不安障害ってどんなもの?~原因から症状、治療法まで解説~

障害
Simona RobováによるPixabayからの画像

みなさんは「不安障害」という精神障害をご存知ですか?

ストレス社会と言われる現代、不安障害をはじめ精神障害を訴える人は増加傾向にあります。不安障害は特に若い人に良く見られるようになっています。


‶不安〟というのは誰しもが感じることですが、不安障害の人はその程度が尋常ではないのです。過度な緊張のために話しているうちに手や身体が震えてきたり、冷や汗が出る、またひどいと激しい動悸や吐き気に襲われることもあります。


不安障害とひとくちにいっても全般性不安障害(GAD)社会(交)不安障害(SAD)パニック障害といった幅広い症状があります。今回は、その中でもパニック障害と社会不安障害にスポットを当てて解説していきたいと思います。

■不安障害の原因は?また症状はどんなもの?

★パニック障害って何?★
パニック障害とは、突然理由もなく動悸やめまい、吐き気、手足のふるえなどが起こるものです。これを「パニック発作」といいます。

症状を起こしている本人は「もう死んでしまうのではないか」というくらいの苦しみを味わうので、一度パニックを経験するとパニック発作が起こったところや人を避けようとします。

特に電車、バス、エレベーターなど「閉ざされた空間」の中では逃げ道がないため、余計にそれを避けるようになり、だんだん出かけることが出来なくなり、最終的にひきこもりになってしまう、というケースもあります。

もう死ぬかもしれない」という程の発作に襲われて救急車で病院に運ばれ、検査をしてみるも特に異常なし。そんなことが何回も続くので、当事者は「どうせ自分の苦しみなんかわかってくれないんだ」と抑うつ傾向に陥ることもあります。

発作が起きるたびに周囲が「またか」「どうせ気を引きたいだけだろう」と思って冷たい態度をとってしまったら、当事者は人間不信になってしまうでしょう。そのため、何回も発作が起きているからといって軽く見るのは大きな間違いです。

★パニック障害の原因は?★
パニック障害の原因は、内科などで検査をしても見つからない場合が多いです。原因としては、交感神経が過敏に反応してしまう所にあります。そのため‶精神的な問題〟として扱われることが多いようです。心にかかる負担がキャパオーバーを起こして、それが「パニック発作」という形で身体に表されているのだと思います

交感神経は

・呼吸を早くする
・心臓の動きを早くさせる

などからだを活発に動かす時に活躍します。

例えば、人前で話をしなければならないときなど、緊張すると交感神経の働きは強くなります。それに自分が耐えられなくなると、発作が起き「もしかしたら死んでしまうかもしれない」というほどの強い発作を起こしてしまうのです。

交感神経が活発になってしまう原因としては様々な‶ストレス〟があげられます。

・家族の中での問題
・職場で起きたトラブル
・仕事のプレッシャー
・人間関係でのストレス

など、あげればきりがありません。

これらが発作のきっかけとなって、パニック障害が起こると考えられています。

★パニック障害についてもう少し知ろう!★
パニック発作においては主に3つの大きな症状にわけられます。

パニック発作において特徴的なのは「予期しないパニック発作」です。これは置かれている状況に関係なく起きる発作のことをいいます。

状況に関係ない〟ため、寝ている時にさえ起きることがあるのです。発作自体は十数分~数十分で終わるのですが、発作への恐怖は頭に残り続けます。

そしてそんなパニック発作が続くうちに‶また発作が起きるのではないか〟‶今度こそ死んでしまうのではないか〟という不安がたまっていきます。これが「予期不安」とよばれるものです。

そんな不安に襲われるうちに

・家事ができない
・勉強ができない
・仕事に行けない

などの弊害が現れ、外出する事もままならなくなる場合もあります。また酷い場合はひきこもりになります。日常生活や社会生活にまで支障を及ぼす障害、それが「パニック障害です。放っておいてもよくはなりません。早めに精神科や心療内科を受診されることが求められます。

次は「社会不安障害(SAD)」について見ていきましょう。

■社会不安障害(以下SAD)とはどんなもの?

