インクルーシブ教育とは?~障害という境界線をなくすために~

障害

今回のテーマは「インクルーシブ教育」について!最近聞くようになった言葉ですね。

もともと「インクルーシブ」というのは‶包摂的な〟とか‶全部含めて〟といった意味です。つまり、インクルーシブ教育というのは障害のある子もない子も一緒に教育を受け、差別のない「共生社会」を目指そうというものなのです。

もち猫が中学生の頃は知的障害や発達障害のある子のために‶特殊学級〟という教室が設けられていました。

今ではそういう教室をなくし‶みんな一緒に〟学校生活を送り、それぞれの多様性を認めようという目標が掲げられ、動き始めているのです。

そんな「インクルーシブ教育」の定義やメリット・デメリット、これからの課題などについてまとめました!

■インクルーシブ教育とは?~定義や背景など~

インクルーシブ教育システムについては、障害者の権利に関する条約第24条によると

‶人間の多様性等の強化、障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限まで
 発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能にするとの目的の下、障害の
 ある者と障害のない者が共に学ぶこと〟

と定義されています。

つまり、障害がある・ないに関係なくそれぞれ多様性があり、障害がある子が必要なサポートを受けながら「みんな平等に」通常教室で学べるようにするということです。

★インクルーシブ教育が日本で注目された背景は?★


インクルーシブ教育は2006年12月の国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」で示されました。日本でもこの条約に批准するために2011年8月に障害者基本法が改正され、

可能な限り障害者である児童及び生徒が可能な限り障害者でない児童及び生徒と共に
 教育を受けられるよう配慮を行う
(第16条)

ことが示されました。

障害の特性へのきめ細やかな教育により、障害のある子どもの能力を可能な限り伸ばすことが求められているのです。

ここでいう「共生社会」とは今まで社会参加になんらかの障壁を感じていた障害者が、積極的に参加・貢献できるような社会の実現を指しています。

そして、そのような社会の実現のために注目されているのがインクルーシブ教育なのです。

このシステムでは

1.障害者が一般的な教育制度から排除されないこと
2.自分が生活している地域で初等中等教育を受けられる機会が与えられること
3.それぞれの特性に合った合理的な配慮が与えられること

が必要だとされています。

合理的な配慮というのは例えば、障害の特性を知る専門職を学校に置く、車いすの児童のためにバリアフリーにする、話し言葉だけでは伝わりにくい発達障害がある子に対して図や写真を使ってものごとを説明するなどがあります。

そして、その配慮を実現するためには本人も含めたチームで個別支援計画を立てていくことが必要となります。

■インクルーシブ教育への取組は?~メリット・デメリットなども~

インクルーシブ教育を実現するためには、まず‶基礎的な環境の整備〟が必要です。

例えば車いすの児童や、下肢に障害のある児童の場合。車いすで3階にあがれるようにエレベーターを設置したり、下肢に障害がある児童が廊下を歩いたり階段を上ったりしやすいように、手すりをつけるなどです。

他にも、学習面でのボランティアスタッフを導入するなどもあります。落ち着きのない子の面倒を見たり、授業中に知的障害のある生徒の側について、先生の話の補足をしたりするのも、配慮の一つに入ると思います。

このように、合理的配慮をおこなうことによって障害がある子もない子も、分け隔てなく通常学級で学びを得ることができます。

では、次にインクルーシブ教育のメリット・デメリットを見ていきましょう。

まずメリットとしては、

今まで通常学級で学べなかった障害がある子が通常学級で授業を受けられるというのは、それだけでもメリット。特別支援学校に行くしかなかった子にとっては、地域の通常学級で学べるだけでも差別感の軽減につながる。

・障害がない子が障害がある子の手助けをしたり、一緒に学校生活を送っていくことによって交流が深まり「共生社会」の実現が近づく。また障害のある子が一緒にいることで、障害の特性やサポートの仕方を子どもや先生が学んでいくことができる。そして「助け合いの精神」が育まれる可能性がある。

・多様な特性を持つ子がクラスにいることから、教師が障害に対して学びを深めていく
 ことによって、視野が広がる
。療育の知識が身に付くこともある。

・2013年に学校教育法施行令が改正されるまでは、障害がある子は大体が特別支援学校に就学すること     となっていたが、現在においては本人や家族の希望を最大限尊重できるようになった(最終的な決定は市町村教育委員会がします)

などが挙げられます。

では、デメリットは?

