知的障害ってどんな障害?~療育や進路について~

知的障害

皆さんの周りにも知的障害がある人がいると思います。知的障害がある人の有病率は人口の約1%とされています。

知的障害は発達期(幼少期から青年期)に現れ、DSM-5(最新の診断・統計マニュアル第5版)
では知的能力障害(知的発達症)とも呼ばれています。

知的機能や適応機能の発達の具合により軽度・中程度・重度・最重度に分けられます。

知的障害は「障害」ですので、治癒することはありません。しかし、症状を最小限に抑えるためにも小さいうちに正しい診断を受けて、早い段階から教育・療育・治療をおこなう必要があるのです。

今回は知的障害がある人に交付される「療育手帳」やサービスを受ける際に必要となる「受給者証」について、また子どもの進路などについてまとめました。

■知的障害ってどんな障害?

知的障害とは

発達期(幼少期から青年期)に生じ、論理的思考、知識や問題解決といった概念的領域、対人コミュニケーションや社会的判断、自己制御などの社会的領域、金銭管理や行動の管理などの実用的領域という、3つの領域における知的機能と適応機能の双方に明らかな制約が見られる障害

とされています(DSM-5 2014)

知的障害と診断する時には、今まではIQが重要視されていましたが、現在(DSM-5)では上に挙げた‶概念的領域、社会的領域、実用的領域〟に重点を置いて診断されています。

IQが低いからといって日常生活への支障が大きい人ばかりではない、というのが理由です。

よって、3つの領域における適応機能が重要視されるようになったのです。

また、知的障害の重症度も上の3つの領域によって判断されます(4段階)
小児期の早期で判断が難しい場合は、全般的発達遅延と診断される可能性もあります。

■知的障害がある子が受ける‶療育〟とは?

厚生労働省の定義を参考にしますと

児童発達支援は、障害のある子どもに対し、身体的・精神的機能の適正な発達を促し、日常生活及び社会生活を円滑に営めるようにするために行う、それぞれの特性に応じた福祉的、心理的、教育的及び医療的な援助である

とされています。上の「発達支援」とは療育とほぼ同じ意味です。

もともと療育は肢体不自由児の社会的自立に向けた支援でしたが、最近では知的障害がある子どもの育ちの支援としても扱われています。

児童福祉法に定められており、公的にも効果が認められているものです。

子どもに対する支援だけでなく、障害がある子を持つ親の悩み相談にも乗ってくれるので、家族だけで問題を解決しようとしていた人たちにとっては「第三者が手を差し伸べてくれる」良い制度です。

また「児童の権利に関する条約」では「生きる権利」「守られる権利」「育つ権利」「参加する権利」が定められています。障害があっても自分らしい実りの多い人生を送っていくためにも、療育は大切な支援策だと言えます。

療育を受ける対象としては障害のある子ども(小学生以上の場合は、療育ではなく‶放課後デイサービス〟という形での支援になります)です。

身体・知的・精神3つのうちどれか(重複する場合も)の障害がある子、となっています。しかし、障害があるからといって誰もが療育を受けられる訳ではありません。

自治体から発行される「障害福祉サービス受給者証(以下、受給者証)」が必要になってきます。

申請のために医師の診断が必要な自治体もあります。

受給者証の交付を受けると、国と自治体から施設利用料の9割の給付が受けられ、残りの1割を負担することによって児童発達支援をうけることができます。

ここで、サービスを受けるのに必要な「受給者証」と「療育手帳」の取得の仕方を紹介します。

★受給者証の取得方法★
申請に赴く際の持ち物としては

・支給申請書
・障害児支援利用計画案
・マイナンバー
・支援が必要なことがわかる書類(医師の意見書など)
(各自治体によって異なる可能性もあります)

申請時に必要である「障害児支援利用計画案」は原則相談支援事業所での作成となりますが、セルフプランという形で利用者側や通所先の支援者の支援を受けることによって案を作成することも可能です。

