発達障害者の社会参加~発達アンバランスとは職場にうまく適応するにはどうする?~

発達障害
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発達障害というと、みなさんはどんな障害を思い浮かべますか?
ADHD、ASD、LD等々。見た目は普通なのだけれど、特性のせいで多動になったり注意散漫、また場の空気を読むことが苦手だったり、数字に関することが苦手……。

発達障害」と一口に言ってもそれぞれ特性は異なります。
もち猫も診断が下りたわけではありませんがADHDの傾向があります。不注意で車のカギをなくしてしまったり、コミュニケーションをとるときになかなかみんなの空気が読めなかったり……。

今回は発達障害の中のADHD(注意欠陥多動性障害)、ASD(自閉症スペクトラム障害)について紹介し、その障害が起きる原因や、その人が社会人になった時に気を付けること、周りができる配慮等を解説していきます。

■そもそも発達障害って何だろう?~ASD・ADHD編~

★発達障害の定義★

発達障害とは、発達障害者支援法において

発達障害は、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠  
 陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において
 発現するものとして政令で定めるもの〟

とされています。

それでは、今回のこのコラムではASD(自閉症スペクトラム障害)とADHD(注意欠陥多動性障害)について見ていきたいと思います。

★ASDって何?★
ASDとは自閉症スペクトラム障害ともいいます。自閉症スペクトラム障害とは、‶古典的な自閉症、アスペルガー症候群、特定不能の広汎性発達障害〟などの疾患が2013年にASDにまとめられました。一人ひとり特性が違う為、これらの疾患を一つの連続体(スペクトラム)として見て、一つに統合したものになります。


ASDの人は対人関係が苦手で、特に

・相手の立場に立って考えること
・場の空気を読むこと
・言葉を字義通り理解してしまう
・想像力が乏しい
・たとえ話がわからない
・一方的に話をしてしまう

などの特性が見られます。

また「こだわりが強い」という特徴もあり、

・特定の物事に対して強い興味を持つ
・自分の決めた手順で物事を行わないと気が済まない
・ずっと同じ動作をしている
・興味を持った物事について膨大な量の知識を持つ

といった特性も見られます。

また、ASDの人は不安や恐怖に対して、五感が敏感なため、パニック障害や対人恐怖を併発することもあります。そして、その特性故に仲間ができず、人間関係で孤立して、心が落ち込みうつ病になることもあります。

そして社会生活を上手く送れないことから引きこもりになってしまう場合もあるのです。しかし、困った面ばかりだけでなく「こだわり」を活かせば専門職で活躍することなども可能です。

★一方、ADHDとは?★
ADHDとは注意欠陥多動性障害の事を言います。

・多動性
・不注意
・衝動性

の3つが主な特性になります。
例を挙げると

・落ち着きがなくじっと席に座っていられない
・なくしものが多い
・課題や活動など順序だてて行うことが難しい
・手足をそわそわしている
・ほかの刺激によって注意がそれやすい

などの特性が見られます。

文部科学省によると、ADHDの定義は

‶年齢あるいは発達に釣り合わない注意力、および/または衝動性、多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障を来たすものである〟

というものです。

発達障害に気づかないまま社会人になると、不注意によりケアレスミスを繰り返したり、重要な書類をなくしてしまったりと、社会生活にも支障が出る場合があります。

ASDでは小さい頃成績が優秀であったりするためちょっと変わっているけど頭のいい子」としてミスを周りの大人がサポートしてくれたりしますが、社会人になったら助けてもらってばかり、というわけにはいきません。

それでは、発達障害は何故起こるのでしょうか?

■発達障害は脳の機能障害との関連あり!?

発達障害は、脳の機能障害によっておこるという説が有力です遺伝や妊娠中・出生時の異常などが原因で脳機能の発達に「偏り」が生まれることで起きる、という説です。

★ADHDは前頭葉の機能不全が原因?★
ADHDの原因において有力視されている説は、‶前頭葉機能不全〟です。これは「ADHDの多動と衝動性は基本的に前頭葉の抑制が効かない状態である」として、脳の前頭葉の機能障害を指摘したものです。

前頭葉の役割は注意の集中や持続、衝動性や欲望を自分でコントロールすること、想像力、創造力、認知能力、言語能力などに密接に関係していると言われています。

前頭葉が損傷されるとADHDと同じように、自分の行動や衝動性、集中力が制御できなくなり、イライラが発生し、感情が不安定になるのです(チンパンジーなどの霊長類を用いた動物実験において判明)

脳の他の部分が損傷してもそのような症状は見られなかったことから、ADHDは「前頭葉の損傷が原因」という説が有力視されるようになりました。

★ASDも脳機能の障害!?★
ASDでは、ADHDより広い部分での脳の機能障害が提唱されています。
前頭葉、側頭葉、頭頂葉などの大脳皮質から小脳虫部、大脳辺縁系、視床などに異常が見つかっているというのです。

ASDでの言語・社会性・運動・感情・衝動性などの発達が広く障害されるのは、このように脳の広い部分での発育、発達の働きが悪いためだと言われています。

特に最近注目されているのは、脳の前頭葉、基底核、小脳の神経系のつながりです。この3つは認知、運動、言語能力で重要な役割を担っているのですが、ASDがある人ではこの3つの連携がうまくとれていないようなのです。それによって認知能力の異常や言語コミュニケーションでの遅れが見られているのではないか、という説です。

発達障害は脳機能の障害が原因という説があることはわかりましたが、家庭環境や養育環境は影響しないのでしょうか?

