ヤングケアラーとは?~若者が介護を担う現状~

ヤングケアラー
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最近になってよく聞くようになった言葉に「ヤングケアラー」という言葉があります。これは、親や祖父母、きょうだいなどに障害や病気がある場合に、介護者となって家族の面倒を見る若者(18歳未満)のことをいいます。彼らは、学校に通いながら年下のきょうだいの面倒を見たり、介護が必要な親や祖父母のケアを行っています。

そして、そのような家庭の状況を周りに知られたくないという思いと「どんなサービスが受けられるかわからない」といった知識の不足から支援の手を差し伸べられることなく、自分だけでケアが必要な家族を支えようとしています。

今回は、そんな「ヤングケアラー」にスポットを当て、彼らの担っている役割や、大人ができる支援など紹介していきたいと思います。

■ヤングケアラーって?~定義から彼らの役割まで~


ヤングケアラーとは

家族にケアを必要とする人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18歳未満の子ども

とされています。

年齢についてですが、ヤングケアラーのケアの先進国であるイギリスでの‶young〟は日本よりもっと低く、5~17歳の子どもたちを指します。イギリスでは18歳未満が「ヤングケアラー」、18歳以上24歳くらいまでの若者を「ヤング・アダルト・ケアラー」と呼びます。日本では、児童福祉法で児童を18歳未満としていることから、この定義を定める際も‶18歳未満の子ども〟と盛り込まれました。

★ヤングケアラーはどんな役割を担っているの?★
例えば慢性的な病気がある家族や、介護を必要とする人がいる家庭で、両親が共働きだったりすると、必然的に子どもに負担がのしかかってきます。近年は少子高齢化が進んでいること、また一家族における家族構成員の減少などから、そういった事態が起こりやすくなっているとも言えます。18歳未満という年齢で、年齢不相応な重い責任を背負うことになるのです

さらに、ひとり親世帯も増えている現在、親に障害があったり病気がちだったりすると、必然的に子どもがケアをしなくてはならない状況に陥ります。

前述のような背景から、親やきょうだい、祖父母の面倒を見なければならない‶ヤングケアラー〟の数は増加しつつあるのです。

ヤングケアラーが行っている役割としては以下のようなものがあります。

・障害や病気がある親の代わりに料理や掃除、買い物などの家事を行う
・幼いきょうだいの世話をしている
・家計を支えるためにアルバイトなどで生活費を稼いでいる
・障害や病気がある家族の身の回りの世話をしている
・介護が必要な家族のケアを行っている
・見守りが必要な家族構成員のために見守りを行っている
・情緒面でのサポート

などです。


この中でも多いのが「料理や掃除、買い物などの家事」と「年下(幼い)きょうだいの世話」です。これらは、例えば両親が共働きである、また両親が祖父母の介護に時間を取られているなどのため、子どもが代わりにやらざるを得ないといった理由から多いのでだと思われます。

いつも忙しそうにしている親の姿を見ていて「自分からケアをしようと思った」という若者も少なくありません。2021年4月の埼玉県の調査では、そのように「自分からケアをしようと思った」と答えた若者が19.1%いるという結果が出ました。

そういった若者には「自分がヤングケアラーである」という意識はあまりないようです。小さい頃から当然のようにやってきたことだから、また、自分からやろうと思ったといった理由からケアを行っており、自身が背負わなくてもいい責任を背負っていることに気づいていないのです。

しかし、このようなケアは本来大人や専門職が行うことなのです。ヤングケアラーたちは自分の人生を犠牲にして家族を助けようと一生懸命なのです。ヤングケアラー」は「ケアラー」である前に一人の子どもであることを意識してもらいたいと思います。

そんな「ヤングケアラー」の問題点はどんなことがあげられるでしょうか?

