最近、メディアなどでも障害者虐待に関する事件などが報道されることが多くなっています。障害者虐待はなぜ起きるのでしょうか?また、どういうことが虐待に当たるのか、そして虐待を無くすにはどのような対策が必要なのか綴っていこうと思います。
■障害者虐待とは? 虐待の定義と種類
障害者の虐待の定義や、虐待が疑われた場合に通報義務を設けた法律に「障害者虐待防止法」というものがあります。(平成24年10月1日施行)
障害者虐待防止法において、障害者虐待とは、
1.養護者による虐待
2.障害者福祉施設従事者による虐待
3.使用者による虐待
の3つに分けられます。
<養護者>
障害者の身の回りの世話や障害者自身のお金の管理を代わりに行う家族や同居人など
<障害者福祉施設従事者>
障害者福祉施設(障害者の生活などをサポートする施設)で働く職員や、障害福祉サービスに関する業務を行う職員など
<使用者>
障害者を雇う雇用主、または事業の経営担当者など
障害者の虐待の種類としては、大きく分けて
・身体的虐待
・心理的虐待
・性的虐待
・ネグレクト(介護放棄)
・経済的虐待
の5つとなります。具体的な例を挙げると、
<身体的虐待>
殴る・蹴るなどの暴行を加え、障害者にけがを負わせるなど傷つける行為。
<心理的虐待>
障害者に対して暴言を吐いたり、無視をするなど本人に対する暴力行為だけでなく、当事者の母親に対して父親が暴力をふるうといった光景を見せつける行為なども心理的虐待に当たる。
<性的虐待>
わいせつな行為をする、させること等。
<ネグレクト>
ネグレクトは一般的には育児放棄を指しますが、障害者の世話を放棄することでもあり、食事を与えなかったり、介護が必要な障害者を長時間放置するなど。
また障害者が病気になった際に病院に連れて行かず放置したり、第三者により虐待が起こっているのにそれを放置すること。
<経済的虐待>
障害年金など当事者本人の財産を保護者などが勝手に管理したり、障害者が日常生活に必要なお金などまで渡さないことなど。
のように分けることができます。
いずれも障害者の人権を踏みにじるものであり、障害者虐待防止法では「何人たりとも障害者を虐待してはならない」旨の規定も定められています。
■どんなことが虐待になる? 顕在化しない理由
障害者虐待が生じる理由として、保護者などがその障害に対する正しい知識を持ち合わせていないことや、重度の障害者の介護疲れによるものなどがあります。
例えば、統合失調症やうつ病などでは意欲の低下や、やる気の低下が見られることがあります。
しかし、保護者などに正しい知識がないとそれを「やる気の問題」「怠けている」と誤解されてしまい、虐待につながることもあります。
知的障害者の場合、虐待が起きていても本人がそれを理解していなかったり、自身から訴えることができないことが多い傾向にあります。
なぜ自分が殴られているのかわからないのに恐怖により抵抗できなかったり、「殴られるのは自分が悪いことをしたからだ」と誤って認識してしまう場合もあります。
特に、重度の知的障害者の場合は虐待を受けていてもそれを言葉にできないことが多いため、虐待の顕在化が遅れることもあるのです。
重度の身体障害においては、常時介護が必要なこともあります。その場合、介護者の方が疲れきっていてこころに余裕がなくなってしまいがちです。
こころに余裕がないときに、何かトラブルが起こったりすると介護者がつい手を上げてしまう、といったこともあります。
上に述べたような行為は家庭や施設といった密室で行われることが多く、また障害者自ら助けを求めるのも難しい傾向があるため、なかなか世間に知られていないのが現状です。
こういった現状から、平成24年に施行された「障害者虐待防止法」では、虐待を受けたと思われる障害者を発見した場合に市町村や都道府県知事に通報する義務が規定されました。
養護者や障害者施設従事者による虐待を受けたと思われる障害者を発見した場合は、市町村に速やかに通報しなければなりませんし、使用者による虐待の場合は市町村か都道府県知事に通報する義務があります。
これは〝通報義務〟と呼ばれており、障害者自身に「虐待を受けている」という自覚があるかどうかは問いません。
もし虐待を受けていると思われる障害者を発見し、通報した場合でも、通報した人の秘密は守られ、不当な取り扱いを受けないと障害者虐待防止法に定められています。
■障害者と接するうえで気をつけることは?
それでは、障害者虐待を防ぐためにはどのようなことに気を付けていったらいいのでしょうか?
まずは、障害者の周囲の人々がその人の障害に対する知識を持つことです。例えばその人が統合失調症であれば、回復期においては「やる気が出ない」「体がだるく感じる」などの特徴がみられる傾向があります。
統合失調症の回復期においては、きちんと休養を取り、生活リズムの調整をしていくことが大切です。
休養を取ることによって、もとの元気を取り戻せるように自分のペースで回復に向かって歩んでいく時期とも言えます。
しかし、こういった障害の特徴に対する理解もなく、社会に戻る前段階として散歩をしたり、友人と出かけていたりしていることを「怠けてばかりいる」「仕事もろくにしないで」などととらえてしまったらどうでしょうか。
当事者への苛立ちが募り、それが爆発したときに虐待という行為に及んでしまう可能性があります。
また、知的障害を持つ人の世話などをしている人でも、「こんなことも分からないのか」「何回同じことを言わせるんだ」というイライラから、手を上げてしまったり、暴言を吐いたりしてしまう場合もあると思います。
しかし、精神障害、知的障害、身体障害、発達障害等それぞれの障害に対しての正しい知識をきちんと持っていれば、「○○という理由でこういう行為をするんだな」と落ち着いてとらえることができ、虐待の抑止力になるでしょう。
障害に対して正しい知識を得るためには、家族会や患者会などでの研修会に参加したり、同じ障害を持つ家族同士が情報交換をしあうのも一つの手です。
また障害者が病院に通院している場合は同行し、日々の当事者の生活において疑問に思う事や対処法などを医師に聞くという方法もあります。
そして、地域全体で障害者を見守っていく姿勢も大切です。障害者虐待は家庭や施設など閉鎖された空間で起きやすい傾向があります。
その為、日頃から近所同士で見守りの体制をとり、障害者と接するときに、変わった様子はないかなど観察して、「何か悩んでいることはない?」など声をかけることも有効です。
話し出しやすい空気をつくることによって、障害者から虐待の事実が明かされることもあるかもしれません。
このように家族や地域の人々など、一人ひとりが障害者の人格を大切にしていくことが大切です。
障害者の人格を尊重し、立派な一人の人間として認めていくことが虐待の予防・防止につながっていきます。
障害者虐待をなくすには、一人ひとりの意識の持ち方が大きな課題と言えるでしょう。
■障害者虐待についてまとめ
障害者虐待防止法は、平成24年に施行されました。しかし、未だテレビや新聞などでは障害者虐待のニュースなどが報道されています。
障害者虐待を防ぐには、一人ひとりが、「障害者にも人権はある」ということをきちんと意識し、どんな障害を持つ人々でも立派な一人の人間として尊重していくことが大切です。
そのように周り人々が意識を変え、見守り支えあっていく姿勢があれば、障害者虐待も減っていくのではないかと思われます。
全ての人の人格が尊重され、すべての人が自分らしく輝いていける世の中が来ることを願います。
著者 もち猫
福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。