「アニマルセラピー」とは、動物との触れ合いによって人に癒しを感じてもらうものです。
ただのストレス解消だけではなく、認知症やうつ病などの精神疾患の予防という役割も担っています。
アニマルセラピーには、ストレスの解消やリラックス効果、意欲の向上、病気の回復のサポートの役目など様々なメリットがあります。
動物たちは病院や施設など様々なところで活躍しています。今では犬だけではなく猫も「セラピーキャット」として活動しているところもあるようです。
そんな「アニマルセラピー」についてまとめましたので、興味のある方はご覧ください。
■アニマルセラピーって?
アニマルセラピーとは、動物と触れ合うことによってリラックスしたり安らぎを得ることで、精神的な健康を取り戻そうというものです。
ひと言でいえば「動物介在療法」のことを指します。
アニマルセラピーは、動物介在療法という意味のAnimal Assisted Therapy(AAT)と動物介在活動という意味のAnimal Assisted Activity(AAA)の2種類に分けられます。
AAT(動物介在療法)は医療機関で医師や作業療法士と一緒に患者の状態に合わせて行われる治療方法の一つです。
AAA(動物介在活動)は老人ホームなどで高齢者が動物を撫でたり、動物への声かけなどを行うことによって運動量やコミュニケーションのバリエーションを増やすことなどを目的としています。
対象などの違いはありますが、日本では2つを合わせて「アニマルセラピー」としています。日本でよく行われているのはAAAの方です。
動物愛護団体などが積極的にAAA(動物介在活動)を行っているため、徐々に世間にも浸透しつつあります。
★アニマルセラピーの歴史は?★
アニマルセラピーは、古代ローマの負傷兵のリハビリに乗馬を利用したことが始まりだとされています。
「乗馬療法」というものは今でも行われています。
他にもイギリスで1700年代に精神障害者施設の患者に感情のコントロールさせる能力を身に付けさせるためにウサギやニワトリが使われていたことや、1800年代にはドイツで知的障害がある人たちのコミュニケーション能力を高めるために犬や猫と触れ合わせたという記録も残っています。
■アニマルセラピーの効果は?
アニマルセラピーは、一般的には高齢者の施設や精神障害がある人の治療の一環として用いられることが多いようです。
目的としては
・ストレスを減らすこと
・コミュニケーション能力を回復させる
・社会性を取り戻させる
ことなどが挙げられます。
こういった「機能回復」が主な目的とされています。
このコラムを読んで頂いている人の中にも動物と触れ合うことで癒しの効果を感じられる方は多いのではないでしょうか?
これは犬や猫などと触れ合うことで「愛情ホルモン」と呼ばれる「オキシトシン」が分泌され、ストレスが緩和されるからだと言われています。
動物の癒し効果は計り知れないのです。
こころを癒やしてくれるほか、身体機能の回復を促進してくれる、感情を豊かにしてくれる、高齢者の運動量をアップさせてくれるなどアニマルセラピーのメリットは多々あります。
また、前述した「コミュニケーション能力の回復」にも一役買います。
何もない状態で会話をするよう進めるよりも、犬や猫などの動物がいるほうが会話量が増え、コミュニケーションも弾むのです。
会話のきっかけづくりや会話を弾ませるためにも動物を病気の治療に介在させることはメリットがあると言えます。
★認知症へのセラピー効果★
ある程度年を取り認知症を患ってしまった場合、施設に入るケースも多くあります。
しかし、長い間施設に入っているとコミュニケーション力が低下したり、感情表現が乏しくなることもあり得ます。
また不安や苛立ちなどのマイナスの感情も起きやすくなり、情緒的にも不安定になりがちです。
そういったところに動物を介在させると、例え認知症であっても動物に興味を持って積極的に触れ合おうとしたり、動物を話題に自発的に会話を始めたり、昔飼っていた自分の犬のことを思い出して思い出話を始めるなどの変化が現れるのです。