■機能不全家族と発達障害への影響

機能不全家族とは、子どもが十分な愛情を受けられず、健全な育成が妨げられる家庭環境のことを言います。その例が虐待です。身体的虐待・心理的虐待・性的虐待・ネグレクト(育児放棄)などがそれにあたります。

そういった恐怖をちらつかせ、子どもを恐怖によってコントロールしようとする親、いわゆる「毒親が支配しているのが機能不全家族です。毒親は子どもを支配・管理しようとします。子どもが言うことを聞かないと殴ったり、怒鳴ったりして「逆らってはいけない」という意識を植え付けるのです。そして、自分の気に入る様振る舞うように子どもをコントロールしようとします。こういった家庭で育った子どもをアダルト・チルドレン」と呼びます。

機能不全家族では、子どもが十分に愛情を得られず、安心して育つことができません。
このような環境では「叱られないだろうか、殴られないだろうか」といつもびくびくしていたり、親の顔色をうかがって行動したりと、子どもの心が休まるときがありません。
その結果、上手くコミュニケーションが取れなくなったり、精神的にいつも不安定になってしまいます。そして、物事をネガティブにとらえがちになるという面もあります。

ほっとできる場であるはずの家庭がピーンと糸をはりつめたような状態ですので、子どもの心は緊張や恐怖などから歪んでしまうのです。さらに問題なのが、発達障害の人がこのような家庭で育つと様々な症状が悪化・激化しやすいという点です。

★発達障害がある子の弱いストレス耐性★
子どもは小さなころから莫大なストレスを受けて育つのですが、発達障害の子どもはストレス耐性が弱いために、健常な子供よりも大きな影響を受けます。このような不適切な養育によって、その人はストレスを受け続けます。

特に発達障害の子どもは、その特性から注意や叱責をされたりする機会が多くなってしまいます。

その結果、心の歪みはひどくなりうつ病や依存症などになり、余計に社会に適応しづらくなります。発達障害は親の養育が原因ではないと言われていますが、その重症度を左右するのは親の養育態度とも関係してきます。親が受容的な態度で接してきたのか、または否定的な態度で接してきたのかによって、子どもの心の歪みの度合いも異なってくるのです。心が歪めば歪むほど、発達障害の症状も悪化していく可能性はあるのです。

発達障害は「治るもの」とは言いづらいです。治療の目的は特性を消すことではなく、その特性による「生きづらさ」を軽減させることにあります。

■発達障害と共に生きる~悪化予防と生活を送る上での注意点~

発達障害の原因である脳の機能不全を完治させることはできません。しかし、発達障害の人の‶生きづらさ〟を改善することはできます。様々な工夫をしたり、環境を整えること、生活リズムを整えること、薬物療法などによって‶生きづらさ〟を改善させることはできます。

★まずは自己認知から★
‶生きづらさ〟を改善することはできますが、まず大切なのは「病識をもつ」こと。これは「自分がこういう障害で、こういう特性があるんだ」と自分で自分の障害について理解を深めることです。

病識を持つことができれば「こういうとき自分は○○といった行動をとったら大丈夫」「こういう時は苦手な場面だから誰かに助けてもらおう」といった傾向も分かってきます。
また、不安要素から逃げることもできます。それだけ、「病識を持つ」ということは大切なことなのです。

病識を持ったら、次は「自分の課題に気づくこと」また「自分の考え方や感じ方の癖に気が付くこと」

・自分は何が得意でどんなことが苦手なのか
・どんなときにミスを起こしやすいのか
・ミスを起こすとどういう風に感じるのか

などです。
これらを知るだけでも「今みたいな気持ちの時はミスを起こしやすいから気を付けよう」などと注意して過ごすことができます。そうすれば、今の状況を少しでもよくすることは可能でしょう。

★よき理解者と巡り合おう★
そして自分の周りに「自分のよき理解者」を作ることも必要です。自分の特性が強く出ている時に配慮してくれるよう頼んだり、自分一人でできない事はサポートしてもらったりと理解者の存在はとても大きなものです。自分の特性をしっかり理解してくれ、何かあった時は支援をお願いできる「理解者」が一人でもいれば、とても心強いと思います。

★発達障害を悪化させないために★
まずは規則正しい生活を送ることです。夜更かししすぎない程度の時間に寝て、朝は決まった時間に起きて日光を浴びる。

日光を浴びると、セロトニンが増え、ドーパミン、ノルアドレナリンを制御してくれるので、精神を安定させることができます。セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれており、神経を落ち着かせるには有効です。

発達障害の人は、ひきこもっていなくても生活のリズムが乱れている人が多い傾向にあります。特性の内の「過集中」から夜遅くまでネットやゲームにのめりこんでしまって寝不足になり、仕事場や学校では寝ぼけまなこ、なんてことも。