■ヤングケアラーの問題点~若者のケアにはどの様なリスクがある?~

★周りの無理解★
例えば小学生の子が病気がちの親の介護を全面的にやっていても「お手伝いをしているんだ」と捉えられることも少なくありません。なぜなら小学生の子が親をケアしているなど‶普通〟なら思いつかないからです。

その子が主体となって介護を行っていても‶一般常識〟ではありえないことです。ですから、小学生という幼いヤングケアラーが必死に介護をしていても、事情を知らない周りは「お手伝いをしている」程度にしか捉えられないのでしょう。

また、周囲は家庭の経済状況や実情を知らないため簡単に「そんなことは親に任せなさい」と言ったり「施設に預ければいいじゃない」などといった言葉を投げかけがちです。

ヤングケアラーだって「できるならそうしてるよ」という気分になるでしょう。それができないから本来勉強や部活に励みたいのを我慢して家族のケアに一生懸命になっているのです。そういった‶周りの無理解„もヤングケアラーを苦しめる要素の一つです。

★自分から‶ヤングケアラー〟であると言えない★
ヤングケアラー達は「自分がヤングケアラーである」ということはあまり周りに言い出せません。

例えば学校での話題と言ったら流行のファッション、ドラマ、音楽の話などをすることが多いでしょう。しかし、ヤングケアラー達はそんなこと関係なく、家では介護やケアに追われてテレビや雑誌もろくに見る事などできません。

そのため、スマホを使ってドラマのあらすじだけを見たり、最新の情報を限られた時間の中で手に入れ、友達関係を保とうとします。

「実は家族の介護で大変でね……。」などと言い出せば、空気も重くなってしまうことは想像するだけで分かります。その為、もし自分がヤングケアラーだと気づいていても、学校などの友人の前ではもちろん‶自分がヤングケアラーである〟ということは話せないと思います。

学校の先生に話したとしても、先生たちの役割は「学生たちが社会で必要とする力の獲得をサポートする」ことです。家庭の事情にどこまで踏み込んでいいかわからない場合も多いと思います。また主介護者としての経験がある先生ばかりではありません。

ですから、先ほど挙げたような「介護は親に任せろ」などといった無責任なアドバイスをしてしまうのです。先生を頼ろうと思ってもこのような状況では「話しても無駄だ」とあきらめてしまうケースも多いと言えます。

★自分からサポートを求めない場合も多い★
先ほどの埼玉県の調査の例を挙げると、「どんなサポートを望んでいるか」と言う項目について「特になし」と答えた若者は38.2%にも上ります。次いで、「困っているときに相談できるスタッフや場所」が16.0%となります。

ヤングケアラー達は年齢も若いため「どんなサポートが受けられるのか」「支援してもらうにはどういった手続きが必要か」といった知識が不足していることが多くあります。

それと共に「自分の家庭の事情に土足で踏み込んでほしくない」という思いや「家庭のことを簡単にわかるはずがない」といった支援を拒絶するような思いから、周りに相談するというのを拒んでいる場合もあります。

またヤングケアラー達は「今まで自分が一人で必死に頑張ってきたんだ」という自負があるため、素直に支援を受けられない面もあると思います。

上に挙げたような理由から‶彼らの自尊心を傷つけず、尚かつヤングケアラーの負担を減らせるような支援〟が必要だと言えます。

■「あなたが必要」の束縛~必要とされる快感~

                                                    ‶誰かに必要とされている〟という気持ちに抗うのはとても難しいことです。例えば介護している祖母が「あなたが必要なの」と言えば、「そうか、おばあちゃんは私だけを頼りにしてくれているんだ」と思いこんでしまい、今一生懸命頑張っているのにもっと頑張ろうとしてしまうこともあり得ます。

それに「あなたが」と言われている以上「誰かに任せよう」という気持ちも薄れていってしまうかも知れません。

「誰かに必要とされたい」というのは人間の持っている「承認欲求」と呼ばれるものにあたり、人間の基本的な欲求です。若者は承認欲求を満たしていくことによっても成長できると言われています。

その為、ケアを必要としている人から「あなたが必要なの!」と言われれば承認欲求を満たすためにも、他のことを後回しにしてケアの方を選んでしまう可能性もあります。

他の人ではなく‶自分が〟必要とされることの依存症のようなものに抗うのは子どもには難しいでしょう。愛情から生まれる関係性だからです。これはいわゆる共依存の関係性です。


共依存は‶関係性の依存〟と言われています。ヤングケアラーは、ケアしている相手からの評価に捉われ、それを自分の存在価値の判断基準としてしまいます。相手が喜んでいるから一生懸命ケアをする、自分がどうしたいかではなくて相手がどう思うかが先決……。そのため、本来なら重荷になる相手(ケアすべき相手)でも、「自分」という存在を認めるためにその存在が必要不可欠なものとなってくるのです。人のためばかりに動いていたらいつかは自分が壊れる時が来ます。しかし、共依存という関係性はとても強力なもので、簡単には切り離せない関係なのです(もちろん、ヤングケアラー全てがそうであるというわけではありません)

■ヤングケアラーを支援するには?


