障害者雇用~障害者が特性を活かして働ける社会へ~

障害者の就労
Gerd AltmannによるPixabayからの画像

みなさんは一般で働くほかに「障害者雇用」という働き方があるのをご存知ですか?
障害者雇用とは、障害があっても一般企業で働きたいとういう人が「障害があるから」といって差別されることなく働ける制度です。

障害者雇用には合理的配慮というものが定められています。
例えば車いすの人が働きやすいように職場をバリアフリーにするなど、その当事者にあわせて「働きやすい環境を整えること」です。

筆者も障害者雇用を利用してアパレル会社で働いていました。筆者は統合失調症当事者で、対人緊張があったり、不安が高まるとパニックを起こしてしまう事もあったため、レジ業務は外してもらう・品出しなど裏方の仕事を主に担当するなどの配慮をして頂きました。


他にはマネキンのディスプレイや値下げ作業など、他のスタッフのサポート業務に専念し3年間働きました。店長さんやスタッフの方も障害に対して理解があり、感謝しています。

筆者が利用した「障害者雇用」について当事者側からだけでなく、企業側から見たメリットなども紹介していきたいと思います。

■障害者雇用とは?~対象者やメリットなど~

障害者雇用の根拠法は「障害者雇用促進法」です。この法律の理念は

‶国民が障害の有無にかかわらず、すべての人がそれぞれの希望や能力に応じて、地域で
 自立し尊重される生活を送ることができる共生社会をめざす〟

というものです。

この理念の中にはノーマライゼーション (障害のある人が障害のない人と同等に生活し、ともにいきいきと活動を目指すこと)の理念が入っています。

目的としては

〝障害者の雇用義務等に基づく雇用の促進等のための措置、職業リハビリテーションの措置等を通じて、障害者の職業の安定を図ること〟

とされています。


★障害者雇用を利用できる人は?★
以前までは身体障害者、知的障害者だけが対象でしたが、2018年から発達障害を含む精神障害者も障害者雇用率の算定に含まれるようになりました。

障害者雇用促進法では障害者の定義

身体障害や知的障害、発達障害を含む精神障害、その他の心身機能の障害により、長期にわたり職業生活に相当の制限を受ける者、あるいは職業生活を営むのが難しく困難な者

としています。

障害者雇用を利用できるのは、以下に当てはまる人です。

1.身体障害者(身体障害者手帳の交付を受けたもの/重度身体障害者を含む)
2.知的障害者(手帳及び知的障害者と判定する判定書保持者、重度知的障害者含む)
3.精神、発達障害者(症状が安定し、就労が可能な人)
4.精神障害の特性・疾患があるが、症状が安定し、就労が可能な人(手帳なし)
5.1~4以外の心身機能の障害があるが、手帳を持たない人

後ほど紹介しますが、「法定雇用率」の算定の対象となるのは手帳を持っている1~3に
該当する人たちです。

■障害者雇用のメリット・デメリット~利用者編~

★障害者雇用を利用しない場合★
同じ障害を持っている人でも、その障害をオープンにはせずに(周知せずに)一般企業で働いている人もいます。しかし、その人は障害があることを企業側に伝えていないので、その障害についての配慮は何も受けられません。

障害がない他の社員と同様に扱われますし、病気のせいで体調が悪くなってもなかなか休みを取りづらいと思います。

また「障害があるのを周りに知られたくないから」といってオープンにしていないのなら、それをいつか誰かが知ってしまうのではないかというこころのストレスも大変なものになると思います。

また、障害を周知していないため「自分には難しすぎる仕事だ」と思っても断りづらい、という面もあります。

★障害者雇用を利用した場合★
しかし、障害者雇用を利用して就職した場合、自分の障害についてオープンにしているので、様々な配慮が受けられます

まず、会社選びの時に「障害者枠」に応募することができます。ハローワークには障害者専門の窓口があるので、そこで就職について話し合いを進めていきます。

また精神障害などの場合定期的に通院することもあると思いますが、障害のことを企業に知っておいてもらえば通院日は休みにしてもらえるなど、配慮を受けられます。体調が悪くなった時も伝えやすいですし、休憩を取らせてもらえる場合もあります。

そしてなかぽつ(障害者就業・生活支援センター)などを利用して障害者枠で就職したときは、支援員が定期的に訪問してくれ、その時々の悩みを聞いてくれます。

それを企業と共有することによって、当事者がより働きやすい職場環境を整えていくことができます。

このように、障害をオープンにして障害者雇用制度を利用して働くと「自分らしく、働きやすい環境で」仕事ができるようになります。こういった点が、障害者雇用のメリットといえるのではないでしょうか。

★障害者雇用のデメリット★
ただ障害をオープンにしているので「障害者だから」といった目線で見られることもあるでしょう。また、現状では障害者の求人は少なめであるため、自分が働きたいと思う職種の募集がないことがあります。

筆者の場合も、本当は対人の仕事を避けて、自分の持っている資格を活かした仕事がしたかったのですが、そういった専門職での障害者雇用の募集はありませんでした。しかし、障害を周りに知らせずに働くのは難しいなと思ったため、偶然家の近くで障害者雇用の募集があったアパレル会社に障害者雇用で就職したのです。

■障害者雇用はどこで探す?