発達障害がある人は、睡眠効率が悪く、セロトニンやメラトニンが不足している傾向にあります。それに加えて生活のリズムが乱れてしまえば、過眠症や睡眠障害につながってしまいます。それを防ぐためにも、規則正しい生活のリズムが必要なのです。

そして前述しましたが‶ゲームやネットにのめり込まない〟ことも発達障害の悪化を防ぐのには必須です。発達障害がある人は対人関係が苦手なため、本物の人間を相手にしなくても済むゲームなどにのめり込むことが多いです。また「好きなことはとことんやる」といったこだわり行動と過集中から、ゲームの世界に入り浸ってしまう人もいます。

そういったことからも‶ゲームやネットにのめりこまない〟‶規則正しい生活を送る〟ということは大切になってきます。

■発達障害者が社会で上手に働くためには?~基本が大事~

発達障害がある人は、社会では「基本」とされていることができていない場合があります。

★会社に行くときの基本中の基本★
例えば身なりについて。
・髪の毛はとかしてありますか?
・爪は伸びたままになっていませんか?
・お風呂にはちゃんと入っていますか?

会社に行く以上、清潔な格好で出社するよう心がけましょう。

次に言葉遣い
・TPOにあった言葉遣いができていますか?
・仕事でため口を使っていませんか?
・場に合った話ができるよう心がけていますか?
・話す時に仏頂面になっていませんか?
・話しかける時、いきなり話しかけたりして相手を驚かせていませんか?
・自分の話をいきなり始めていませんか?

相手に話しかけたい場合「よろしければ~」「今いいですか?」「お時間ありますか?」等のクッション言葉が必要です。

社会では「基本」とされていることも、発達障害がある人にとっては難しい場合があるのです。社会常識が欠けていたり職場の慣習などを理解できない事もあります。またルール自体分かっていない場合と、分かっていても守れないという場合があります。もし特性を活かして自分に合った職に就けたとしても、こういった当然のマナーが守れていないようでは、不適応を起こしかねません。

また、忙しそうな人がいても知らんぷりをしたり、会議中にあくびをしたり、その場にそぐわないことを言ってしまったり、仕事の納期や期日が守れなかったり……。自分では悪気無くやっている事でも、周りにとっては迷惑と感じられることも多々あります。

本人も発達障害に気づかず成人し、こういった困りごとが出てきた場合大変ですが、そういった人が同じ社内(部署)にいる場合、どうやって配慮していったらいいのでしょうか?

■発達障害者がいる職場の配慮は?

★工夫すると良い点★
1.ADHDやASDの人は耳で聞く情報より視覚化した情報の方がわかりやすい人が多いので、物事の順番を口で説明するより写真や絵をつかって教える

2.ADHDの多動性が見られる場合、デスクワークであれば少しの時間席を離れて、一人で休憩(クールダウン)する時間を設ける。また「この資料を○○課長に届けて」など実際に動くことがあれば頼んでみる

3.マルチタスクが苦手な傾向がある為、仕事は一つずつ頼む

4.分からないことを聞いてきたら、きちんとメモをとるように指示する。重要な所はきちんと強調してしっかりメモが取れているか確認する

5.不注意傾向や注意散漫傾向がある場合、一人で落ち着いて作業できる環境がつくれるなら提供する

6.スケジュールを立てるのが苦手な傾向にある為、仕事の重要度をきちんと伝え、何からやればいいか具体的に指示する

7.仕事の締め切りはしっかり決める。「いつでもいいよ」というと優先順位がつけられないことから、後回しにしてしまう傾向がある

8.忘れっぽいという特性から「この資料の作成は終わった?」など定期的に声掛けをする

9.上司や同僚で当事者について理解がない場合、理解ある部署に異動させる

10.本人から承諾を得られた場合、当事者がどんな障害でどんな傾向があるかを周知し、サポートできるところは行っていく

■当事者が働きやすい職場へ~本人の努力と周りの理解~

前述のように、本人から承諾が得られた場合「本人にどういった特性があるか」「どういうサポートが必要か」などを周知し、周りの理解を得ることが本人にとっても周囲にとっても‶働きやすい環境づくり〟には良いことだと思います。

周知していないと「こんなこともできないのか」「何であんなにミスが多いんだろう」などといった悪い面ばかりが目立ってしまいます。

周知していれば「(発達障害の特性から)ここが苦手なんだな」「こういう時はサポートに入った方が、ミスなく事が済むな」等といった風に周囲も接し方に工夫ができるからです。

適切なサポートと本人の努力次第で、その職場は当事者にとって‶働きやすい職場〟になります。

詳しくは割愛しますが、最近では病院で「発達専門外来」という、発達障害専門の科が増えつつあります。もし「自分は発達障害ではないか」と不安になったり、色々な症状で日常生活や社会生活に支障が出ている場合は、訪れてみるといいでしょう。

自分を知ることで、あなたがあなたらしく良い人生を送っていけることを祈ります。

著者 もち猫
福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。