★SADってどんな症状?★
SADは、大勢の人の前でスピーチをしたり、会議中になにか発言するときに「自分が恥をかくのではないか」「大きなミスに繋がるのではないか」といった過度の心配をしてしまう障害のことをいいます。

性格の問題ととらえられることもありますが、SADでは「人前で何かする」といった行為や目立つ行為に過度の不安と緊張を抱き、大量の汗、赤面、動悸など身体の症状となって表れます。そして、こちらもパニック障害と同じように‶目立つ場所〟を避けるようになり、次第に家にひきこもっていくようになります。

★目立たなくても不安になるの?★
‶目立つ行為〟以外にも、「会食恐怖」というのもあります。食事会やパーティーなどで‶自分が何かを食べているのを他の人に見られるのが嫌〟というものです。そのために他人と一緒に食事ができなかったり、食べた物を飲み込む音が気になってなかなか飲み込めないなどの症状もあります。

その他にもスピーチ恐怖、視線恐怖、自己臭恐怖、赤面恐怖などあります。


人前に出ることだけでなく、自分の体臭が気になって仕方なかったり(自己臭恐怖)、人前で話をしている時に自分の顔が赤くなっていないかが気になる(赤面恐怖)などです。


過度にこれらのことが気になりだすと、パニック障害と同様にパニック発作が起きることがあります。SADでは、自分でも「他の人はそこまで自分のことを気にしていない」と思いつつも、「人の目が気になる」という不合理な考えが頭を支配してしまうのです。

しかし、生きている以上苦手な場面は何度でもやってきます。自分なりに頑張ってそれを乗り越えるのですが、そのたびに自己反省会を行い「これがダメだった」「あれがダメだった」と思いこんで落ち込んでしまいます。

そうすると「また失敗するのではないか」という不安が増大してしまうので、緊張する場面など苦手な場面をまた回避しようとします。するとまた不安が募る、という悪循環に陥ります。SADの人は不安な場面を回避してしまう傾向があるため「場数を踏んで慣れる」ということがありません。しかし、適切な治療を受けることで、時間はかかりますが適切な服薬や医師の指示をしっかり守っていけば、治る可能性もあります。

★SADの原因は何?★
SADの原因はまだはっきりとはわかっていません。脳内の神経伝達物質であるノルアドレナリン、セロトニン、ドーパミンが関わっており、その中のセロトニンのバランスが崩れてしまうのが原因の一つなのではないかというのが今のところ有力な説です。そのようになる原因としては、過去に人前で恥ずかしい思いしてしまったという辛い経験や、心配性、完璧主義、人との交流が苦手、真面目で几帳面といった性格傾向があります。(このような人たちが全てSADであるとは言えません)しかし詳細はまだ明らかにされておらず、今現在も、原因究明に向けて世界中の研究者が研究を続けています。

★SADのことをもう少し知ろう★
発症する年齢としては10代で発症することが多く、25歳以上の発症は稀だと言われています。(30代に突発的にSADを発症するという報告もあります)10代で発症しても、「人の目を気にする」「男の子、女の子という意識が芽生えて話したりするときに緊張する」等という思春期特有のものとされてしまい、発見が遅れる場合もあります。


こういった時にきちんと治療がなされないまま大人になると、社会に出てから様々な困難に直面することになります。
そして、前述したように「恥ずかしい思い・緊張する場」を回避するようになり、やがてひきこもりになる可能性もあるのです。そんな事態にならないためにも、パニック障害共に早期発見・早期治療が必要となってきます。

■不安障害セルフチェック!

それでは、簡単に不安障害の傾向があるかどうかチェックできるシートをまとめましたので、よかったらセルフチェックしてみてください。

☆精神面の調子☆
・漠然とした不安がある
・神経がピリピリしている(過敏になった)
・何故か緊張感が続いている
・イライラすることが多くなった
・「その考えは間違っている」とわかっていても、それを振り払うことができない
・落ち着きがなくなった

☆身体面の調子☆
・動悸がする
・肩や腰など筋肉の凝りがある
・おなかの違和感がある
・吐き気がする
・突然の発汗がある
・手足やからだが震える
・眠れなくなった
・めまいやふらつきがおきる
・頭痛がするときがある

