HSP~繊細な人たち・傷つきやすいこころの持ち主~

HSP
congerdesignによるPixabayからの画像

今回はHSPの人たちの症状や職場・人間関係での悩みごと、また自分らしく生きていくにはどういった手立てがあるかを解説していこうと思います。


HSPの傾向や気質をもっていると、他の人が「そんな細かいことまで気にしなくていいんじゃない?」ということやHSPの気質を持たない人が気にならない刺激まで気にしてしまって、日常生活を送っていくだけでかなり神経をすり減らすことになります。


筆者であるもち猫もHSPの気質を持っており、聴覚過敏、人混みが苦手などの傾向があります。仕事をする上でも「空気」の音が気になるくらい聴覚が研ぎ澄まされるときもあり、ヘッドフォンや耳栓なしの生活は考えられません。みなさんも音や光、匂いに極端に反応してしまう、ということとはありませんか?そんな「HSP」にスポットを当てて書かせていただきます。

■HSPって?~人一倍繊細な人たち~

HSP」とは、「Highly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン)」の略語で〝人一倍繊細な人〟という意味を持ち、そういった気質を表す言葉です。アメリカの心理学者であるエレイン・N・アーロン博士によって提唱されました。

HSPの気質には4つの特徴があり、「DOES(ダズ)」と呼ばれています

D:Depth of Processing/ものごとを深く考える
  (簡単に結論が出そうなもの事であっても、様々なアンテナを張り巡らせて考える)

O:Overstimulation/刺激を強く受けやすい
  (刺激に対する反応が激しく、疲れやすい)

E::Emotional response and empathy/感情面で反応しやすく共感性がある
  (他人との間の境界線を引きづらく、相手の影響を受けやすい)

S:Sensitivity to Subtleties/かすかな刺激に反応しやすい
  (他人が気づかないような香り、音などに気づきやすい)

といったものです。HSPの気質を持った人は他の人より刺激(音、光、匂いなど)に敏感で、他の人が気づかないようなかすかな変化に敏感に反応します

アーロン博士の調査により、そんな‶繊細な気質〟は養育上の問題ではなく‶生まれつき持っている気質〟であるということがわかりました。繊細な赤ちゃんは刺激に対して鋭く反応するのだといいます。ほかの「繊細でない」赤ちゃんと同じストレスにさらされたとき、神経の昂りに関連する物質が多く分泌されます。
また神経が昂っていたり、警戒している時に分泌されるホルモンである物質も他の子どもより多く出ているというのです。

そんな‶繊細な人〟は5人に1人、つまり20%の確率で存在するそうです。

以下に‶繊細な気質を持った人〟の心理テストを載せてみましたので、興味がある人はチェックしてみてください。

★HSPチェック表★
・他人の気分に左右される
・痛みに特に敏感
・騒音に悩まされやすい
・豊かな想像力がある
・ミスをしたりものを忘れたりしないかいつも気にする
・マルチタスクが苦手
・生活に変化があるとパニック気味になる
・子どもの頃、親は自分の事を「敏感だ」「内気だ」と思っていた
・仕事をするとき、競争させられたり監視されると普段の力が出せない

上のチェック表はHSPの人の気質を抜き出してランダムに載せたものです。全部当てはまったからと言って「HSPである」とは言いきれませんが、傾向はあるでしょう。また一つか二つしかあてはまらなかった、という人でも‶繊細な気質を持っている人〟だという可能性もあるかもしれません。

★感覚過敏も特徴の一つ★
繊細な人は他の人が気にならないような「匂い」「音」「光」などに対してもとても敏感です。例えば筆者はHSPの気質が少しあるのですが、音に対してはとても敏感です。
お店に買い物に行ったときに音楽が大音量で流れていたり、人の話し声や売り込みの声が聞こえてくると帰るころにはぐったり。

そのため、出かける時や仕事の時(人が集まる場所ならほとんど)ヘッドフォンで音楽を聴き、雑音をシャットアウトして身を守っています。
匂いに敏感な人もスーパーなどは苦手だと思います。人の香水の匂いや食材の匂いなど様々な匂いが混在する場だからです。

また筆者は他人のネガティブな感情にもとても敏感です。「あの人イライラしているな」「声のトーンが違っていたから機嫌が悪いんだろうな」など感じると「私のせいかな?」「何か余計なことしたかな?」とどんどんネガティブな方向に考えが行ってしまいその日はずーんと落ち込む。そんな時もあります。他人の「負の感情」を丸ごと受け取ってしまうような感じです。