まずは周りがヤングケアラーの置かれている状況を把握することです。前述のデータのように「自分から進んで」ケアをしている若者もいますので、一概に「ヤングケアラーはかわいそう」と決めつけるのは良くありません。

ヤングケアラーは自身の人生を楽しむ権利があります。そこで、まずは「彼らがやっているのはどんなことか」「彼らの負担になりすぎていないか」「何らかの社会資源を使って救うことはできないか」などその子のことを‶知る〟ことです。

どこまでが自分の意思で行われていることであって、どこからが彼らの負担になっているのか。そしてその負担の部分を減らすにはどのような手立てが必要か。そこを周りの大人が考えていく必要があります。

ヤングケアラーにとって身近な大人と言えば教師や保健室の先生、スクールカウンセラーなどが挙げられます。大人が彼らの背景に‶気づき〟様々な専門職と連携を取り、彼らの負担となっている部分を取り除くにはどの職種がどのように関わっていけばいいのか考えなければなりません。

★アドバイスを押し付けない★
かといって、アドバイスを「押し付ける」ようなことはしてはいけません。まずは‶ヤングケアラーの話をしっかり丁寧に聴く〟ことから始まると思います。
「彼らが本当にサポートを必要としているのか」「一番の負担となっていることは何か」「これから先自分の将来はどうしようと思っているのか」など聞き取りを行い、必要なサポートを必要なだけ行っていきます。

なぜ「必要なだけ」かというとヤングケアラーの中には家族へのケアを‶生きがい〟として生きている人や‶やりがいを感じて〟やっている人も少なからずいるからです。それを無理に奪ってしまえば彼らは‶今までの自分の努力は何だったんだ〟という虚無感や怒りに襲われるでしょう。

そのため、もし彼らが「ここだけは自分にやらせてほしい」と言ったのだとしたら、そこは行う権利を奪ってしまわず、負担にならない程度に見守りを続けていく、という姿勢も必要です。

そしてもし彼らが「やっぱりここもサポートしてほしい」と明言したなら、専門職らがサポートの内容を考えなおしていきます。いきなり‶やりがい〟‶生きがい〟を奪うよりも、彼らの自尊心を傷つけないことの方が大切です。

★専門職の目線を活用★
例えば、家族の中にケアサービスを受けている人がいるとします。高齢や身体障害で介護が必要だったりする人です。そういった介護などを行う専門職(介護士など)には‶ケアが必要な人〟だけではなく‶家族全体の様子〟を見てほしいです。ヤングケアラーに負担がかかりすぎることがないように気を配り、必要ならサービスの見直しを行うためにケア会議を開いたり、ヤングケアラーに対するケアも行っていってほしいのです。これは‶専門職〟という立場だからこそ気づくことができるものであるため、その‶専門職としての視点〟を大切に家族を一つの「システム」として見て、ヤングケアラーの存在にも目を配っていってほしいと思います。

■ヤングケアラーまとめ

★苦しんでいるヤングケアラー達へ★
ヤングケアラーの皆さん。あなたは家庭の事情でやむを得ず家族のケアに時間を取られて学校を休みがちになってしまったり、睡眠時間さえも削って一生懸命家族のケアに努めているのではないでしょうか。

気づいてもらいたいのがあなたは‶ヤングケアラーである〟ということです。つまり、支援の対象なのです。いくら親が病気がちだから、祖父母が介護が必要だからといっても、それは専門職に任せるべきことです。

ケアを否定するわけではありませんが、それがあなたの足かせになってはいないでしょうか?だとしたらあってはいけないことです。ケアは「介護を必要とする人」にも大切ですが、「ケアを行う人」にも手厚く行われるべきです。

「仕方のないことだから」と受け入れてしまわないでください。あなたにはあなたらしい人生を歩んでほしいのです。自分だけで問題を抱え込まないでください。まわりにSOSを発信すれば、きっと誰かが気づいてくれます。「家庭の事情を知らない人に踏み込んでほしくない」と支援を拒絶したくなる気持ちもわかります。でも支援しようとしてくれる人たちを信じてみてください。差し伸べられた支援の手を握り返すことで、きっと今の状況を打開できるはずです。あなたが「ヤングケアラー」を卒業し、自分の人生を楽しめることを願っています。

著者 もち猫

福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。