また自発性や意欲の向上によって、生活の質やうつ状態の軽減、生活の自立度のアップなどにも貢献します。
こういった結果が得られることから、高齢者施設にてアニマルセラピーが行われる機会が増えてきているといえるのでしょう。
★精神科でのアニマルセラピー★
精神科でもアニマルセラピーは行われます。
ストレス社会と言われる現代、何らかのストレスでこころを病んでしまう人は多い傾向にあります。
そういったストレスを除去するために、治療の一環として動物を介在させるのです。
まだまだアニマルセラピーを取り入れている病院は少ないですが、取り入れている所では資格を持った専門家のセラピストがセラピードッグと共にセラピーを実施しています。
精神科でのアニマルセラピーは、専門家のセラピストに依頼して病院に来てもらう、という形が多くを占めていて、その病院にセラピストがいるというのはかなり少数です。
青森県のある病院では、実際にそこでセラピードッグを飼い、その病院の患者さんが世話をしながらアニマルセラピーを行うという活動をしています。
患者さんが行うこととしては食事の世話、散歩、犬と遊ぶ、ブラッシングをするなどです。
セラピードッグとの触れ合いによって、感情の表現が乏しかった人の笑顔が増えたり、コミュニケーション能力が上がったなどという効果が見られたという結果が得られています。
また、感情を爆発させやすかった患者さんが落ち着いたり、活動性が乏しかった患者さんの活動量が増えたという報告もあります。
さらに、アニマルセラピーはデイケアのように課題や目標などを設定せずに気軽に参加することができるため、気軽に動物と触れ合うことでストレスの緩和や孤独感の解消なども図ることができるのが特徴です。
こういった成果が見られたことから、これからアニマルセラピーが全国の精神科などの病院にも広まることを期待します。
■アニマルセラピストとは?どうやって資格を取る?
アニマルセラピストとは、人と動物が触れ合うことで癒しをもたらすためのサポートをする職業です。
特にこれといった専門資格が必要なわけではないのですが、人との適切な接し方、動物に関する詳しい知識などは必要となってきます。
民間の団体や専門学校でもセラピストの資格を取得することはできます。
専門学校では、トリマーやドッグトレーナーなどの知識を学びながらセラピストの資格を取得することもできます。また、専門的な知識や技術を学び、実際に動物と触れ合いながら学習を進めていけるのがメリットです。
専門学校でセラピストの資格を取得しようとする場合、大体年間150万円程度の費用がかかります。
通信講座ではレベル別に講座が分かれている場合もあり、大体30万円程度で資格を取得することができます。
ただ通信講座でも資格は取得できるのですが、専門学校では実際に動物と触れ合いながら資格取得を目指せるという点では魅力を感じます。
経済的に余裕があり、実践的な授業を受けたいという人は専門学校に通われる方がメリットを感じることが多いと言えます。
しかし、単に資格を取得したいという方やすでに動物関連の職業に携わっている方には割安な通信講座でも十分な可能性もあると思います。
その点は自分のスキルや学びたいスタイルによって選んでいくといいでしょう。
また、専門学校で資格を取得しようとすると2,3年かかることが多いです。その分、知識を学ぶだけでなく実習なども行われるため、充実したキャンパスライフを送れることでしょう。
通信講座では3ヶ月~1年ほどで資格を取得できることもあります。しかし、実習がないため直接動物と触れ合ったりすることはできません。
そのため、前述しましたがすでに動物に携わった仕事をしている方などはこちらでいいと思いますが、一からアニマルセラピーについて学びたいという方は専門学校の方がメリットが大きいのではないかと思われます。
■アニマルセラピーのデメリットは?