そういう‶感覚過敏〟もHSP気質の人の持つ特徴です。

■HSPの困りごと~人間関係編~

先ほどの筆者の経験談のように、人の声のトーンや表情をうかがってしまい「私のせいかな」とドキドキしたり、一日人といると疲れてしまう……。これは多くのHSPの人が抱える悩みです。

これはこころのバリア(目に見えない境界線/プライベートな部分)が薄いことからくるものです。人の気持ちに共感できるというメリットもある一方、「相手にどう思われるか」「これを言ったら相手の機嫌が悪くならないか」など深い所まで考えてしまって、相手の意見に引きずられてしまう、自分の意見があっても相手に譲ってしまう、というデメリットもあります。‶自分の本音〟がなかなか言い出せないのです。

HSPの人はいつも周囲にアンテナを張り巡らせて気を遣ってばかりいるため、仕事の終業時刻にはもうヘトヘト。ヘトヘトと言っても疲れているのは、からだだけではなくこころもです。

気を遣いすぎ、さらに仕事も「ベスト」を尽くそうと頑張ってしまうため、心身ともに疲労困憊してしまうのです。

★相手の反応に敏感すぎる★
また「他人を優先してしまう」という傾向もあります。何か相手に話したいことがあったのに‶相手が話したそうだから〟という理由で聞き役に回ってしまい、結局自分の話したかったことは話せない。

またランチの時に「私は○○が食べたいけど、Aさんは□□が食べたいと言っているから」と譲ってしまうのも、‶ちょっとしたこと〟なのでつい相手に譲ってしまい、自分の意見は封印してしまうのです。

HSPの人は、そうでない人に比べて相手の声のトーンや表情、言葉のニュアンスなどからたくさんのことを感じ取ります。そうやって‶気づいてしまう〟から自分の意見を封印して相手に譲る回数も多くなってしまうのです。彼らは「自分の意見を貫き通す」ということが苦手な傾向があります。

そういうことを繰り返しているうちにだんだん自分の意見に自信がなくなり、ネガティブで自己肯定感が低くなるHSPの人もいます。

HSPの人はうつにも関連性があるという報告もあります。彼らは常にアンテナを張り巡らせているため、周りからの余計な情報までキャッチしてしまい、ストレスにさらされがちです。それをうまく発散できないと、ストレスや負の感情がどんどんたまっていき「眠れない」「やる気が起きない」「気分が憂鬱」などといった症状が現れ、最悪の場合うつ病に陥ってしまうかも知れないのです。そういったことから、HSPの人はうつ病などの精神疾患にも気を付けなければなりません。

★じゃあ、どう対応すればいい?★
常に気を張っているHSPの人には「一人の時間」はとても大切です。あらゆる刺激をシャットアウトし、一人でのんびり、クールダウンするのです。仕事の合間に時間が空いたら、ヘッドフォンで好きな音楽を聴きながら美味しいコーヒーを飲んだり、お昼は一人で公園に行って、空や木々の景色を楽しみながらランチを食べたりと「一人の時間」をつくることが必要です。そうしないと、アンテナに引っ掛かった余分な情報がくっついたままになり、家に帰ったとたんにベッドにもぐりこんでしまう、などということになりかねません。メンタルのケアをきちんと行っていかないと、HSPの人のこころはストレスや様々な刺激によってボロボロになってしまいます

「一人の時間」を意識的に作って、アンテナから‶いらない情報〟を取り除きましょう。

「自分を大切に思うこと」も自分メンテナンスの一つです。
周りにばかり気を遣っていたり、人の相談役ばかりになっていたりするとこころは疲弊しきってしまいます。また、そういうときに「自分の意見」を言えない自分に対して苛立ちを覚えるかもしれません。

しかし、ここは「誰が私を嫌っても、どんな不器用な私でも、私は私の味方でいよう」という心構えが必要です。自分を好きになることで‶自分自身のサポーターになる〟のです。失敗した自分も、些細なミスで落ち込んでいる自分も、どんな自分も好きになる。そうすることで自分を温かく受け入れ、大切にできるようになります。

自分を好きになれれば、他人も大切にすることができます。そうすると相手の嫌な部分が見えたとしても「お互い様」と思えるようになるのです。

またHSPの人は困っている同僚などがいると「助けてあげなきゃ!」とすぐ助け舟を出してしまいがちですが、ちょっとストップ。もしあなたが助けてあげて今回は乗り切れたとしても、次同じ場面が来たら「○○さんお願い!」と嫌な仕事を押し付けられる可能性もあります。

