最近、「大人の発達障害」がメディアなどで取り上げられることが増え、注目されています。しかし、まだまだ大人の発達障害について知らない人も多いのではないでしょうか?そこで、今回は大人の発達障害、特に注意欠陥・多動性障害(ADHD: Attenuation Deficit Hyperactivity Disorder )に特化して解説していきたいと思います。
■注意欠陥・多動性障害(ADHD)ってどんなもの?
発達障害の一つに、注意欠陥・多動性障害(ADHD)というものがあります。ADHDは脳の先天性の障害によって起こり、成人すれば症状も落ち着いてくるものとされていました。
しかし、実は成人した方でもADHDの症状に悩まされている人もいます。
ADHDのタイプは、大きく分けると、
1.不注意が顕著にみられるタイプ(不注意優勢型)
2.多動・衝動性が顕著にみられるタイプ(多動・衝動性優勢型)
3.上記の2つが混合したタイプ
の3つに分類することができます。まずは、大人のADHDの前に、基本である児童期によくみられる症状について触れていきたいと思います。それでは1の不注意優勢型のADHDの症状から順を追って説明していきます。
1のタイプによくみられるものとしては、
・集中力の維持が難しく、興味があることに気を取られ、気が散ってしまう
・物をどこかに置き忘れる、なくしてしまうことがよくある
・約束や時間を守れない
等の症状があげられます。児童期によく見られる症状としては、「忘れ物が多い」というものです。保護者に渡すべきプリントを渡し忘れる、教科書など大切なものを忘れて学校へ行ってしまう、なども起こりがちです。
また、約束や時間を守れないといった不注意から、「いい加減な奴だ」と思われ、対人関係が悪化してしまうこともあります。
次に2の多動・衝動性優勢型についてです。こちらの症状としては、
・授業中に立ち歩く
・キョロキョロする、じっとしていられない
・待つことが苦手
等の症状があげられます。常に落ち着きがなく、ソワソワしているため、児童期では授業中に立ち歩いたりして先生から注意されることもしばしばです。
最後に3では、1と2のタイプが混ざり合って生じるものですが、
・忘れ物やなくしものが多く、じっと座っていられない
・ルールを守ることが苦手で順番を守らない、また衝動的に怒鳴ったりする
等の症状があげられます。1と2のどちらが強く表れるかには個人差があります。
また、ADHDの二次障害としてうつ病や不安障害、気分障害などが生じることがあります。
このように、一口に「ADHD」といっても症状には上記の3つのタイプがあり、それぞれどんな症状が顕著になっているかも違います。
次の章では成人のADHDの症状はどのようなものがあるのか紹介したいと思います。
■大人のADHDでみられる症状って?~なぜかうまくいかない人の特徴~
大人になってくると、衝動性・多動は落ちついてくることが多いのですが、不注意の傾向は続く傾向にあります。
どのような症状がみられるかというと、
・仕事でケアレスミスを繰り返す
・会議の時間や人と会う約束を忘れる
・複数のことを同時にできない(マルチタスクができない)
・デスクや自室の整理整頓ができない
などです。社会人になるとちょっとしたミスが大きなトラブルにつながることがあるので、このような傾向がみられるとその人への不信感につながります。
約束事や時間を守れなかったりすると「信頼のできないやつだ」「いい加減に仕事をしている」など低い評価がなされてしまいます。
しかし、本人には「さぼっている」などという意識はほとんどありません。それどころか、「自分は頑張っているのに」「どうして自分が叱られているんだろう」などと、叱られている理由がわかっていない場合もあります。
対人トラブルも起きやすくなりますし、またマルチタスクも苦手とするため書類を作っているときに電話がかかってきたりするとパニックになる、ということが起きてきます。
大人のADHDでは、このような症状だけでなく、これに付随する二次障害によって生きづらさを感じる場合もあります。
児童期のADHDにもみられるように、成人になっても二次障害としてほかの精神疾患を併存する可能性は否定できません。
一般的に有名なものでいうと、「うつ病」です。成人のADHDにおいては、ケアレスミスなどで仕事のパフォーマンスが下がってしまう傾向があります。
仕事の能率が落ちたり、ケアレスミスが多くなれば、度々叱責を受けることになります。それがストレス要因となり、うつ病などの精神疾患に陥る危険性も高まります。
そのほか、ストレスを要因とした二次障害としては、統合失調症、境界性パーソナリティ障害、双極性障害などがあげられます。
いずれにしても、ADHDをもつ大人が社会に適応するのはとても困難なことです。では、一体どうしたらその「生きづらさ」を軽減することができるのでしょうか?
■生きづらさを改善するために~悪いのはあなたではなく、ADHDの特性~
まずは、「自分がADHDである」ということと、その行動特性を理解することです。多くのADHDの人は、これまで自分のことを「いい加減な奴だ」「やる気がない」などと否定的に受け止められていたと思います。
しかし、それを「やる気」の問題ではなく、「ADHDという特性によるものだ」という風に意識を変えることによって、自分自身を肯定的に受け止めることができます。
また、社会生活の上でも自らいろいろ工夫していくことで、生活がスムーズに送れるようになります。
例えば、「人の話を聞いても覚えていられない」のなら、「きちんとメモを取って忘れないようにする」と常に意識することです。
部屋を片付けられないという場合には、「重要な書類はここに入れる」「いらないものはきちんと捨てる」などとルールを決め、練習を重ねていくことによって整理整頓ができるようになります。
スケジュール管理ができない場合はスマートフォンのメモ機能やアラーム機能、また手帳に予定を書き込んでいつも持ち歩くなどすることによって、遅刻をしたり約束を忘れるリスクも低くなります。
このように、自分で工夫してできることは積極的に行っていくことによって症状の改善に効果はあると思います。
また、周囲の人に「〇〇するのを忘れていたら一言掛けて」など協力の依頼をするのも予定や約束を忘れないための対策の一つです。
このように周囲に自分自身の特性をオープンにし、必要な時は他の人の手を借りる、というのもADHDを克服するにあたっては大切なことです。
専門的な治療法としては、薬物療法や心理教育があげられます。薬物療法では、医師の適切な判断のもと特性にあった薬が処方されるため、それを服薬することによって症状の改善を目指します。
心理教育では、一般的には治療者とともに、今まで「怠け」「やる気がない」ととらえられていたトラブルや問題などが自分の性格のせいではなく、ADHDによるものだったというように認識を徐々に変えていくことによって、自己肯定感の回復を図ります。
ADHDには、自分でできる対処法や、また専門機関を頼る方法など、様々な対処法があります。
それぞれ自分に合った治療によって、自分がADHDであるということを自覚し、付き合い方を学んでいくことで、日常生活を過ごしやすくしていけると良いと思います。
■自分の人生をより豊かにするために~自分自身を理解する~
いかがでしたでしょうか?ADHDは脳の機能障害によっておきたものとされており、なかなか風邪などのように「薬だけで完全に治す」ことはできない疾患です。
ADHDの場合、「治す」というよりは、「症状とうまく付き合いながら日常生活をよりよいものにする」、といったほうがいいかもしれません。
自分がしっかりと症状を自覚することによって自己理解が深まり、肯定感も回復します。また、「自分にはこういう特性があるんだよ」と周りに知ってもらうことによって、周囲の理解も得られ、困ったときに助けを得やすくなります。
自分がきちんと自分自身を理解すること、また周囲の人にも自分の特性を理解してもらうことによって、日常生活でのストレスは軽減すると思います。
日常生活をより有意義なものにするために自分の特性をしっかり理解して、ADHDとうまく付き合っていけることを願います。
著者 もち猫
福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。