「補助犬」について知ってはいても、どんな役割を担っているのかご存知ではない方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そこで、今回は身体に障害がある人のサポートをする「介助犬」視覚に障害がある人のサポートをする「盲導犬」聴覚に障害がある人のサポートをする「聴導犬」について解説します。
介助犬は身体に障害がある人に代わって落としたものを拾う、ドアの開閉をする、指示されたものを持ってくるなどのサポートを行う犬です。
盲導犬は道を歩いていて角を使用者に教えたり、信号で止まったりすることによって段差や障害物を教えるなど歩行のサポートを行います。
聴導犬は使用者にタッチをすることなどによって玄関のチャイムの音を聞き分け来客を教えたり、目覚まし時計の音を教えるなど日常生活で必要な様々な音を伝える役割をします。
このように、補助犬は使用者にとって大切なパートナーなのです。
そんな3種類の「聴導犬」についてまとめました。
■身体障害者補助犬法とは?
補助犬は、平成14年に施行された「身体障害者補助犬法」に基づき、それぞれの障害に合わせて適切なサポートができるよう訓練を受けています。
「身体障害者補助犬法」では、スーパーやレストランなど不特定多数の人が出入りする民間施設などに対して、補助犬同伴でその施設に入ることができるように義務付けています。
しかし、レストランやホテルなどでは衛生面、また他の宿泊客の迷惑になるなどの理由で補助犬同伴での入店を拒否してしまうこともいまだに見受けられます。
しかし、補助犬は予防接種も受けていますし、常に清潔さを保っています。そのため補助犬同伴が義務付けられている民間施設には問題なく入れるはずなのです。
それなのに何故お店などを利用するのを断られるかというと、補助犬に対しての理解が未だ広まっていないからだとも言えます。
その対策として施設の使用者さんに補助犬について周知するために厚生労働省では「welcome! ほじょ犬」と書かれたステッカーを作成しました。
これをお店の入口に貼ることで「補助犬を受け入れている」ということも分かりますし、施設を利用する他のお客さんにも「ここには補助犬同伴のお客さんがいるかもしれないな」と一目で分かるようになっています。
そして何より、補助犬同伴で施設に入る当事者にも「ここは補助犬に対して理解がある」という安心材料にもなるのです。
★補助犬の目印は?★
盲導犬は白か黄色のハーネス(胴輪)をつけていますし、介助犬、聴導犬は胴着にそれぞれの認定番号や補助犬の種類を記載してあるものをつけています。
使用者は、認定証を持ち歩くことが義務付けられているほか、補助犬の公衆衛生上の安全性を証明するため「身体障害者補助犬健康管理記録(以下、手帳)」も携帯することとされています。
もし施設を利用している人でペットか補助犬かわからない場合は「認定証を見せて頂けますか?」と尋ねてみましょう。これは使用者にとって失礼なことではありませんのでご安心ください。
補助犬は使用者をサポートする大切な相棒です。見かけても食べ物をあげようとしたり、触ろうとすることは補助犬の気が散ってしまうため控えてください。そこからトラブルに発展する危険性もあります。
そんな事故を起こさないためにも、普通の「ペット」と同じような扱いはしないでください。
■介助犬とはどのような犬?
介助犬は、手や足に障害がある人のサポートをする犬です。使用者の手や足の代わりになり、日常生活動作の手伝いをします。
どんなことをするかというと
・使用者が落としたものを拾う
・ドアの開閉をする
・使用者が指示したものを使用者のもとまで持ってくる
・何か予期しない出来事が起きた時に人を呼びに行ったり、緊急ボタンを押す
・衣服を脱ぎ着するときの補助
・車いすを使用する際のサポート
などの役割を担っています。
「身体障害者補助犬法」では、介助犬同伴で、障害がある方も様々な施設を利用できるよう定められています。
介助犬同伴で利用できる施設としては
・国や地方公共団体などが管理する公共施設
・公共交通機関(バス・タクシー・電車など)
・不特定多数かつ多くの人が利用する民間施設、飲食店、病院、ホテルなど
・国や地方公共団体などの事務所、従業員43.5人以上の民間企業
などが挙げられます。
介助犬の指示語については、動詞は英語、名詞は日本語で行います。動詞は約60語、名詞は約30語あります。
例を上げましょう。例えば「冷蔵庫からジュースを持ってくる場合」です。
1.PULL(プル)……(冷蔵庫のドアを)引っ張って開けて!