でも、そんなことをしていたら同僚も力はつかないし「この仕事はあの人にやってもらえばいいや」とあなたを頼りにしすぎてしまうかも知れません。そうすれば、余計な仕事まで自分の仕事になってしまい、負担になる可能性もあります。

「助けたい!」と言う気持ちはよくわかります。でも、一回グッとこらえてくださいあなたが手伝ってばかりいると、その人のためにも、あなたのためにもなりませんよ。

■HSPの困りごと~職場編~
HSPの人は、やることがていねいです。しかし、何もわざと「完璧に」やろうとしているわけではなく「ただ気づいたから」「リスクを防ごうと」やっているだけなのです。

また「考えすぎて動けない」と言う場合もあります。なぜなら「ベストが分かるから」です。
HSPの人はシミュレーションが得意です。「こうすると、ああなる」というのに‶気づいて〟しまうので、「このグラフはこの色がいいかな」「他の部署が商品のデータを持っているけど、どのデータが必要かまとめていかないと失礼かな」とついつい余計なことまで考えてしまいます。

とにかくどんな仕事に対しても「ベスト」を尽くそうとしてしまうのが、HSPの人の良い所でもあり少し見直したい所でもあります。「ベスト」を尽くすのは確かにいいことですが、すべての仕事に対して完璧を求めていたら疲れ切っていつか潰れる日が来てしまいます。そうならないためには「とりあえず」や「良い加減」を習得できるといいと思います。

前述したように「ベスト」を尽くそうとしていると、マルチタスクが困難になります。HSPの人はどの仕事も「時間をかけて、ていねいに」やりたいため、やるべき仕事がどんどん溜まっていってしまいます。しかし、やるからには「ベスト」を尽くしたい……。

時には「仕事が遅い!」と怒られることも。「自分は一生懸命やっているのに評価されない」などと悲観的な思いに駆られることもあるでしょう。
しかし、相手は最初から「ベスト」を求めているわけではありません。何か「こうして欲しい」ということがあれば資料を渡した時に伝えてくれるでしょうし、そう伝えられたら「わかりました」と要望通りにやり直せばいいだけです。納期のある仕事なら、優先順位を付けなければなりません。

「ここをもっとていねいにやりたいから」と時間ばかりかけていても、相手をイラつかせるだけですし、仕事はチームでやることが多いですから、自分だけのペースで進めるわけにはいきません。特に請負などの仕事は特にそうです。そのため、この「ベスト」ばかりを尽くそうとする仕事方法を見直さなければなりません。

★じゃあ、どう対応すればいい?★
HSPの人はマルチタスクが苦手な傾向にあるため、もしできれば上司に「いくつも同時に仕事を頼まれると、混乱してしまうのでひとつずつお願いします」とお願いするのも一つの手です。

理解がある上司ならそうしてくれるでしょうし、もしできないと言われたら自分で仕事に優先順位をつけましょう。やるべき仕事を書き出してみて、納期が近い仕事からひとつずつこなしていく。もう一つ欲を言うと「ベスト」を尽くそうとしないことです。
相手に言われたことを「とりあえず」やってみる。「もっとこうして欲しい」と言われたらやり直す。

ベストを尽くそうとすると、時間がかかるばかりか「ミスをしない様に、忘れたりしない様に」するため疲労感も半端ではありません。ですから「とりあえず」「良い加減」の仕事ができるくらいにペースをセーブして、自分にも負担のかかりすぎない仕事の仕方を覚えましょう。

また「人間関係編」でも書きましたが‶人助け〟はほどほどに。
例えば自分が疲れているとき「電話が鳴っても自分ばかりが取るのではなく、3回に1回は他の人に出てもらう」などマイルールを決めるのもいいですね。仕事は「ほどよく」頑張りましょう。


★人に気軽に頼れるように★
そして「人に頼れる」ようにもなれるといいと思います。HSPの人は人の気持ちばかりを慮ってばかりいてしまうため「手伝ってください」の一言がなかなか言えないのです。

「今私が頼みごとをしたらあの人の時間を割いてしまうのではないか」などと考えてしまい、何か頼みごとをするときは「本当に困った」ときだけ。限界まで自分一人で頑張ってしまうのです。そのため「人に頼る」ことも覚えていかなければなりません。