障害がある子がいじめのターゲットになる可能性がある。また、落ち着きのない子が
 歩き回ったりして授業が遅れたりすると「○○君がいるせいで授業が進まない」と
 いった負の感情をぶつけられるかもしれない

・クラスの中で障害がある子のサポートをする子が決まってしまう可能性があり、先生が
 いない時にはその子がサポートしなければなくなり、負担になるかもしれない。

・インクルーシブ教育の「合理的配慮」を「優遇」と捉えられるかもしれない。

教師や指導員が合理的配慮を苦痛に感じる可能性がある。障害がある子とない子を一緒にみるということは、すべての子に目を行き届かなせなければならないということとなり、教師が疲弊してしまうかも知れない。またインクルーシブ教育の理念が叫ばれてはいるものの、障害がある子をサポートする人材が圧倒的に不足している

このようなところでしょうか。

障害がある子が通常学級で学ぶということは教師や指導員の負担も増えるということでもあります。また、障害がない子が障害がある子をからかったりいじめたりしない、という保証はありません。

やはり、インクルーシブ教育にはメリットもありますが、デメリットも存在するのです。こうしたデメリットを取り除くには、どのような工夫が必要なのでしょうか。

■共生社会に向けてこれから取り組むべきこと

★合理的配慮を広める★

合理的配慮」とは、学校等が‶一方的に〟提供するのではなく、本人やその家族も一緒にどのようなサポートが必要か考え、両者が納得したうえで提供されるものをいいます。

一人ひとりの特性に合わせて‶個別に〟提供されるもので、障害があっても‶自分らしく楽しんで〟学校生活を送れるようにみんなが一緒になって考えて決定し、提供されるのです。

この合理的配慮を広める上で注目するのが「合理的配慮協力員」の存在です。

彼らは、障害がありサポートが必要な生徒に対して必要な合理的配慮が行われるように、合理的配慮の提供に関する相談や助言を行います。また関係機関との連絡、調整、特別支援コーディネーターへの指導や特別支援教育支援員の研修などの校内の体制整備、そして家族からの相談などにも応じます。

そういった専門職を配置することで、教師の負担が減るというのは少なからずあることでしょう。

★具体的な「合理的配慮」とは?★


学校では勉強の他にも給食、排せつ、学校行事(運動会、音楽会など)、余暇など勉強以外の時間が存在します。そのため、それぞれの場面で本人にとってどういったサポートが必要か、本人は何を望んでいるのかなどを聞き取りつつ、サポートを行っていきます

あくまでも合理的配慮の主体は‶本人〟または‶本人とその家族〟です。こちらが必要だと思いこんで本人の望まないサポートを押し付けてもこれは配慮とは言えません。

主体となる人がやりたい、もしくはやりたくても障害の特性によりできなくて困っていることを周囲に伝え、それを実現させるにはどのようなサポートが必要になってくるのかを教師、合理的配慮協力員(などの専門職)、本人、家族「みんなで」考え、個別支援計画とし、それに沿ったサポートを行っていくのです。

例えば、発達障害があり話し言葉だけでは説明を納得できない児童にはその旨を絵や写真を用いて伝えたり聴覚過敏で机を動かす音が気になる児童にはイヤーマフを許可したり、机の脚にカバーを付けるなど、その特性によって違う「困りごと」をしっかり把握し、対応していくことが大切になってきます。‶障害〟と一口に言っても

苦手なものや刺激は違いますし、程度も違ってきます。そのため「個別に」支援計画を作成する必要があるのです。

一概に「発達障害児にはこうする」などといった計画を立てても、それは何の役にも立ちません。一人ひとりの普段の様子を見て、どんな刺激が苦手か、どんな場面にどう反応するかなどきちんと把握しなければなりません。

それも教師一人では難しいので、合理的配慮協力員などの専門職と連携を取りつつ、児童生徒みんなが生き生きと過ごせるような学校を目指さなければなりません。

インクルーシブ教育は「みんな一緒」の場で学びを得ることを目標としていますが、ここでの「みんな一緒」は「一つの方針で」という意味ではありません。

前述したように、障害がある子は必要ならそれぞれの個性・特性に合わせたサポートを受け、障害のない子と平等な立場に立てるようにする、という意味です。

行き過ぎた配慮にならないよう、たくさんの人が関わって‶障害がある子をどうサポートするか〟のプランを慎重に立てていくことが必要です。

こういったサポートを受けながら、障害のある子とない子が平等な立場で、個性を輝かせながら学校という場を楽しいものにできることを願います。

■インクルーシブ教育まとめ

以上インクルーシブ教育についてまとめてきました。

まだこの概念は広まり始めたばかりで、すべての学校で「合理的配慮」ができていたり、「合理的配慮協力員」が配置されているわけではありません。

それは学校関係者などの今後の課題と言えるでしょう。

今までのように障害がある子は特殊学級へ、というのではなく、障害のある子とない子が同じ教室で学校生活を送ることによって、助け合いの精神が芽生えたり、差別意識の解消などに一役買う可能性もあります。

しかし、やはり最初は障害がある子に対してネガティブな捉え方をする子もいるかもしれません。

そこをどう解決していくか、というのも今後の課題でしょう。

まだまだ課題が多いインクルーシブ教育ですが、いつか障害がある子、ない子が一緒に教育を受けることが「当たり前の教育」になれば、と思います。

著者 もち猫
福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。