あくまでも筆者が情報をもとに作成したリストですので、「こんなにたくさん当てはまるから私は不安障害だ!」などと思わないでください。

「不安障害の傾向がある」程度に思ってください。もしもそれで心配になったのなら、前述したように精神科や心療内科を受診してみるのも一つの手です。

■不安障害はどう治療する?~精神療法や薬物療法で対処しよう~

★不安障害の様々な治療法をご紹介★
不安障害の治療は、薬物療法とカウンセリングなどの精神療法が主になります。薬としては、不安感を和らげる薬や動悸や震えを抑える薬などが用いられます。もし薬を服用する場合は必ず医師の指示の下、適量を決まった時に服用してください。

★精神療法って何?★
精神療法では、主に認知行動療法や行動療法などが行われます。
認知行動療法では‶極端な考え方を治す〟‶苦手なものや場面に無理なく慣れていく〟などの治療が行われていきます。認知行動療法による治療は3~6か月と長期に及ぶことがあります。
また行動療法として、不安や恐怖を引き起こす刺激(緊張する場面や苦手なこと)に段階的に直面(曝露)させます。そして不適切な反応となっている刺激や状況に少しずつ直面していき、それに慣れるよう治療を続けていくことによって不適切な反応を示さなくなる、という「段階的曝露療法」が用いられます。

★不安障害の代表的な治療法は?★
そして、代表的な精神療法が「森田療法」です。森田療法とは、我が国の精神科医である森田正馬(もりたまさたけ)がつくった精神療法です。森田療法の元来の治療対象は神経症(強迫性障害、社会不安障害、広場恐怖など)患者でした。森田はそうした人たちの中に、共通する‶性格気質〟を見出しました。

それは「内向的、小心、過敏、完璧主義、負けず嫌い」などです。これを「神経症気質」と呼びます。こういった気質や症状を「あるがまま」受容して、症状との共存を目指そうというのが森田療法です。

森田療法には外来治療と入院治療がありますが、今回は入院治療について紹介します。入院治療には段階的に治療を行っていくものです。

1.絶対臥褥(がじょく)期
これは1週間のあいだ、個室で過ごし洗面・御手洗・食事以外は終日ベッドなどに横になって過ごす時期です。そうすることで不安や症状と向き合い、今の自分を受け容れていこうとするようになります。

2.軽作業期
絶対臥褥期を過ぎたら、次は5日間軽作業期に入ります。この期間は激しい運動などは行いません。周囲を観察し、一人で何かを行う時期です。例えば庭に出て草花を観察したり、部屋の片づけや陶芸など、比較的簡単で心を穏やかにさせる作業を行います。この段階での目標は「気分や症状に流されないようにすること」です。

3.作業期
日々の生活に必要なこと(掃除や植物の水やりなど)を当番制で決めたり、自分のことは自分で行ったりして「作業」を行う時期です。重作業期」とも呼ばれ、1~2か月間かけて行われます。

軽作業期と違う所は、軽作業期では「一人で」作業を行っていたのに対し、重作業期では共同作業を行うことに重点が置かれるというところです。具体的には、料理や陶芸、小動物や植物の世話等を行っていきます。

この時期の目的としては、様々な作業をこなすことによって、達成感を味わうことにあります。

4.社会生活への復帰
1週間から1か月程度、外泊・外出を含めて社会に出る準備を行っていきます。人によっては事情に応じて、学校や会社へ通う許可が出ることもあります。(必要な場合のみ)

この様に段階を経て、症状を「あるがまま」受け容れることから始まり、作業を通して「気分や症状に流されないこと」を学びます。そしてそれを体験することで不快な症状に対する「とらわれ」から解放され「生きる意欲」を取り戻していくのです。

■不安障害についてまとめ

前述のように、不安障害の治療法には様々なものがあります。


自分の症状をしっかり把握し、どんな治療法が自分にあっているか探してみてください。薬物療法を行うにせよ、精神療法を行うにせよ、不安やパニックなどの症状で日常生活に支障を来たすようなら、一度精神科や心療内科を訪れてみることをお勧めします。

一人で悩んでいるより、医師やカウンセラーなどの専門家に相談するほうが、早い回復が見込まれます。早期発見・早期治療が大切です。

精神科・心療内科に抵抗がある人もいるかもしれませんが、身体の病気がある人が内科に行くのと同じように、心の調子が悪い時に行くのが精神科・心療内科です。自分が楽になりたいと思ったらどうすべきか、一度胸に手を当ててよく考えてみください。

著者 もち猫
福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。