いきなり「人に頼る」と言っても難しいかもしれませんが、簡単なことからでいいのです。‶ファイルを取ってもらう〟‶荷物を運ぶのを手伝ってもらう〟などです。


頼む時のポイントは「無理そうだったら言ってくださいね」のひと言を付け加えること。
「相手に押し付けるようで嫌だな」と思ったらこのひと言をかけてみてください。

まずはこういった簡単なことから始め、助けてもらう練習を積むことで「私も人に頼っていいんだ」と思えるようになります。小さなお願いごとをしているうちに、そこまで気を遣わなくても気軽に頼みごとができるようになりますよ。

★安全基地を作ろう★
また、こころがオーバーヒートしてしまいそうになったら逃げ込める「安全基地」を確保することも大切です。トイレや給湯室、空いている会議室など ‶自分がクールダウンできる場所〟を一か所は見つけておきましょう。

もち猫は周りからの圧迫感を感じたり(人に対する緊張感によるもの)不安に駆られたりするとトイレに逃げ込みます。トイレなら鍵をかけてしまえば誰も入ってきませんし、一人の時間を作ることができるのでクールダウンには適していると思います。トイレに駆け込んで「ふぅ……」と一旦全身の力を抜いて、そして出ていく。少しの時間ですが、これをするとこころに少し余裕ができ、新たな気持ちで仕事に取り組むことができます。メンタルを一度リセットするという意味でも、自分だけの「駆け込める場所」を見つけておきましょう。

★相談できる人を見つけよう★
HSPの人は、人一倍他の人に気を遣ってしまう性質から、なかなか‶自分の悩みごと〟を相談できないという傾向があります。何か悩みごとを相談しようと思って話しかけても相手と話すうちに相手のペースに巻き込まれ、いつの間にか聞き役に、なんてことも。
前述の「頼みごとができない」と同じように、相手の気持ちばかり考えてしまうので「今こんな相談してもいいのかな」「相手の時間を割いてしまうのではないだろうか」と深読みしてしまい、結局相談できずに時間だけが過ぎていくことになってしまいます。

もし相手の時間を割いてしまいそうで怖いなら「今お時間大丈夫ですか?」「〇時からお話したいことがあるのですが大丈夫ですか?」など相手の都合を先に聞いてしまいましょう。そうすれば「この時間なら話を聞けるよ」と相手も自分の都合に合わせて時間を作ってくれることでしょう。そして、自分の中の「いつなら話を聞いてくれるかな」という心配も晴れます。

モヤモヤをこころの中にためていては仕事にも集中できませんし、いつまでもそのことが気になってしまい気分が落ち着かない場合もあります。

口で相談できないなら、紙に悩みを書いて持っていくというのも一つの手です。もち猫も‶相談したいことがあるけど口では説明しづらいな〟と思う時はA4の紙やルーズリーフなどに書いて上司に渡します。元々話すのが苦手なので、紙に書いた方が伝えたいことが確実に伝わる、とわかっているからです。それに「お時間のある時でいいです」とひと言付け加えれば、上司の都合の良い時に読んでもらえます。

相談したいことがあるときは自分に合った方法でうまく話を聞いてもらえるように、工夫してみましょう。

■HSPまとめ

HSPとは?というところから、HSPの人の困りごと、アドバイスまで解説してきました。
HSPの人はとても繊細で、その繊細さ故にいらない気を遣ってしまったり、人のことばかり優先して生活を送っているので人と一緒にいるとヘトヘトになってしまいます。それを前述した方法でより良い方向にもっていっていただけたら、と思います。

また音や光、匂いなどに敏感という感覚過敏の人も多くいます。音が苦手ならばヘッドフォンや耳栓を使う、光に敏感なら部屋の照明を間接照明にするなど、自分なりに「暮らしやすい」環境を作っていってください。

しかし、そういう環境を作ろうと思うとやはり他の人の力が必要です。でも前述したようにHSPの人は「お願い事をする」というのは苦手な傾向にありますよね。しかし、悩んでいることや考えていることを‶言葉〟にすれば解決策を一緒に考えてくれる人は必ず現れます。

思い切って、今自分が考えていることや、やりたいと思っていることを‶言葉〟にして、さらにできるなら実際に行動に移してみてください。そうすることであなたの「生きづらさ」が少しでも軽減されるかもしれません。勇気をもって一歩、踏み出してみてください。

著者 もち猫
福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。