皆さんは、「非定型うつ病」という病名を聞いたことがありますか?「非定型うつ病」は、嫌なことをしているときは憂うつであるのに、好きなことは楽しめるので、「甘え」や「わがまま」と誤解される事もあります。そんな「非定型うつ病」とはどのようなものでしょうか?
■典型的なうつ病、~定型うつ病~
非定型うつ病について見る前に、昔から見られる「定型うつ病」の症状について触れておきたいと思います。
定型うつ病の主な精神・身体症状としては、
・気分が落ち込む(抑うつ気分)
・やる気が出ないなどの意欲の低下
・今まで好きだったことに興味を持てない
・死にたいと思ってしまう(希死念慮)
・食欲の低下、それによる体重の減少
・早朝覚醒、夜中に目が覚める、なかなか寝付けない
などがみられます。
1日のうち午前中が特に調子が悪く、夕方になるにつれ少しずつ症状が弱まってくるのが特徴です。(日内変動)
ただ、うつ病が進行し症状が軽度から重度へと移行していけば、抑うつ気分などが1日にわたって見られることもあります。
うつ病になりやすい性格としては、
・几帳面で、真面目である
・頑張り屋
・責任感が強い
・仕事熱心で、ストレスをためやすい
などがあげられます。
うつ病になりやすい人は、仕事熱心で、責任感が強いため傾向があるため、ほかの人に仕事を頼まれても嫌と言えず、ついついオーバーワークになってしまいがちです。
これらのうつ病になりやすい人の性格特性はメランコリー親和型性格、執着気質などと呼ばれます。
さらに、ストレスの発散もあまりうまくないため、自分の中にため込みがちになります。そのストレスが積み重なり、結果としてうつ病になってしまうというパターンがあります。
また、ライフイベント(人生での出来事)をきっかけにしたうつ病もあります。例えば、配偶者の死や、リストラなどです。
それとは逆に、本来は嬉しいことであるはずの子どもの自立や結婚などが引き金となり、うつ病を発症する可能性もあります。
大きなライフイベントがあったり、上にあげた症状に当てはまる人で、
・最近仕事に身が入らないな
・集中力が落ちてきたな
・会社に行きたくないな
などと感じる方がおられましたら、定型うつ病の要注意のサインかもしれません。
■「非定型うつ病」って?~定型うつ病との違い~
これまでは「定型うつ病」の特徴などについて見てきました。それでは、近年注目されるようになってきた「非定型うつ病」とはどのようなものなのでしょうか?
非定型うつ病の主な精神・身体症状としては、
・気分の落ち込み(抑うつ気分)が突然激しく現れ、嵐のように気分がアップダウンする
・他人の些細な一言で傷つく
・自分のやりたいことはできるが、嫌なことはできなくなる
・パニック発作を起こすことがある
・過去の心的外傷体験がフラッシュバックする
などがみられます。
定型うつ病では一般的に午前中に調子が悪くなる傾向がありますが、非定型うつ病では仕事や学校が終わり、自由になる夕方にかけて調子がよくなっていう傾向があります。
非定型うつ病になりやすい人としては、
・自分が人からどう思われているかを過剰に気にする
・他人の目を常に気にし、叱責されたり批判されることを嫌がる
・他人に気に入られようとして、自己犠牲の精神をもつ
・会社ではあまり意欲的ではないのに好きなことに関してはエネルギッシュに活動する
・自己愛が強い
などがあげられます。
自己中心的でわがまま、依存心が強い、自尊心が強く、傷つきやすいなどの傾向も見られ、これは「ディスチミア親和型」と呼ばれます。
好きなことはできるが嫌いなことには身が入らないという場合もあり、周囲からは「甘えなのではないか」「自分勝手だ」と思われることもしばしばです。
主に非定型うつ病でみられる症状としては、抑うつ気分がまるで嵐のように突然激しく現れ、気分がアップダウンすることです。
しかし、そのアップダウンはあまり長続きしません。会社で嫌なことがあったとしても、翌日が休日であったりすると友人と買い物を楽しむなど休日を謳歌することができてしまうのです。
これを「気分反応性」といいます。「好ましいことがあると気分がよくなる」が、「嫌なことがあると気分が悪くなる」というような症状です。
しかも気分が悪くなったときの落ち込みはとても激しいものです。これが非定型うつ病の症状であり、本人がそうしているのではないのです。
このような傾向は「定型うつ病」では見られない特徴であり、現代社会で多く見られることになった「非定型うつ病」で特によくみられるようになった症状であるといえます。
■どうしてなる?~非定型うつ病の背景~
この病気の背景としては、親の養育態度も大きくかかわっています。少子化が進んでいる現代、一家族の中の子どもの数も減少傾向にあり、一人の子どもに対する過保護、過干渉がみられるようになってきました。
最近の親は、教育熱心な親が多いように思います。そのため、小さいころからいろいろな習い事をさせたり、英才教育を子どもに受けさせようとする場合もあります。