流れとしては

1.調査・審査
自治体の調査員が障害の状況や程度、家庭の状況、生活の状況などについて聞き取りを行います。その際に必要なサービスの検討が行われます。

2.受給者証の発行
支給が決定したら、市区町村から受給者証が交付されます。申請してから約2週間~1ヶ月で発行されるところが多いようです。

3.事業所との契約
利用する事業所と直接契約を結びます。このときに受給者証を提示することで、サービスの利用が開始されます。

★療育手帳の取得方法★
申請に赴く際の持ち物としては

・写真(4㎝×3㎝が一般的)
・印鑑
・療育手帳交付申請書
・母子手帳(自治体によって求められることがあります)
・薬を服用している場合は、お薬手帳など

流れとしては

1.程度判定の申し込み
住んでいる市区町村の窓口や児童相談所で、療育手帳取得の申請をし、障害の程度判定の
予約を申し込む。

2.聞き取り
心理判定員、小児科医による面接、聞き取りが行われる。

3.区分の決定
判定の結果に基づき、精神保健福祉センターで審査が行われ、区分が決定される。

4.手帳が交付される
(こちらもお住いの自治体や地域によって異なる場合があります)

以上、受給者証と療育手帳の取得方法を簡単にまとめました。


療育を受ける場合や療育手帳を取得される際に参考にして頂ければ幸いです。ただ、前述のようにお住いの地域などによって持ち物や待機期間、申請の流れが違うこともありますのでご注意ください。

■療育手帳を持つメリット・デメリット

実は、療育手帳は法律で定められたものではありません。

療育手帳の制度は自治体によって違うのです。手帳の名前も違い、東京では「愛の手帳」埼玉県では「みどりの手帳」など違う名前をつけている自治体もあります。

療育手帳を取得できる基準は様々ですが、目安としての基準を記しておきます。

・おおむね18歳以前に知的障害が認められ、それが持続している
・標準化された知能検査によって測定された知能指数(IQ)が70以下
 (IQ75としている自治体もある)
・日常生活に支障が生じているため、医療・福祉・教育・職業面で支援を必要とする

といったものです。分かりやすく言うと

IQが大体70以下で、子どもの頃(18歳未満)に知的障害と診断され、生活を送っていく上で困難を抱えている人

だと言えるでしょう。

判定の際は、IQの高低だけでなく「どれだけ生活に支障を感じているか、どれくらいサポートが必要か」も判断材料となります。

そして、知的障害の区分の中には「A」と「B」の2つがあります。これらをさらに細分化して「A1」「B2」などとしているところもあります。

★療育手帳を持っていることのメリットは?★
まず当たり前のことですが「知的障害がある」ということを証明する書類として使えます。

何か手続きを行う際に療育手帳があれば、医師の診断書や意見書などを病院で発行してもらわなくても済むので、手続きもスムーズに進むと思います。

また福祉的就労を行う際にも持っていると便利です。

就労継続支援A型事業所や就労継続支援B型事業所、就労移行支援事業所、就労定着支援を利用しようと思った時に手帳を持っているとこちらもスムーズに利用することができます。

子どもの場合、加配申請(園や学校などで障害の特性に対するサポートしてくれる先生を着けてもらえる申請)が通りやすくなります。

加配申請を行う場合、医師の意見書などたくさんの書類が必要となってきますが、療育手帳を持っていると持っていない子どもよりはスムーズに申請が行えます。

そして、療育手帳を持っている人は税金の障害者控除を受けることができます。


さらに、手帳を持っていることで手当金が支給されたり、博物館や美術館などの公共施設、そして遊園地や映画館などで割引が受けられるというメリットもあります

★では、デメリットは?★
基本的には、療育手帳を持っていることでのデメリットはないのではないか、と言えます。

しかし、当事者が「知的障害」というレッテルを貼られた気分になるということはあるかもしれません。また、親からしても「自分の子どもは知的障害だ」と認めざるを得なくなり、精神的な面でマイナスになる部分はあると思います。

しかし、当事者が「自分らしく」生きていくことや「制度やサービスを利用しやすくする」ことを思えば、手帳は取得しておいた方がメリットが大きいと言えるでしょう。

■知的障害がある子の学びの場

知的障害にも等級があることは述べました。その程度によって、その子の通う学校の種類は変わってきます。

今は、障害がある子の学びの場については、障害者の権利条約に基づく「インクルーシブ教育システム」の実現に向け、障害のある子とない子が出来る限りともに教育を受けられるよう制度やシステムの整備が行われているところです。