アニマルセラピーにもデメリットは存在します。
★ケガをする恐れがある★
アニマルセラピーには癒しの効果もありますが、時にはトラブルが起こり相手をケガさせてしまったり、セラピスト自身がケガをしてしまう場合もあります。
動物によっては噛みつきやひっかきへの対処法が必要になることもあるでしょう。
犬の場合ですと、セラピードッグになる訓練があり、試験に合格しないとセラピードッグとしては活躍できません。
セラピードッグとなる犬は基本的に人が好きで人懐こかったり、性格も穏やかな子が多いです。しかし、セラピードッグもストレスや不安を感じることはあります。そういった時は要注意です。
普段から動物の様子を観察し、適度にストレス解消をしてあげたり、不安を取り除くケアをすることも必要になってくるでしょう。
★感染症などがある★
医療機関や高齢者施設となると、免疫機能が低下している患者さんなども多くいます。
特に高齢者施設では年をとったことにより免疫機能が低下している人もいるため、感染症については重々気を付けなければなりません。
また、動物に対してトラウマがある人(小さい頃犬に噛まれたなど)やアレルギーがある人にも要注意です。
動物アレルギーの場合、からだに症状が現れてしまうこともあるため、アレルギーの有無を確認してからセラピーを行う必要があります。
★動物側にストレスがかかる★
動物も人間と同じようにストレスを感じることはあります。それが病気の原因となったりすることもあるでしょう。
またストレスがたまったことにより利用者さんに対して乱暴な態度を取ってしまったり、噛みついてしまったりという事故もあり得ます。
セラピストはそういった動物のストレスも敏感に感じ取りながらケアをし、事故防止に努めなければなりません。
■アニマルセラピストの仕事内容は?
アニマルセラピストの仕事には大きく分けて3つの仕事があります。
・動物介在活動
・動物介在療法
・動物介在教育
の3つです。
★動物介在活動★
お客さんの生活の質(QOL)の向上を目指す活動です。
動物と触れ合うことによって楽しいと感じてもらったり、ストレスの軽減を図るなどレクリエーション的役割を担います。
実施する場所としては、高齢者施設、介護施設などが主となります。
★動物介在療法★
動物と触れ合ってもらうことで、認知症やうつ病の回復を目的に行われるものです。
医療の面も関係してくるため、これを行うにあたっては主治医や作業療法士など医療関係者が関わり、活動のプログラムを作成することと効果判定を行うことが必要となってきます。
実施場所としては病院やリハビリテーション施設などが主となります。
★動物介在教育★
お客さんに動物と触れ合ってもらうことによって、道徳や精神を成長させることが主な目的となります。
動物を大切にするこころや、いのちを大切にするこころを学んでもらいます。
実施場所としては幼稚園や小学校が主となります。
また、アニマルセラピストはこれらの活動を行うために、動物のケアやトレーニングも仕事の一環として行います。
そしてアニマルセラピーに参加してくれる人たちと交流するためのマナーや対人スキルを磨いていくことも仕事の一環です。
「動物が好き」というのは第一条件ですが、それ以外にも対人スキルや動物についての詳しい知識を学び、お客さんにアニマルセラピーによって何らかのプラスの効果を感じてもらえるよう努力していく姿勢も大切です。
高度なコミュニケーション能力は必要ありません。あるに越したことはないのですが、動物がお客さんとの架け橋になってくれるため、円滑なコミュニケーションのきっかけとなることが多いからです。
そんな「人と人との架け橋」になってくれる動物の状態をしっかりと把握し、コンディションを整えていけることもアニマルセラピストには必要なスキルとなってきます。
そういったことから、獣医学の知識も持ち合わせていると動物のケアをするにはさらに役立ってくると思います。
アニマルセラピストは将来性がある職業と言えます。前述したように実際にプラスの効果が出ていることから考えても、これから活動の場は広がっていくでしょう。
動物が好き、人が好きという方はアニマルセラピストという職業があるということを知り、将来の自分の職業の選択肢の一つとしてもいいかもしれません。
■アニマルセラピーまとめ
以上、アニマルセラピーとはどんなものか、といったことからメリットやデメリット、アニマルセラピストについてなど解説してきました。
動物は人のこころを癒やしてくれます。一緒に暮らしている動物を撫でるとホッとする、という方も多いのではないでしょうか?
また前述した病院では実際にアニマルセラピーを行ったことでプラスの効果が得られたことが証明されています。
まだまだ精神科ではアニマルセラピーはごく少数の施設でしか行われていませんが、効果があることが実証されていることから、これからどんどん全国に広まっていってほしいと思います。
動物を介在することによってストレスを減らし、健康なこころを取り戻していく人も多いでしょう。
動物の力は計り知れないものです。アニマルセラピーによって人々に笑顔が戻ってくることを願います。
著者 もち猫
福祉系の大学卒業と同時に社会福祉士、精神保健福祉士資格取得。統合失調症。自分の体験談なども織り交ぜながら、主に福祉系のコラムの執筆を担当。