★障害者雇用は様々な所で探せる★
障害者雇用を見つけるにはどこへ行けばいいかというと、まずはハローワークの障害者専門窓口があげられます。

ハローワークに行った際に障害者登録をしておくと、障害者専門窓口での就職活動が行えます。専門のスタッフが常駐しており、障害がある人が職を探す際のサポートをしてくれます。

またハローワークによっては、障害者求人の就職フェアや企業合同説明会を行っているところもあります。

★なかぽつを活用しよう!★
次に挙げられるのは、障害者就業・生活支援センター(以下なかぽつ)です。
なかぽつは、こんなときに利用します。

・働きたいけれど何から始めればいいかわからない
・体調がなかなか安定しない
・障害の特性で自分では仕事を探しづらい
・長く働き続けることが難しい
・職場の人間関係に悩んでいる

などです。

なかぽつを利用できる人としては、

身体、知的、精神障害、難病などの障害があり、センターの近くに住んでいたり仕事をしている人

とされています。

なかぽつでは、履歴書の書き方から面接の練習、基本的なビジネスマナーや挨拶などを学ぶことができます。就労後はジョブコーチなどが定着支援を行い、その人がそこで長く働けるようサポートしてくれます。

なかぽつはハローワークや自治体、地域障害者職業センターなどとも連携を取っていることから、様々な就労の情報が手に入ることが期待されます。

また生活面でのサポートも受けられることがメリットです。就労に向けて規則正しい生活を送れるよう支援してくれたり「朝起きられない」という悩みや「服薬管理が難しい」といった身の回りの相談にも乗ってくれます。

まずは日常生活を整えてから就労に臨みたいという方は、なかぽつを利用してみるといいと思います。

■障害者雇用のメリット・デメリット~企業編~


★法定雇用率って何?★
企業は、労働者の中の障害者が占める割合を定めた「法定雇用率」を達成する必要があります。

平成30年度4月以降、障害者の法定雇用率は引き上げられ、民間企業では雇用者全体の2.2%(45.5人に1人 )、国や地方公共団体、特殊法人などでは2.5%、都道府県どの教育委員会では2.4%となっています。

この「法定雇用率」というのは

障害者が能力を最大限発揮し、適性に応じて働くことができる社会

を目指して制定されました。

詳しくは割愛しますが、「特例子会社(障害者を雇用するにあたって、特別な配慮をする会社)制度」というものもあります。

これは大企業などが障害者を多数雇用する一定の要件を満たす特例子会社を設立した際に、雇用率を親会社と合算できるという制度です。

★法定雇用率達成企業には報酬が★
法定雇用率に則ると、常用労働者数100人以上の場合、障害者一人不足分につき5万円の納付金を納めなければなりません。

法定雇用率を達成すれば障害者雇用調整金、または報奨金がもらえます。 令和3年現在、 障害者雇用調整金としては超過一人分月額2万7千円(常用労働者100人以上)、報奨金としては超過一人分につき月額2万1千円が支給されます(常用労働者100人以下)

この調整金、報奨金の財源は‶常用労働者100人以上の企業であり、法定障害者雇用率が未達成の企業〟から徴収することになります。つまり前述の「納付金」を財源にしているのです。

このようにして法定雇用率を達成できないと納付金を納めなければならず、法定雇用率を達成すれば報酬がもらえるため、大企業などは障害者の雇用も積極的に行うようになってきています。

なぜ報酬が支払われるのかというと、障害者を雇う際には設備の改良や増設、相談員の配置、合理的配慮の提供や雇用管理などに対する費用が必要になるからです。

さらに、法定雇用率を達成している企業としていない企業の間に、経済的アンバランスが発生してしまうというのも理由の一つになります。

法定雇用率を達成していないということは、障害者に対する配慮(環境整備など)に財源を割いていないということです。そのため、法定雇用率を達成している企業が合理的配慮を行うために、未達成企業から納付金を徴収する、というシステムです。

このように、障害者の雇用の促進と安定のために、調整金や納付金がある、障害者雇用納付金制度が定められているのです。

★法定雇用率を達成しないとこんなデメリットが★
事業主等には毎年6月1日に障害者の雇用状況をハローワークに報告する義務があり、未達成企業に対しては行政指導が入ります。そして、それでもなお改善しない場合には、企業名が公表されてしまうことになるのです。