ちなみに「インクルーシブ教育」を分かりやすく言うと

子どもたちの多様性を尊重し、障害のある子どもが精神的、身体的な能力を最大限まで 
発達させることができるよう、他の障害のない子と変わらず支援していく

教育方針のことです。

その教育方針に基づいて障害のある子の自立と社会参加を見据え、一人ひとりの教育的ニーズに最も的確に応えることができるよう、国も動き出しました。

障害がある子が通う場所(小学校を例に挙げます)としては、3つの道があります。通級による指導、特別支援教室、特別支援学級です。

順番に紹介していきたいと思います。

1.通級による指導

形態としては

‶通常の学級に在籍し、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を
 必要とする児童生徒に対して、障害に応じた特別の指導を行う〟

されています。

障害の程度が軽度であることと、通常のクラスに籍を置くのが特別支援学級との違いです。

2.特別支援教室

形態としては

‶障害のある幼児、児童、生徒の自立や社会参加に向けた社会的な取り組みを支援するという視点に立ち、幼児、児童、生徒一人ひとりの教育的ニーズを把握し、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するため、適切な指導及び必要な支援を行う〟

とされています。

これは障害のある児童生徒だけでなく、知的の遅れのない発達障害の子も含めて特別な支援を必要とする幼児、児童、生徒が在籍するすべての学校において実施されるものとされています。

3.特別支援学級

形態としては

‶小学校、中学校等において以下に示す障害にある児童生徒に対し、障害による学習上又は生活上の困難を克服するために設置される学級〟

とされています。

対象とされる障害
知的障害、肢体不自由、病弱者及び身体虚弱者、弱視者、難聴者、言語障害者
自閉症者・情緒障害者

障害の判断は専門医による診断だけでなく、観察・検査などの教育的・心理学的観点からも行われます。

自閉症・情緒障害」とは自閉症など、意思の疎通(コミュニケーション)に困難を抱える、また心理的な要因などで社会参加が難しい子どもに向けた学級です。

1クラスの児童生徒の数の基準は8人とされており、通常学級よりはきめ細やかな支援が期待されます。

今回は「特別支援学級」について触れていこうと思います。

■特別支援学級って?~どんな支援が受けられるの?~

日本では、障害がある子の自立と社会参加を図るために「特別支援教育」制度があります。
特別支援学級」もその制度を基に設けられたものです。

特別支援学級は通常小学校内にあり、前述のように1クラス8人となっているため、きめ細やかな配慮を受けることが可能です。

自閉症・情緒障害、知的障害がある子が受けられる支援を紹介すると、以下のようなものがあります。

1.自閉症・情緒障害
《障害の程度》
自閉症などに類しコミュニケーションに困難がある、心理的な要因などで社会生活への適応さに困難がある。

《支援》
対人関係の構築など人とのかかわりを円滑にし、生活する力を育てることを目標とする。

2.知的障害
《障害の程度》
知的発達の遅れにより、コミュニケーションの障害や日常生活に一部支援が必要。

《支援》
特別支援学校の学習指導要領に合わせる、下の学年の目標や内容に入れ替える、など。

簡単にまとめるとこのようなものです。他にも、前述した障害に合わせた支援が行われ、障害がある子の自立と社会参加を目標とします。

★入る基準・判定方法★
入る基準・判定方法は地域、状況によって異なりますが、本人や保護者の意思を大切に尊重し、市区町村の就学支援委員会が判断します。そして政令市または都道府県の教育委員会が最終的に決定することとなっています。

しかしすべての学校が前述の障害に対応しているとは限らないため、学校選びをする際は子どもの障害について配慮があるかなど、きちんと確認しましょう。

また通常学級でどの科目を受けるか、特別支援学級で受ける科目がどれか、というものも学校によって異なってきます。その子の能力や学校の学習方針にもよるでしょう。

★小学校卒業後の進路は?★
小学校の特別支援学級卒業後には「通常の中学校に進学する」「そのまま中学校の特別支援学級のある中学校に進学する」「特別支援学校に進学する」などがあります。

中学校までは特別支援学級があるので「そのまま特別支援学級に進学する」という手もありますが、高校には配置されていません(2022年2月現在)

理由としては、入学試験で選抜があるから・義務教育ではないからなどが挙げられています。

文部科学省「学校基本調査 /卒業後の状況調査 中学校(令和2年度版)」によれば、公立中学の特別支援学級を卒業した者のうち、高校へ進学した人が49%、特別支援学校へ進学した人が45%、就職などその他が6%となっています。

