています。そのため、こころの病になる子どももいます。
・学校に行くのを嫌がるようになった
・なんだか不安げな表情をしていて、目がうつろである
・イライラしていて神経過敏になっている
などといった症状が見られたら、一度はうつ病であることを疑うことも必要だと思います。うつ病は治らない病ではありません。早期発見が早期完治につながります。
もしうつ病だと診断されたら、医師の指導のもと親子共同して治療に取り組んでいくことで、子どもが「本来の自分」を取り戻せる可能性も高いと思います。
決してせかしてはいけません。本人のペースに合わせて治療を進めるからこそ、その治療の効果が表れる可能性が高いでしょう。
子どもの笑顔が戻るまで、我慢強く一歩ずつ、歩んでいってください。
著者 もち猫
福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。