2.Bring(ブリング)……私の所に持ってきて。
3.Give(ギブ)……渡して。
4.Ok.touch door(オーケー、タッチドア)……いいよ、ドアを閉めて。
このような流れで、ジュースを自分の所に持ってきてもらいます。
「ジュースを冷蔵庫から出して私の所まで持ってきて」というのを日本語で伝えようとしても、介助犬には難しいのです。一語一語短く区切ることで介助犬も指示が分かりやすくなります。
使用者と共に生活していれば「新聞は?」「Take a newspaper」というだけでも理解できるようになります。
しかし、新しい仕事を教える時は動詞と名詞の組み合わせなど、介助犬が理解しやすいように工夫して組み合わせていかなくてはなりません。
また使用者は、出来る限り自分の力で介助犬のケアをします。使用者自身がケアを行うことで、愛情が深まったり、介助犬との信頼関係も築くことができるのでしょう。
介助犬は、使用者の日常生活のサポートをし、生活の質(QOL)をあげる大切なパートナーです。そして、使用者を支援するために厳しい訓練を受けてきています。
お店などで見かけても「何で犬が店の中にいるんだ」などと冷たい目で向けるのではなく、「この犬(介助犬)は使用者の大切なパートナーなんだな」と受け入れてあげてください。
■盲導犬とはどのような犬?
盲導犬は、目の見えない人・見えにくい人が歩く際に段差を教えたり、信号で止まったりして安全に出かけることができるようにサポートする犬です。
1978年の道路交通法の改正により盲導犬に関する規定が定められました。車両の一時停止や徐行の義務により、道路を利用する際も保護を受けています。
盲導犬も「身体障害者補助犬法」の認定を受けた犬です。
盲導犬が胴につけている白い胴輪を「ハーネス」といいます。ハーネスを通して使用者の動きが伝わるため、使用者は安心して道路を歩くことができます。
例えばハーネスが右に少し動いていると右に角がある、ハーネスが少し上に動いてストップすると昇りの段差があるなどそれぞれの動作に意味があります。
そのようなハーネスを通じて伝わる動きから伝わる情報が、目が見えない人・目が見えづらい人の安全な歩行につながっていきます。
★盲導犬になるまでの道のり★
盲導犬の候補となる犬は、盲導犬協会が飼っている「繁殖犬」から生まれてきます。生まれてから約60日間、親犬やきょうだい犬と共に育ちます。
同時に犬の成長に人が関わっていくことで、子犬たちは人に対しての恐怖感などを抱かなくなり、友好的になる傾向にあります。
生後2ヶ月くらいになると1歳になるまでの約10か月間の間「パピーウォーカー」と呼ばれるボランティアの家庭ですくすくと育っていきます。
この間に、色々な所に出かけたり、家庭で人との関わりを学んでいくことによって犬の「社会化」がなされていきます。
1歳を迎え、盲導犬協会に子犬たちが戻ってくると訓練が始まります。まずは「適正評価」によって、盲導犬に向いているかどうかが判断されます。
そして、協会の人達は一頭一頭の犬たちの個性を把握していきます。
盲導犬の素質があるとされた犬は、盲導犬訓練士による訓練を受けることになります。
その犬の個性や性格に応じた形での訓練を訓練士が行っていくのです。
まずは基本訓練と呼ばれる訓練を行います。
犬に指示を出し、その指示通りの動きができるようにする訓練です。
できたことを褒め、間違ったらきちんと正しいことを教えることで指示を正しく理解できるよう訓練していきます。
次に誘導訓練です。誘導訓練は、使用者が道を歩く際に障害物を回避させたり、段差や交差点などを知らせるといった訓練です。
訓練の際には先ほど紹介した「ハーネス」を装着します。視覚障害がある人は、進む・止まる・左右に曲がるといった動きをハーネスを通じて感じ取ります。
コーンやバーを用いた基礎的な誘導訓練から、実際に街中を歩いての実践的な誘導訓練まで行います。
最終段階では、訓練士がアイマスクをして歩行動作の確認をします。
また、使用者の指示が危険であると訓練犬が感じた時に指示にわざと従わない「不服従訓練」の練習も行います。
使用者が安心して歩行できるように、危険を回避できるよう正確な動きができるようにするためです。
それが終了すると、実際に目が見えない人との共同訓練が始まります。
視覚障害がある人は犬のケアを学び、またパートナーとなる犬との信頼関係も深めていきます。歩行技術はもちろんですが、使用者としての知識やマナーも取得していきます。
最初はぎこちないかもしれませんが、訓練の回数を重ねていくうちに犬との信頼関係も深まり、良いパートナーとして付き合っていくことができるようになります。
そして最終試験に合格すると盲導犬と正式なパートナーとなることができます。
しかし、候補犬の中には‶盲導犬としての素質がない〟と判断される犬も出てきます。
そういった犬は「キャリアチェンジ犬」としてキャリアチェンジボランティアへと引き取られていきます。
「キャリアチェンジ犬」とされた犬は、愛情をもって育ててもらえる家庭へ譲渡会などを通じて譲られていきます。
キャリアチェンジ犬を引き取るボランティアは「キャリアチェンジボランティア」と呼ばれ、キャリアチェンジボランティアになるためにはいくつかの要件があります。
その要件をクリアした家庭が一時預かりなどを通じて相性のいい犬を見つけ、生涯愛情をもって育てていくことを第一条件に譲り受けるのです。
★盲導犬はどのような時に利用する?★
目が見えない人でも外の世界の楽しみは味わいたいものです。
そこで
・散歩を楽しみたい
・目が見えていた時のように歩きたい
・自分が出かけたい時に自由に出かけたい
・夜も日中と同じように歩きたい(夜盲のため)
・障害物を避けて街中を歩きたい
こんな時に、盲導犬の利用を検討してみてはいかがでしょうか?