特別支援学級は知的障害だけの学校ではないので「知的障害の子がどれだけ高校進学に含まれているか」までは筆者では分かりませんが、障害があっても高校や特別支援学校などへの進学率が高いのは統計からもわかります。

ただ言えるのは、下記に述べる多様性のある通信制高校なども増えてきたことや、公立高校で通級が整備されてきていることから、知的障害の子の進路選びにも幅が利いてきたのではないかということです。

しかし、ただ「高校に行きたい!」といっても内申点がないと困りますよね。

中学校の特別支援学級では、学校によっては中学校の学習指導要領での評価ができないこともあるため、内申点が付かない場合もあるのです。

そんな中、内申点が考慮されない高校の例として神奈川県の「クリエイティブスクール」というシステムを導入した学校が挙げられます。

これは神奈川県の教育改革の一環として始められたシステムの内の一つです。


クリエイティブスクールに指定された学校は、不登校や学業不振などで中学時代に能力を発揮できなかった児童も通うことのできる全日制の高校です。

入試の際も内申点は考慮されず、面接+小論文(作文)のみで受験することができます。

1クラス30人以下、そして担任と副担任の2人体制がほとんどです。そしてキャリア教育などにも力を入れ、卒業後にはその子の個性が輝く将来へとつなげていきます。

それを考えると、クリエイティブスクールのような‶内申点を考慮に入れない高校〟で、しかも少人数、きめ細やかな配慮が受けられる高校というのは知的障害がある子にとってもメリットが大きいのではないでしょうか。

ただ全日制ということもあり、毎日通うことが前提とされています。もし知的障害が軽症で進学できたとしても、通えなくては留年の恐れがあります。

「毎日通うのは難しい……。だけど高校には行きたい!」というこの場合は通信制高校のサポート校、という手もあります。

通信制高校を卒業するにはレポート、スクーリング(通学して授業を受けること)テストを通じて卒業資格を得なければなりません。その為、なかなかそれをクリアできず、卒業するのに時間がかかってしまうという子もいます。

そこでサポート校の出番です。きちんと3年間で卒業できるよう、学習面、生活面、精神面での支援が行われるのです。

サポートは手厚く、学校に通うのが難しい子には週1回からのスクーリング(通学して授業を受けること)を行ったり、学校に来れない子の家に先生が赴き、自宅学習からスタートして通学できるようになるのを目指す、などの柔軟な体制がとられているのです。

そしていじめ対策として、休み時間も先生が教室に在中したり、カウンセラーが学校内に常駐しているところもあり、心理面でも安心して利用することができます。

知的障害がある子は、コミュニケーションが苦手だったり、学習が苦手といった部分からいじめの対象になる場合もあります。

そういった面では、「先生が教室にいてくれる」というだけでも知的障害がある子の不安感も減らせるのではないでしょうか。また副担任もつくことから、勉強についても生徒一人ひとり「わからないところから」教えてくれるため、個々の理解度に合わせて学習を進めていくことができます。

サポート校では「自分のやりたいこと」を見つけたり、好きなことのスキルをアップさせるのにも一役買います。

午前中は通信制高校の授業、午後からは選択式のカリキュラムという学校もあるため、自分が将来就きたい職業や興味のあるカリキュラムに時間を使うことができるのです。

そういった点では「自分は障害があるから」と、将来を描きづらくなっている子においても目標となるものを見つける良い機会になると思います。

通信制高校では勉強に励み、サポート校では自分のやりたいことを見つけ、スキルアップしつつ高卒資格を取り、自分の望む将来が実現できる可能性もあるということを知っておいてほしいです。

■知的障害についてまとめ


以上「知的障害とはどういったものか」という基本的なことから知的障害がある子どもの進路についても触れてきましたが、いかがでしたでしょうか。


「知的障害があるから」といって将来の選択の幅が狭まるわけではありません。その子に合った支援を行い、進路なども慎重に判断していくことによってその子の未来は拓けます。ここで忘れてならないのは、その子の人生の主体は当事者である子どもだということです。

親が過保護になって何にでも口を挟み、保護者の思い通りにしようとしてはいけません。

当事者である子どもの意見を最大限尊重し、その子が「自分らしく輝いていける」人生を歩むことができるよう、背中をそっと押すような気持ちで支援していってあげてください。

著者 もち猫
福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。