名称が公表されてしまえば、障害がある人が職を探すときに「この企業はあまり障害者を積極的に雇っていないんだな」ということが分かってしまうため、余計に障害がある人の足が遠のく、という事態になりかねません。

すると、障害がある人には需要のない企業となってしまい、余計に法定雇用率を達成するのは難しくなってしまいます。

そのため、法定雇用率は達成していれば、報酬をもらえて、さらに社会的にも信用のおける企業になるので、法定雇用率を達成していることは企業にとって大きなメリットとなると思います。

■企業が障害者を雇う上で気を付けること

★障害がある人は自分のことを理解している?★
いくら法定雇用率を達成したいからといって、安易に障害がある人を雇ってもメリットばかりではありません。

・自分の障害からくる苦手さにどう対応したか
・自分の障害の程度、特性をどの程度理解しているか
・障害の特性に対して配慮してほしい点はどんなことか
・障害の特性を踏まえたうえで、この企業で毎日働き続けられるのか

など、面接の際に聞き取りを行います。

それに対してきちんと答えられているか、自分の障害についてしっかり理解しているか、そして実際にその企業で働けるだけ症状が安定しているかなどを面接の時点で見極める必要があります。

障害のことについて聞くのはデリケートな部分でもあるのですが、こういった質問にしっかりと答えられているということは自分の障害やその特性についてしっかり理解しているということです。

また、それを踏まえたうえでその企業で働きたい、という意欲を持った人材であることも分かります。そのためにも、いくら個人的なことであるとはいえ、障害に対してはきちんと聞き取っておくべきなのです。

そうすれば、症状も安定していて、仕事にもやる気がある人材を獲得することができます。また障害の特性によってはとても強い戦力になる場合もあります。

★障害者雇用を利用したい人へ★
障害者雇用を利用する当事者の方にも、「障害はあるけれど働きたい!」という強い意思としっかりした自己管理能力(食事や服薬などの管理)をきちんと備えていることが大切な要素となってきます。

ただ「やりたい仕事だから」ではなく、自分の障害についてしっかりと理解し、特性の影響が出た際にどう対応すればよいのか知っておくこと、そして、周りにはどうフォローしてほしいのかを明確にしておくことも必要です。

せっかく就職先が見つかっても、周囲が障害への理解がなかったり、自分自身が特性によってその仕事をするのが難しかったりしたら、またふりだしに戻ることになります。

就職先を決める際は、自分一人で決めるのではなく、ハローワークやなかぽつなど支援してくれる側の意見も取り入れながら、じっくり考えて職場選びをして「自分らしく、長く働ける場」を探すことが大切だと思います。

■障害者雇用まとめ

以上、障害者雇用について当事者側と企業側から見たメリットやデメリット、障害者雇用の求人を探すにはどうしたらいいか、また障害者雇用を利用する上での当事者と企業の心構えをまとめました。

障害者雇用を利用したいと思っている当事者の方は、まず自分の障害と向き合う必要があります。自分の障害の特性をしっかり理解し、そのうえで自分のやりたい仕事が自分の特性と照らし合わせるとどうなのか、というのを知るのが大切です。

いくらやりたい仕事でも周りから特性を理解してもらえなかったり、自分の特性が出て対応できない場面が多いなどとなったら、自己肯定感も下がってしまいますし、そこで働き続けるのは難しいでしょう。

自分の障害の特性を踏まえたうえで「自分に向いている仕事とは」をじっくり考えてみましょう。

企業側も、ただ「法定雇用率を達成したいから」とむやみに障害がある人を雇っても、トラブルの種となる可能性があります。

前述しましたが、面接の際に当事者が自分の特性をしっかり理解しているか、その企業で働けるだけ症状が安定しているか、企業側で配慮することは可能かなど考えたうえで採用するかどうかを決めることが必要となってきます。

障害があるからといって、マイナスな面ばかりではありません。ASD(自閉症スぺクトラム障害)がある人などは「強いこだわり」を持っている傾向にありますので、専門性を活かした部署に配置すれば高いパフォーマンスが期待できます。

企業側に身体、知的、精神、発達障害について詳しい人材を何名か配置しておくと、面接の際にその障害の特性や強みについても情報が手に入るため、戦力となる当事者が見つかる可能性もあると思います。

「自分らしく働きたい」障害がある方と「障害があっても『その人が持っている特性』を活かしたい」企業がうまくマッチングできれば、双方にとってメリットとなるでしょう。

少しでもいきいきと仕事ができる当事者の方が増えていくことを願います。またこのコラムが少しでも参考になれば幸いです。

著者 もち猫
福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。