しかしそれとは裏腹に、ストレスが多い現代を生きている大人は、会社での不満などのはけ口として子どもに八つ当たりすることもあります。
多くの場合、子どもはそのような大人の都合に振り回されながらも、親の愛情を求めて「良い子」でいようとします。
「良い子」を演じ続けると、ひどく叱責される機会もなく児童期を過ごすことになり、怒られる、ということに対しての免疫もないまま大人になります。
すると、社会人になって初めて厳しい指導や教育を受けることになります。怒られる・注意されるという経験が乏しい彼らはそれに対して恐怖感や苛立ちを感じ、やる気や意欲を失ってしまう場合もあります。
競争社会を生き抜いてきた中高年層に言わせれば、「なんでこんなことで…」ということでも、彼らにとってはとてつもないストレスなのです。
また逃避的な行動をとることがあり、さらに傷つきやすいという障害特性から、会社での叱責によるストレスなどが原因で深く傷つくこともあります。
それによって会社を休みがちになったり、ひどい場合はひきこもってしまうこともあります。
■「非定型うつ病」の対処法~本人と周囲で協力して乗り越えよう~
非定型うつ病の治療では、まずは1日のリズムを整えることが大切なことです。朝は毎日、決まった時間に起きます。
朝自分で起きられない、という場合は、家族などが起こしてあげることによって、だんだんリズムをつくっていくようにします。
なぜ「朝きちんと起きる」ことにこだわるかというと、非定型うつ病の特徴的な症状に、夜間あまりよい睡眠をとれずに、その眠気から昼寝をしてしまい、結果的に昼夜逆転の生活に陥ってしまう、ということがあるからです。
この「質の悪い睡眠」を改善することにより、過眠や昼寝を防ぎ、その日の夜の睡眠の質を上げます。それによって、翌日起きるのが楽になるはずです。
また、食事も大切となってきます。朝は食欲があってもなくても、少量でもとるようにします。
これも1日のリズムを作ることにとっては大切な要素だからです。昼食・夕食もきちんととることを心がけてください。
家族と同居している方は、一緒に食事をすることによって、寂しさ、孤立感の解消にもつながります。
非定型うつ病の人には「傷つきやすい」という特徴があります。その為、周囲は「近づきすぎない距離」をとって接することが大切です。
なぜなら、あまりにも「近い距離」をとっていると、もし不安定な関係・接することができない状態になったとき、患者は自傷行為や自殺企図などの危険な行為に走ってしまうかもしれないからです。
近づきすぎない距離をとるために、例えば非定型うつ病の人の電話が長くなりそうだな、という場合は「30分しか時間がないけどいい?」とあらかじめ告げます。
すると、何も告げずに30分で無理やり電話を切り上げるより、患者の「傷つきの度合い」も少なく、適切な距離を保つことができます。
また、患者をなるべく1人きりにさせないことも重要なことです。先述しましたが彼らはとても「傷つきやすい」存在なので、1人ぼっちになると、孤独感や孤立感が高まってしまいます。
しかし、「いつも誰かがそばにいる」ということは不可能に近いです。患者の孤立感が高まって誰かに頼りたいときにつながる、ホットラインを教えておくことも1つの手です。
そうすれば、孤立感による危険な行為等を防ぐことができ、患者も安心できるでしょう。また、医者選びをするときにも周囲とよく相談することも大切です。
非定型うつ病は従来のうつ病とは治療法も異なりますし、またすべての医師が「非定型うつ病」という病名と症状を把握しているとは言えない可能性があります。
よく相談して病院に行っても、その医師の方針や処方される薬が合わなかったりすれば、家族も含め相談の上、医師を変更することも考慮するべきです。
周囲と協力して、一歩ずつ回復に向かっていけることを願います。
■「非定型うつ病」克服に当たって~自分の努力と周囲の援助~
非定型うつ病を克服するには、まず基本的な生活リズムをつくることからはじめていきます。
なぜなら、患者は自分に甘いという特性をもっているため、睡眠においても「もうちょっと寝ていよう」「今日はゲームがやりたいから夜更かししよう」などと、不規則になりがちなためです。
規則正しい生活リズムを身に着けることも、この病気の克服にとっては大切なことです。また、医師選びも大切となってきます。
自分に合う、合わないも大切ですが、「非定型うつ病」という病気をすべての精神科医がわかっているかというと、確実ではありません。
「非定型うつ病」という病気をきちんと理解し、治療法も確立している医師をきちんと選ぶことによって、患者の予後はきっといいものになると思います。
上記のような対策を参考にしていただき、より早い回復を願います。
著者 もち猫
福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。