使用者になるためには盲導犬との厳しい訓練がありますが、パートナーとなれれば自分が好きな時に、好きなところに行くことができると思います。
出かける時には相手の都合も考えなくてはならないなどお困りの方は、盲導犬をパートナーとして迎え入れてみてはいかがでしょうか。
■聴導犬とはどのような犬?
聴導犬とは、生活に必要な音を聞き分けて、使用者のからだにタッチするなどして音の元へと連れて行ってくれる犬のことをいいます。
例えば
・携帯電話の音
・玄関のチャイムの音
・目覚まし時計の音
などの音を聞いて、使用者を音の元まで誘導してくれます。
「音が聞こえない」という不安を減らし、使用者が快適に生活を送っていけるようにサポートするのが聴導犬の仕事なのです。
聴導犬がいることによって聴覚障害がある人が「ごく当たり前の生活」を送れるのが大きなメリットです。
また、警報機の音を知らせるなどして使用者のいのちを守るのも聴導犬の大切な仕事です。
そして、もう一つ大切なのが「見えない障害」である聴覚障害を聴導犬が一緒にいることによって「見える障害」として周りに認識してもらえるようにすることです。
聴導犬は「聴導犬」と書かれた「ケープ」を身に付けています。そのため、駅で緊急アナウンスが鳴った時に周りの人が気づき、メモに内容を書いて教えてくれた、というケースもあるようです。
★どうやって聴導犬になる?★
聴導犬の候補犬の選抜方法は3つあります。
1つ目は自家繁殖です。パピー・ファミリーと呼ばれる人たちの家庭で1歳になるまで育てます。1歳になると訓練センターに戻り、適性検査が行われます。そして適正と判断された犬は晴れて候補犬となることができます。
2つ目は、捨てられた犬を動物愛護センターから引き取って訓練する方法です。その際、良き家庭犬テストや音反応テストなどを行い適性検査を行います。
3つ目は聴覚障害がある人がすでに飼っている犬を聴導犬として訓練する方法です。
「家の犬を訓練してほしい」という希望があると、良き家庭犬テストと音反応テストを行い適性があるかどうか判断します。
候補犬となれた犬は10ヶ月の基礎訓練と聴導動作訓練が終わった後、使用者と「合同訓練」と呼ばれる訓練に参加します。
それを修了したら、厚生労働指定法人における「身体障害者補助犬認定審査会」に合格することによって聴導犬となることができます。
聴導犬は10歳まで活躍し、引退した聴導犬は「引退犬飼育ボランティア」によって引き取られていきます。
また、聴覚に障害がある人が元々飼っていたという場合はその家庭で生涯をすごしたり、パピー・ウォーカーのもとにまた引き取られていくという場合もあります。
■まとめ
介助犬、盲導犬、聴導犬、どの犬も厳しい訓練を受け、障害がある人のために一生懸命サポートしてくれます。
ここで再度補助犬を見かけてもやってはいけないことを載せておきたいと思います。
・声をかけたり、口笛を吹いたりしない
・食べ物を与えない
・急に撫でたりしない
・ハーネスを触らない
・じっと前から見ない
などです。
補助犬が街に出ている時は「仕事をしている時」です。この様な行為をされると気が散ってしまい、仕事に集中できなくなる場合もあります。しかし、補助犬は使用者のいのちを守る大切な仕事をしているのです。
街で補助犬を見かけても「やさしい無視」をするのも一つのマナーです。
興味がわいたとしても「補助犬たちはパートナーを守る仕事中なんだ」ということを頭に置き、使用者が安全に街を歩けるように配慮しましょう。
また、補助犬同伴可の施設で補助犬を見かけても「不衛生だ」「動物が店の中にいるなんて」などと思わず「補助犬同伴の人も買い物(食事)を楽しんでいるんだな」とやさしくとらえてください。
障害のある人もない人も安心して出かけられる環境が整うと良いですね。
著者 もち猫
福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。